深夜の騒音
深夜の王都にひたすら騒音が響き渡る。
それは爆発音だったり破砕音だったりとなかなかに賑やかに彩られています。
暗くなっている街中でも時折昼間のように明るくなっているところを見ると魔法使いも動員さしてくれたようですね。さすがは犯罪組織と言ったところでしょうか。
『街があちこち明るいね〜』
「ちょっとしたお祭りですかね」
ただ普通のお祭りと違って歓声が悲鳴ですけどね。
私とマリーが泊まる宿の屋根の上。
そこから私とくーちゃんは街並みを見下ろしながら適当な感想を言います。
すでにフレディゴの連中はいい感じに暴れまわってます。
『マリーはどうするの?』
「マリーなら起きませんよ」
マリーは私のやろうとすることには絶対肯定的ではありませんからね。だったら先に動きを封じておく必要がありましたし。
『……なにしたの?』
「夕食に睡眠薬混ぜときました」
普通なら少量で安心なんですが何故か不安にかられたので普通の三倍ほど混ぜておきました。これで明日、いや、下手したら永遠に起きないかもしれませんが……
『もー、あとでちゃんと謝りなよ』
「ええ」
ちゃんと生きてたら謝るとしましょう。
黒の外套を羽織り、フレディゴに用意して貰った仮面を取り出します。
「いい出来ですね」
『え、趣味悪くない?』
白を貴重とした顔を覆う仮面。
ただし目元には炎をイメージしたのか赤、そして口元には人の骨が手を組んだように絵が書かれています。
実にいいセンスです。
それを被り、お店で手軽に買える魔法道具『カラーチェンジャー』と呼ばれる櫛を使い自分の髪を梳かします。すると梳かした部分の髪が私本来の色である銀からエルフによく見られる金色に変わっていきます。
『おー! なにそれ!』
「子供のオモチャとして売られている魔法道具です。一時的に髪の色を使った者の望む色に変えてくれるんですよ」
これで髪を見ても私と疑う人はいないでしょう。今日はトレードマークであるエルフの里の服もこの街で買った皮の防具に変えましたしね。
変装は完璧です。
では、
「行くとしますか!」
『しゅっぱーつ!』
私の声にくーちゃんが答えると肩に座るのを確認、同時に脚に力を込め、一気に解放。屋根を踏み抜き私は夜の街の空へと踊るように飛び上がります。
『ひゃあ〜』
嬉しそうなくーちゃんの声が聞こえます。精霊は楽しいのが本当に好きですね。
飛び上がり、重力に引かれ落下しますがそこはくーちゃんが魔法を発動。衝撃を最小限に抑えてくれます。再び隣の家の屋根の上に着地すると一気に駆け足場が無くなると跳躍を繰り返します。
空を舞うたびにくーちゃが嬉しそうに笑い、私は街並みを観察しています。
フレディゴの連中は騎士団の人達をバカにするように挑発しながら逃げ回っているようです。いい仕事してますね〜
「こちらも少し悪いお祭りらしく派手にしておきましょうか」
『ん? なにかするの』
変わらずに駆け、跳躍を繰り返しながらも魔法のカバンに手を滑りこました私は愛用の弓と三本の普通の矢を取り出し番えます。
そして再び跳躍し、王城が見えた時、一瞬にして狙いを定めます。
「くーちゃん、魔法ください」
『あい』
瞬時に施されたくーちゃんの魔法を肌で感じながらも矢を放ちます。
解き放たれた矢は刹那の間に閃光と化し少し狙いをズレながらも王城の見張り台に直進して行きました。
流石に跳びながら射つのは難しいです。
放たれた三本の矢は全て同じところを狙ったつもりでしたが微妙にズレ、見張り台を完全にへし折るように着弾。
音を立てながら見張り台がゆっくりと落ちて行きさらに巨大な音を立ておそらくは見張りに立っていただろう騎士達の悲鳴を撒き散らして行きます。
「よし、結果オーライ!」
『え、どのへんが⁉︎』
「これで城の中の騎士達も異常を確認しにかけつけるでしょう! 今が侵入するチャンスです」
本当は見張り台の騎士ごと吹き飛ばして安全を確保した上で行きたかったんですが仕方ありません。
作戦変更です。
弓で騎士を無力化するのではなく混乱してもらいましょう。
弓を魔法のカバンに戻し、数度の跳躍を繰り返し、城壁の上に着地。
特に障害もなく侵入できましたね。
視線を上げるとキョトンとした騎士と目が合いました。
さすがに夜中、王城では鎧は着てないみたいですぬ。簡易な皮の防具と槍といった出立ちです。
「こんばんは」
「あ、うん、こんばんは?」
私の挨拶に驚きながらも返事するあたりに好感が持てます。
「うらぁ!」
しかし、この世は弱肉強食。
目撃者を無力化すべく拳を騎士の顔面に叩き込み、意識を刈り取りました。
「よし」
『あくまだね』
城壁の上から見ていても王城は混乱の極みにありました。
使用人、騎士たちが慌ただしく動いています。
「さらに混乱してもらいますよ」
次に私が取り出したのは色とりどりは石。しかも魔石と呼ばれる魔法を封じ込めている石です。それを手に掴めるだけ取り出します。
『けっこうレアなものだよ?』
「そうなんですか? 長老の家には大量にありましたよ?」
拝借したものですし、足が付くなら長老に付くでしょう。私は借りたものを使うだけです。
「ぽい」
『ちょっ⁉︎』
くーちゃんが止めてきましたがすでに私の手元から離れた魔石は無造作に城壁の中、中庭に投じられました。
投じられた魔石達はキラキラと輝きながらゆっくりと弧を書いて落下し、地面に転がります。そしてしばらくすると魔石が振動をし始め封じられていた魔法が破裂します。
一つの魔石は爆発し火柱をあげています。
一つの魔石は周囲の大地を液状化にし幾人もの騎士を溺れさしています。
さらに魔石は雷を発生さしたり、周囲を風でムチャクチャに切り裂いたりと一瞬にして地獄が出来上がりました。
中庭だけでもすでにあんまり聞きたくない類の悲鳴が耳に入ってきています。
「あー……」
予想外の惨状にさすがに私も言葉が出ません。
『……魔石って上位魔法が封じられてるから普通は 一つずつ使うんだよ』
それは初めて知りましたね。
ですが……
「結果オーライ!」
『だからどこが⁉︎』
「この混乱している間に城に潜入しますよ!」
絶句するくーちゃんを置き、私は悲鳴が木霊する中庭を見下ろしながら城に向かい走り出すのでした。
悪いことをしたとは思ってる。反省はしてない。
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