ボス戦
「とりあえずこんなももんでいいでしょ」
『つかれたー』
くーちゃんの魔法で肌に付いた血は吹き飛ばしてもらいましたけど下着に付いた血はさすがに無理でした。結構がんばってくれましたけどコレばかりは仕方ありませんね。
魔法のカバンから替えの下着とトレードマークであるエルフの服を取り出し着込みます。
これで一息つきましたね。それにこの服なら汚れても日光に当てておけば綺麗になりますからね。
「さて、一息ついたところで残党狩りをしますか」
なにせどれが賞金首かわかりませんからね。一人も逃がさないようにしないと。軽く刀で素振りしながら周囲をキョロキョロとみます。
「騒がしい! ってなんじゃこりゃ」
「ん?」
やたらと大きな声が上がったためそちらを向くとと大柄な男が斧槍を持ち周囲を見渡していました。そして私と視線が会うとニヤリと男は表情を歪めて笑います
「おまえ……誰だ?」
男は顎に手を当て私を観察するように全身を見てきました。そんな、美少女だからってジロジロと見られたら困りますね。同時に私も男を観察していました。胸部分と足のみを覆う変わった鎧、そして手にはガントレットとそして異様な威圧感を放つバカみたいに大きく黒い斧槍。防具だけを見れば随分と軽装ですね。今まで斬った人達の方が明らかに重武装です。
「人に名前を尋ねる時はまず自分が名乗るものなんですよ?」
礼儀は大事ですよ。
すると男は嬉しそうに笑います
「ハハ、そりゃそうだ。だが盗賊に名前を尋ねる奴ってのもなかなかいないもんだぜ?」
心底楽しそうに男は手にしていた斧槍をグルグルと自在に回し、腰を落とし構え、斧槍の先を私に向けてきます。
「まあ、尋ねてきた奴は大体はこれで首をはねて来たからな」
唇を舐め、戦いを愉しむかのように男は笑みを浮かべます。いやですねぇ。いかにも戦うことしか頭にないみたいな感じじゃないですか。一応は警戒をしながらも私は特に構えをとらずに対峙します。というか構えなんて知りません。
「ちなみにあなたが盗賊団のリーダーですか?」
「ああん? 確かに俺がここのボスだが?」
「そうですか。それは助かりました」
これで誰かわからない人の首を切り取って冒険者ギルドに持っていかなくてよくなりました。目の前の男が賞金首でしょうし。これ一つの首をはねればいいのですから。
「あ、一応聞きますけど降伏したりしませんか? この盗賊団壊滅寸前みたいなんで」
「ああん? 手下なんてまた集めりゃいいだけだろ? そんなことより俺はお前を殺したくて仕方ないんだが?」
それがわかったのか男はより一層笑みを深めてきますね。あー嫌な笑みです。
里にもいましたね。こんな風に戦うの大好きって表情する人。きわめて迷惑な人種です。
「シュバルツだ」
「あ、私は結構です」
そんな名乗りあって戦うなんて野蛮なマネはごめんです。
「そう言うなよ。この世で最後に聞く人の名前かもしれないんだぜ?」
なんなんですか、この人は。さも自分のほうが強いかのように言ってきますね。
上等です。
「エルフ、リリカ・エトロンシア。なんだかむかつきましたからぶっ飛ばします」
右手に握った刀をシュバルツに突きつけます。
それを見てシュバルツも瞳に好戦的な光を宿します。
二人が名乗り終え、同時に一歩を踏み出します。
シュバルツは斧槍を、私は刀を。
重く、鋭い槍の一撃を刀で斜めに受け、更に力を込めることで無理矢理軌道を逸らします。そしてガラ空きになった腹に向け、左足を放ちます。
(あばら粉砕!)
そう私が確信し放った蹴りはシュバルツのわき腹に寸分の狂いも無く炸裂しました。予想通りに。
「いったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁ!?」
そして悲鳴を上げたのは私でした。予想外に。
な、なんていう硬さですか! 人間の体があそこまで硬くなるとか卑怯じゃないですかね?
鉄を蹴ったかのような硬さでしたよ?
悲鳴を上げ、足を押さえながらも我ながら器用に後ろに下がり距離をとります。
『だいじょうぶ?』
くーちゃんが心配して私の顔を覗き込んできます。うん、痛いけど大丈夫ですよ。
「なんなんですあなた! 硬すぎでしょう!?」
「ハン、軟弱なエルフとは鍛え方が違うんでんな!」
こちらを小馬鹿にしたように、且つ、絶対の自信がこもった声で告げてきます。なんでしょう。この男今までで一番腹が立つタイプの人間かもしれません。
だって里を出てから初めてというくらいイライラするんですから。この温厚な私が。
「くーちゃん、全力で行きます」
『はーい』
くーちゃんの返事を聞くと共に一気に駆けます。私が駆け出すと同時にくーちゃんの魔法が付与され刀が碧の光に包まれます。
「むかつくから足の一本は貰います!」
今だに私のことを小馬鹿にしたような笑みを貼り付けているシュバルツの足元にもぐりこむと横薙ぎに刀を右足に、あわよくば左足も叩ききるつもりで振り抜きます。
以下に自慢の肉体と言えどもふーちゃんの魔法が付与された『旋風』は止めることはできないでしょう。
「ふん!」
それに対してシュバルツは慌てる様子も見せずに斧槍を『旋風』と足の間に突き立てます。ふ、その程度でこの魔法で強化された斬撃を防げると? 笑止!
「とりゃ!」
「『え……』」
次にシュバルツがとった行動に私とくーちゃんは開いた口がふさがらなくなりました。
地面に突き刺した斧槍に手をかけたままシュバルツは宙に舞い上がり私の斬撃回避すると突き刺した斧槍を軸にし回転。眼前の刀を振り切り、体勢の崩れた私を見て獰猛な笑みをこぼしてきました。
あ、これはまずい。
そう思いはしましたが、目の前の敵はそんな隙を見逃してくれるような敵ではありません。容赦なく私の! 美少女の顔面に対して蹴りをかましてきました。
大勢の崩れた私は躱すことができず恐ろしいほどの衝撃が顔面に走りました。
「げべぁ!!」
『リリカ!?』
くーちゃんの悲鳴みたいな声が聞こえ、美少女らしからぬ声を私が上げますがそれどころではありません。
シュバルツが顔面に放った蹴りの衝撃で意識が飛びかけます。正直意識を繋ぎとめているのが結構奇跡的です。それと同時に景色が翔んで行きます。
一瞬にしてシュバルツが離れてい、いや、私が飛ばされているようですね。
私は幾つものテント、木々をぶち破り、やがて大木にぶつかりようやく止まると、ズルズルと滑るように大樹の根本に座り込みます。口から血を吐きながらもかろうじて意識を保ちます。なんとか武器である刀だけは手放しませんでした。
「ハハ、あれ食らって死なないとかお前、細いくせに丈夫だな?」
再び斧槍を手にしたシュバルツがあいもかわらず不快な笑い声を上げながら口にしてきます。飛ばされた私にも聞こえると言うことはかなりの大声でしょう。不愉快ですね。
もっとも今の私には笑うや悪態を付く余裕など全くありませんが言われたままなのはしゃくなので、痛みをこらえて刀を支えにゆっくりと立ち上がります。
『リリカ、大丈夫?』
「ダイジョウブダイジョウブ」
ええ、大丈夫ですよくーちゃん、ちょぉぉぉぉぉぉぉとばかり・・・
「サツイガワイタダケダカラ」
『ひぃ!?』
体のそこいら中からたが流れていて動くたびに激痛が走ります。ただ、先程まで飛びそうっだった意識だけははっきりと覚醒をしている感覚がわかります。
ええ、私はとても冷静です。かなり冷静です。ぶち殺したくなるくらい冷静ですよ。
「同じ目にあわしてやりますよ」
仄暗い炎を瞳に浮かべ口を三日月状に歪めながら私は宣言するのでした。
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