箱の中にはアラビックリ
「あ、マリー」
「あ、マリーじゃないですよ!? なにあっさりと人が到着する前に馬車の護衛を制圧してるんですか!」
「馬車は拾いました!」
『拾ってないとってたし』
細かいことを気にする二人ですね。
ですがこれで徒歩しなくてすみます。私としては全く問題なしですね。
馬車に向かい歩きながら私はうきうきとしています。なかなかに豪華な馬車です。過度な装飾というわけではなく必要最低限、しかし気品を失わない装飾。こういうのが高級品というのでしょうか?
「この獅子の紋章、まさか……」
マリーが馬車に彫りこまれている獅子の形をした紋章を見ながらなにかブツブツと呟いていますが今は置いておきましょう。
「はーい、中身拝見~」
『わーい』
なんだかんだ言いながらも興味があった様子のくーちゃんはパチパチと拍手をしています。好奇心旺盛ですね
馬車のドアに手を描け勢いよく開け放ちます。
そして中を覗き込んだ瞬間、銀の光が煌きます。
「のぉぉぉ!?」
『リリカ!?』
情けないと分りつつも私は変な声を出しながら後ろに飛びのきます。
危なかったです。完全に油断してました。何か頬掠めましたし。
頬から流れる血を拭いながら開け放った馬車のドアをに睨み付けます。
「ああ、殺せませんでしたか」
なんか物騒なことを言われました。
警戒していると馬車から一人の女性が降りてきます。
黒と白を基調とした服、頭には私には良くわからない飾りが乗っており、スカート部分にエプロンのようなものを付けています。そして右手には銀の輝きを放つフォーク。先端に紅い色が付いていることからあれで私を付いてきたのでしょう。
眼鏡ごしに見える黒い瞳には恐怖の色が見えますね。
「げ、下郎、この馬車が誰のものか分った上で攻撃を仕掛けているんでしょうね?」
「しりません。あなたがこの馬車の持ち主ですか?」
「わ、我が主の所有物です。め、メイドとしてこの馬車の守護を承っています」
やたらとびくびくとしたメイドさんですね。そんなので守れるんでしょうか?
「リリカ、これはまずいです!」
「なんで? あのメイドぶっ飛ばせばいいだけじゃないの?」
「あの馬車の紋章どこかで見たことがあると思ったら帝国です! 帝国の王族のものですよ!」
「マリー顔が真っ青ですね」
王族
だからあんなに装飾に凝った馬車だったんですね。納得です。
「そちらの方には理解できたようですね。すぐにさ、下がってください」
「王族ですか。興味ありますね」
メイドの制止を無視し私は歩みを進めようとします。どんな容姿をしているか興味が湧きましたよ。
「待ちなさい」
マリーが私の肩を掴み歩みを止めます。
「なんですか?マリー。私はただ王族の顔が見たいだけですよ」
「本当に?それだけですか?」
「ついでに引きずり出して馬車を貰います」
「国から狙われますよ!?」
「殺して埋めたらいいんじゃないんでしょうか?」
そうすれば見つかりませんよね。
なんだか名案に思えてきました。そうしましょう。埋めたことなんて誰にも分りませんしね。
「何でそうなるんです!? もっと穏便に済ましましょうよ!」
「……例えば?」
「この馬車には何もしないで離れるというのは……」
「嫌! です」
馬車が目の前にあるのに歩くという選択肢は私にはありません。
そうだ。
「マリー」
「……聞きたくないですけどなんです?」
「この場を安全に且つ最大限の利益を持って収める方法を思いつきました」
「……なんです?」
不安そうな表情を浮かべるマリーに対し私は笑顔で答えを告げます。
「ひ・と・じ・ち」
「ふぅぅぅぅぅぅぅざぇぇぇぇてるぅぅんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
殴られました。頭を。グーで。
かなり痛いです。
「お金がっぽりですよ?」
マリーの意味に聞こえるようにしかし聞き逃しそうな声で私は囁きました。
「……がっぽり……」
興味を持ったようですね。さすがは金にがめついマリーです。
『リリカ、完全に悪役だよ?』
口元を三日月状に歪め悪い顔をしている自覚は私にもありますよ。
もうすこしでマリーは抱きこめそうですね。
更に毒、いえ、誘拐の利益をチラつかせていくとしましょう。
「お金を手に入れたらほかの国に逃げればいいんですよ。その国にいようとするから捕まるという発想になるんです。それにお金があれば聖剣を抜くための情報が集まりやすくなりますよ?」
「集まりやすく……」
いい感じに洗……誘導できましたね。
これで障害がなくなりました。
「ではマリー、人質として王国から金を奪い取りましょう!」
「はい! お金のために!」
この人お金が絡むとほんとにチョロイですね。ナザフロクス家みんながこんな感じなんだったら借金をするのは当たり前な感じがしますね。儲け話などにあっさりと騙されそうですし。
「というわけでね」
馬車のほうに振り返りフォークを握りガタガタと震えているメイドに向き直ります。
「私が楽するためとマリーのお金のために人質になってね」
「え、え?」
動揺しているメイドに私とマリーがゆっくりと近づいていきます。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!」
朝方の街道にメイドさんの悲鳴が上がりました。
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