未遂でもだめですよ
「この街はさすが王都ろ呼ばれるだけあって露天以外の店も大きいですね」
『人ウジャウジャ』
そんなに気分悪そうな声を出さないでください。私も人に酔いそうになるじゃないですか。
しばらくの間空を飛んでいたくーちゃんでしたが既に私の頭の上でくつろぎ状態です。
本当に自由ですよね、この精霊。
「しかし私もあんまり気分のいいものではないんのでさっさと買い物を済ますとしましょう」
『さんせーい』
くーちゃんの同意を得たことですので行動を開始しましょう。
といっても今回の目当ては弓矢の購入だけですしね。さっさと済ましましょう。
「あ、あと刀の手入れをしてもらいましょう」
私、手入れなんてできないですしね。
腰に下げた鞘から無造作に『旋風』を抜き放ちます。
『リリカ! 人の集まるとこで抜いちゃいけないよ!』
「あ……」
抜いてから周囲の人々が私をギョっと瞳で見つめてきています。そんな目で見なくてもこんな所で振り回したりしませんよ。
視線を無視し刀の刃に目を落とします。よく見れば小さな傷が目立ちます。確か魔鉱石とかいう魔力を通しやすい鉱石とはいえ精霊の魔法を込めることが前提の鉱石ではないでしょうしね。
「魔剣とかほしいですね」
『まだ武器ほしいの?』
魔剣というか壊れない武器ですがね。あと手入れをしなくていいものですね。
でも実在するか分らないような物ですからね。
「くーちゃんは魔剣のある場所とか知ってるんですか?」
人間やエルフが知らないことでも精霊なら知ってるかもしれませんし。
『うーん』
悩ましげな声が聞こえてきます。え、冗談で言ったんですけど本当に知ってるんですか?
『死ぬ覚悟があるなら精霊界にならあるよ?』
「……遠慮しときますよ」
刀を腰の鞘に再び収めながらくーちゃんに返事をしておきます。
しかし精霊界にはあるんですか。あるとこにはあるんですね魔剣。
ですがまだ死ぬ気はありませんので遠慮しておきましょう。
しかしいい話を聞きました。精霊界にあるということは魔界にもあるんでしょう。いつか奪いに行きましょう。
魔族も見てみたいですしね。
でも
「精霊界にも行ってみたいんですけどね」
『そんなにいいところではないよ?』
「見たことが無いからみたいんですよ」
見たことがないものには心が躍りますからね。そのために里を出たといってもおかしくありませんし。
『でも来たらリリカ死んじゃうね』
「方法は考えますよ」
まぁ、エルフの寿命はほぼ永遠に近いものがありますし退屈になったときにでも考えるとしましょう。……忘れていなければですけど。
「とりあえず武器矢を探しましょうかね。いたぁ!」
武器矢を探そうとキョロキョロしていた私の背中に衝撃が走ります。少しよろめきながらも何とか転ばずにすみました。
『だいじょうぶ?』
「ごめんなさーい」
全く悪びれていないような声で子供が誤りながら私の横を通り抜けようとします。
しかし、私は通り過ぎようとした子供の首下を掴み宙に浮べ、逃亡を阻止します。
「なんだよ! 謝っただろ!」
「ええ、謝りましたね。ぶつかったことに対しては。ですがあなたの右手に持っている魔法のカバンは私の物ですのでね。返してもらいますよ」
この子供は私の魔法のカバンを奪おうとしてました、というか奪われたわけなんですけどそのまま逃がすわけにも行きませんしね。なにせ全財産入ってますし。
「とりあえず返してもらいますね」
足が地面につかない状態の子供の手から魔法のカバンを取り上げます。
「なんだよ! 兄ちゃん旅の人だろ! 少しくらい金を恵んでくれてもいいだろうがよ!」
このジャリ、今何て言った?
「兄ちゃんだと?」
「なんだよ! お兄さんとでも呼べばいいのかよ!」
子供を持ち上げている腕がプルプルと震えていることに私は気づきます。いけない平常心平常心。
「速く放せよ!このバカ! 」
「バカはあなたです!」
一瞬にして頭が真っ白になり子供を振りかぶり、
「私はエルフの美少女です!」
「え、ちょっと、まっ……」
言葉を聞き終える前には放り投げました。
「てぇぇぇぇぇ!……」
「あ、しまった」
徐々に悲鳴が小さくなっていくのを確認してから我に返りました。
すでに子供は見えなくなっておりどこに向かい飛んで行ったかわからなくなっています。
死んだかもしれませんね。
『人の物を奪う奴は死んでよし! で、儂のおやつ食べたやつ誰じゃ? by長老』
この精神でいくなら死んでもいいんですが未遂ですからね。死なないことを祈りましょう。死んだら運がありませんでしたということで。
『……一応、魔法で加護をつけといてあげたよ』
「あ、くーちゃんありがとうございます。なら安心ですね」
くーちゃんの加護なら安心ですね。
さて、
『『……』』
周囲を見渡すと何故か私の周りはぽっかりと誰もいない空間になっていました。しかも誰も私と目を合わそうとしませんね。
「ふむ」
とりあえず近くにいた人に向かい歩き始めます。
「ひぃ!」
いや、そんな悲鳴あげなくても……
少し傷つきますよ?
「武器屋はどこにあります?」
「あ、あっちです」
指を差された方をみると再び人が動き道が出来上がりました。便利ですね。
「ありがとうございます」
「ヒィィィ……」
お礼を言うだけで悲鳴を上げて気絶したんですけど。
ま、いっか。
気を取り直して私は武器屋に足を向けます。
『リリカ、王都ですぐ噂になりそうだね』
「私は目立つのが嫌なので断りますね」
『無理だと思うよ〜?』
そんな噛み合わない会話をしながら歩くのでした。
後日、銀髪エルフには気をつけろ! という言葉が裏の世界に浸透したということを私は知りませんでした。
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