どこかわからないけど殺ること殺りましょう
『この人本当に息してないんですけど⁉︎』
なんだがマリーの声が聞こえますけど今はそれどころではありません。
念願である憎き長老にトドメを刺すチャンスなんですから!
すでに押し倒した長老のマウントポジションを手に入れた私は拳をひたすらに長老に向かい叩き込み続けます。
「げぶっ! 貴様! 長老たる儂になにをするんじゃ!」
「うるさいです! ここで出会ったのが運の尽きでしたね長老! 誰も見ていないここで復讐を果さしていただきます!」
武器を持っている長老ならいざ知らず、武器のない長老なぞ弓矢のない弓のようなものです。この機会を逃す手はありません。
『まずいですわ! このまま連れて行ったら死体を持って行ったことになり私は殺人犯扱いされてしまいます!』
手に生暖かい血の感触を肌で感じているとなにやらマリーの不穏な発言が耳に入ってきます。
ついにマリーは人を殺しましたか。いけませんね。罪のない人を殺めては。
「リリカ! この!」
この、長老はしつこいですね。さっさと殺ってしまいたいんですけどなかなかに抵抗をしてきますね。
なまじ拳なだけにトドメの一撃がありません。
長老が年の割りに無駄な生命力を発揮しているのもあるんですけどね。
『こうなっては仕方ありません! 心臓を殴りつけましょう!』
「え、心臓を殴るって?」
心臓を殴るとか何を考えているんでかね?
殴られる人は不憫ですね。
「いたぁぁぁぁぁぁ!?」
突如として胸の辺りが痛くなり長老の上から飛びのきました。なんですか!? 胸に凄い衝撃が来ましたよ!?
長老が血塗れになりながらも起き上がっていますがそれを無視して私は痛みの根源を探すべく胸元を見下ろしますがいつもどおりの胸で一切の異変は見当たりません。
「まさか、胸が成長しているんですか!」
里のお姉さんに聞いたことがあります。
女性は胸が大きくなるときに胸が痛むものだと!
「ふむ、つまり私もまだボンキュボン! になるという輝かしい未来が残っているということですね!」
未来派明るい!
「……そんなわけないじゃろうが。貴様の母親も胸が抉れておったわ」
……あの爺はやはりここで始末しておいたほうがよさそうですね。見ているだけで殺意が湧きそうです。
ですが今は捨て置きましょう。
悲しい話ですが胸の成長する痛みならば継続して痛むはずですが先程の痛みはどちらかというと殴られた痛みのような感じでしたしね。
「……まさか、胸殴られてるの私ですか!?」
ここが異界であることを吟味して考えると私が殴られている可能性もゼロじゃないことに気付きました。
「もしかして魂と肉体が分離しているんですかね?」
そんな現象が実在するかどうかはわかりませんが、ここにはいないのに聞こえるマリーの声、長老に殴られたわけでもないのに痛む胸。
考えれば分離説が一番説得力がありそうですね。
「ということは現実世界では私は意識を失っていると考えるべきですね」
それをマリーが起こそうとしている。
一番しっくりときますね。
ならば、
「眼が覚める前に殺ることやっときましょうか」
ここが精神の世界と仮定するのならば今の私は精神体のはずです。
つまり目の前の長老も精神体。
「精神が死ぬと肉体も死ぬんですよね?」
爺にはここで死んでもらい現実世界では物言わぬむくろとなっていただきましょうか。
さっきから胸の痛み強くなっていますからね。いつ眼が覚めてもおかしくないようですし手早く済ましましょう。
長老も私が殺ろうとしていることに警戒して距離をとっています。
「なぁ、リリカよ、わし一応長老じゃぞ? 年寄りじゃぞ? いたわりの心とかないのかのぅ?」
なんですかこの期に及んで。
命乞いですか? 聞きませんけどね。
「一切ありません! 眼の上のたんこぶを完全排除します!」
「この外道娘がぁぁぁぁぁぁ!」
大きな声で私を非難してきますがその程度でひるむようなエルフは里にはいません。
私も言い返しておきましょう。
長老を指差し大きく息を吸います。
「お前の作った教育環境だからなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ぬかったわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
悔しそうな顔をしながら地団駄を踏む長老を私は笑みを浮べて見つめます。
いい気味ですね。
「ほら、長老、いつものようにタメになる名言を言ってくださいよ~」
「こんな状況でいう名言があるか!」
またまた~
「あるじゃないですか~ 変わりに私が言ってあげますよ。『やられたことは倍返し、他人の嫌がうことは進んでしましょう byリリカ』」
「貴様の言葉じゃろがぁぁぁぁぁ!」
長老の絶叫を私は老骨に飛び掛りながら聞くのでした。
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