試し斬りキリKILL
私とマリーは現在小川の流れに逆らうように上流に向かい歩いています。なぜかと言うと、
「地図には小川は書いていませんでしたからね。しかし、実際に見て確信しました。おそらくはこの小川の上流、かつ高台になっている地点に盗賊団のアジトがあると考えてます」
とマリーが言うからです。私には探索するのは無理そうなのでここは従います。
高台がある程度なければ監視には不便ですし小川の近くは水の確保には理想的ですから、と告げたマリーは小川の上流の方を眺めています。私も同様に眺めますが特になにも見えませんね。
「本音を言うとこの案、盗賊団のアジトに直接乗り込むのはあんまりしたくないですよね」
「なんで?」
「数がわからない敵に正面から乗り込むのは危険だからです。理想は何処か襲いに行ってる間に残っている連中を殺り、あとは食料などに毒を仕込んで生き残りを狩るのが効果的です」
さらっとエグいことをいいますねマリー。しかし本人は至って真面目なようです。
この人、冒険者でよかったですね。少なくとも私はこんな考え方をする騎士の国にはいたくないですし。
たわいない会話をしながらも私とマリーは小川を遡っていきます
やがて小川の上流に見通しの悪くなる場所が目立ち始めた頃に私の耳は異音を捉えます。これは、矢が飛ぶ音ですかね? 判断した私は目を細めると、先を歩くマリーの背中に刺さる柄を掴み後ろに放り投げます。
「がはぁ!」
無様な声を上げながらひっくり返り、マリーは大きな音を立て小川に投げ込まれました。当然、吐血で綺麗だった小川は真っ赤になっていますね。
「当たりみたいですよ。マリー」
私は不敵な笑みを浮かべ剥き出しにしていた刀『旋風』をすぐさま構え異音の音源へ向かい振います。
『旋風』を振るったことで発した風圧により異音の音源である弓矢を吹き飛ばします。さすがに斬るなんてことはできませんしね。
「いや、助けてくれるのはありがたいんですが、せめてなにかいってくれませんかね⁉︎」
「敵みたいだよ?」
「遅いです!」
にこやかな笑顔でずぶ濡れになったマリーに告げた私はは一気に駆けます。
少し走ると小高い丘のようになっている場所に三人ばかりの男達が私を見て目を見開いていますね。
「おい、めちゃくちゃ速いぞ⁉︎」
「なんであんかひょろい奴があんなスピードで動けるんだよ」
「お前が外すから!」
そんな口論が聞こえてきますがもう遅いと思うんですよね。しかし、さすがに無防備に立ってくれているわけでもなく幾つもの弓矢が私に向かい飛んできますが同じ弓を使う者として言わしてもらえば全て狙いが甘いですね。当たりそうになる物だけを『旋風』で弾きながら私は瞬く間に丘を登りきり一気に詰め寄ります。
「くそ! 斬り殺すぞ!」
「三人でかかれば!」
男達が弓を捨て脇に置いてあった剣を手に取り襲いかかって来ます。特に連携もとろうとしていない三人を冷静に見ながら一人目の突き出して来た剣を『旋風』で上から叩きつけ無理やりに軌道を逸らします。力尽くで叩いたためか男の肩から鈍い音が響いていますね。体勢の崩した男に対し私は跳躍。
体のバネを使い空中で回し蹴りを放ち男の首に叩きつけます。嫌な感触を味わいながら足を振り抜くと男は糸が切れたかのように地面を転がります。
地面に着地すると続く二人目が斬りかかってきます。横に一歩移動するだけで男の剣は空を斬り、私に無防備な体を晒します。チャーンス。
瞬間、空いている脇腹に向け私は全力の蹴りを放ちます。男は防御する暇もなく私の美脚がきっちりと脇腹にめり込みました。
確実に何かが砕ける感触を味わいながら足を振り抜くと蹴り飛ばされた男が肩を砕かれた男を巻き込みながら地面を転がった。
「あ、ぎゃ……」
「はがぁ」
「あ、刀で試し斬りするの忘れてました」
「た、試し斬りだと……」
「はい、刀で斬りたかったんですけどね? あ、逃げます?」
息絶え絶えといった様子で倒れる二人(実際一人は死にましたが)の男を見ながら最後の一人に対して告げます。一応は。逃がす気? そんなものありません。さっきは体に染み付いた動きで蹴りを放ちましたが今度は斬りますよ。
「ひぃぃ!」
無様な悲鳴を上げ残った男は武器を放り投げ逃げ出します。予想通りです!
その姿を確認した私は大地を蹴り逃げる男の背中に『旋風』を振り上げ肉薄します。
「リリカ、殺しちゃだめですよ!」
ずぶ濡れになったリリカが姿を見せ叫ぶ。
「えー」
アジトに戻って警戒される、もしくは逃げられたらまずいと思うのですが仕方ありませんね。
マリーの言葉を聞いた私はすぐさま構えていた『旋風』を背中ではなく足に狙いを定めると一閃。必死に逃げる男の両足を軽々と刈り取りました。想像以上の切れ味です。
「ぎゃぁぁぁ!」
耳障りな悲鳴を上げながら血を溢れさしながらゴロゴロと転がり血の水たまりを作る男を眺めながら、
「一撃で殺した方が静かだったかな?」
そう思う私でしたが仕方ありません。
「いえ、あいつには情報を吐いてもらい……」
マリーが言いかけた言葉を止めます。マリーの視線の先を見ると先ほど私が足を叩き切った男がぐったりとしています。ピクリとも動かない所を見ると死んでいるようですね。
「手加減間違えたかな?」
「斬りすぎです。ではこちらですね」
しかたないといった様子でマリーはうめき声を上げる二人の男の方へと近づいていく。
「で、どうするんです??」
私が尋ねたときにはマリーは男のそばに屈んでいます。
「拷問です」
「拷問ですか」
この人本当に貴族なんでしょうか? 普通はそんな発想はでないと思うんですがね。
「……ちなみに拷問の心得とかはあるんですか」
「まずは腕を斬ろうかと」
「死にますよ」
無計画でした。仕方ありません。
「私がやります」
マリーに変わり私が苦悶の声を上げる男の横に屈みます。
そして私は一切の躊躇いを見せずに男の骨の砕けている脇腹を掌で容赦無く叩きました。
「あがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「おい、何を」
私の行動に驚いたのは男だけでなくマリーもでした。マリーは動揺しながらも私に声をかけてきますがと私は口元に指をやり楽しそうに笑う。
バシバシと脇腹を叩かれた痛みで悲鳴を上げる男を楽し気に見ながら私は少しづつ力を強くし痛みを増長さしていきながら男の耳元で囁きます。
「痛いでしょ? 今はパーですけど次はグーです。なかなかに痛いですよ? 嫌だったらわかります?」
「な、なにが望みだ?」
額に脂汗を浮かべて苦悶の表情を浮かべてながらも男は尋ねてきた。
「察しの悪い人は嫌いですがまだ物わかりのいい人は嫌いじゃありません。あなたたちの所属している盗賊団の仲間の数、アジトの正確な場所、あとは武装を教えていただければ十分です」
「わ、わかった。だからグーだけら……」
「え! なんて⁉︎ 聞こえない!」
「やめ、ぐやがゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
聞こえているはずなのに聞こえないフリをする私は男の脇腹をグーで殴り、悲鳴を響かし続けた。
「……鬼だな」
そうマリーが呟いたのが聞こえましたが私は男の不快な絶叫音がなくなるまでひたすらに脇腹を殴り続けました。
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