合言葉は……
夜の街は流石に人通りが少なく大通りとはいえ歩いている人は少ないです。
時折、とてつもなく柄な悪そうな人達がいますが私に話しかけてくることはありません。どちらかというと怯えたかのように遠巻きで見ているだけです。
「おい、あれ、エルフだぜ。上物じゃねえか」
「やめとけ! お前知らないのか? あの人に手を出すなよ」
「あん? なんでだよ」
「フレディゴやファンロンっていう馬鹿でかい裏組織からの伝令だよ『銀髪エルフに手を出すな』ってな」
「そりゃなんだって?」
「噂ではあのエルフの機嫌を損ねただけで幹部が三人ほど斬られたらしい」
「まじかよ……」
などなど本当のこともあるから達が悪いですよね。
というかよくエルフってわかりましたよね。フード被ってるのに。耳が見えたんでしょうか?
『でも斬ったのは本当だよね』
「くーちゃん、それは間違えです。斬りはしましたが腕一本ですよ」
それに斬った理由は粗悪品を掴まそうとした向こう側が悪いわけですしね。
おかげで大手を振って使えるわけではない繋がりはできましたがね。
私とくーちゃんは大通りから外れ人通りが少ない方へと移動して行きます。
すでにすれ違うのは表の世界ではなく裏の世界、何かしらの悪どいことに手を出している連中ばかりでしょう。
『リリカやっぱり悪いことする気だ!』
「悪いことではありません。観光ですよ」
やがて目当ての建物に来るとやたらと硬そうな鉄の扉の前に立ちます。その扉には開くためのノブなどはなく普通の人が見ればただの壁に見えるでしょう。
私はその壁に近づくとある一定のリズムでノックを行います。
「……アイコトバハ?」
叩きしばらすくると小さな声が聞こえてきます。
私は息を吸い、
「この世の全ては」
「オレノモノ」
「ギルドの受付嬢」
「サンタナチャンハ」
「いつか嫁に迎えたい」
「by」
「ブルータスお前もか!」
交互に符丁を言い合い、暫くすると音を立てながら鉄の扉が開いて行きました。
『……今のなに?』
「ここに入るための合言葉ですよ。長いから簡単な物にしてほしいですね」
「ソウイッテクレナサンナ、姉御」
私の文句を苦笑混じりの声で答えたのは開いた鉄の扉から出てきたキツネ! ではなくキツネの面をかぶった人物でした。
「ボスノアワイコイゴコロデスヨ」
「最後が絶対裏切られてる気がするけどね」
私も苦笑を浮かべるとキツネ面は肩で笑いながら私を手招きします。着いて来いということでしょう。
「シカシ、アッシラニナンノヨウデ? アレカラハ姉御二手ヲ出シテイナイハズデスガ?」
「粗悪品のことかな? あれはもう気にしてないよ。今回は別件。むしろ依頼を頼みに来たんですよ」
「ホウ、仕事デスカ」
薄暗い建物の中、所々に配置されているランタンの灯りのみがゆらゆらと揺れています。
たまにすれ違う面々もキツネ面が連れているのが私だと気づくと深々と礼をしながら、
「姉さん! お疲れ様です!」
なんて言ってきます。そんなガタガタ震えながら言わなくていいでしょうに。
「ココデハ姉御ハ恐怖ノ対象デスカラネ」
「腕斬っただけじゃないですか」
「タダノ下っ端ナラバマダシモ幹部ヲ斬ッタトナレバ話ガチガイマスヨ」
身内が斬られてもこのキツネは楽しげに笑いますね。
外から見れば廃墟かと思われた建物も中を見ればかなり快適に過ごせるようになっておりそこいら中にいろいろな物が飾られています。
「儲けてるみたいだね」
「ボチボチデスヨ。姉御ガ来ル前ホドジャアリマセン」
それは悪いことをしなくなったからだね。感心感心。
そのままキツネに先導されるまま歩いていくと一際屈強そうな男二人が前に立つ扉が見えてきました。
ふーむ、ピチピチのスーツに黒いメガネをかけていますがあれで見えるのでしょうか?
「ボスハ?」
「中にいらっしゃいます」
ピチピチスーツに応えられるとキツネはドアをノックします。
「ボス、姉御ガイラッシャイマシタ」
キツネがそう告げた瞬間、部屋の中から何かをひっくり返すような音が聞こえてきます。
「ボス、ドウサレマシタ⁉︎」
部屋から響く破壊音にキツネ、ピチピチスーツの二人が慌てたように動きだします。
「まさか敵襲⁉︎」
「スグサマ戦闘準備ダ!」
いろいろと指示をだし始めたキツネの周りが慌ただしくなってきました。
なにやら勝手に盛り上がっている様子だったので私はため息を尽きながらドアを開け、部屋の中に入ります。
部屋の中、主にテーブルがひっくり返っており一部だけがぐちゃぐちゃになっていました。
そのぐちゃぐちゃになっている場所の中心には白目を向いてブーメランパンツ一枚の男が倒れていました。
「ボス! ボスゥゥゥゥゥ!」
遅れて入ってきたキツネ、ピチピチスーツの二人組が白目を向いた男の周りを叫びながら奇妙な踊りをしていました。
……誰か状況を説明してください。
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