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エルフさんが通ります  作者: るーるー
突撃、近くの魔王城!編
332/332

純粋無垢なエルフさんが通りますよー

本日二話目

「終わりましたねぇ」


 すでに遠くに見える魔王城から上がる魔の欠片を使った自爆演出による真紅の火柱を見ながら私はしみじみとつぶやきます。

おそらくはあの火柱は魔王城を飲み込むだけではなく周囲の戦場で戦っていた各国の軍隊やアリエル軍団も飲み込んだんでしょうね。きっと歴史に残るくらいの死者が出たことでしょう。

 しかし、正直な話、あれだけの魔力を費やしてもフィー姉さんが死んだとは思えません。「あー危なかった」とか言って普通に生きてるかもしれませんしね。

 アルはまぁ、生きているでしょう。多分。


 現在の私たちは魔王城に激突した衝撃で気絶していたオリハルドラゴンを叩き起こし、その背の上に乗りはるか高い空をゆったりと移動しています。


『魔界に行くのかと思ったよ?』

「はは、まさかぁ? いっても楽しくなさそうですよ? ま、興味はありましたが」


 魔王城で開けた道を使い、確かに魔界に行こうかと考えましたがすぐにやめてしまいました。というのもまだ私はこの世界すら全部見ていないわけなんですからね。


「全部の国、とは行かなくてもある程度の国を見てからでも遅くはありませんからね?」

『まあ、それもそうだよね』


 納得したのかくーちゃんは私の頭の上に腰を下ろしてきます。


『治らないの?』

「無理でしょうねぇ」


 腰を下ろしたくーちゃんの視線が私のすでになくなった腕に向いていることに気づいたので軽く答えます。

 砕けた骨すら元に戻すポーションでも治りませんでしたしね。

 新しく作るにしても自分を実験にするというのも嫌ですしね。いくら長い寿命があるエルフでも死ぬときは死にますからね。それは仕方がないことなんですが実験に失敗して死ぬというのは非常に間抜けな気がしますからね。


「そのうちに慣れますよ」


 以前まであったものがなくなるというのはなかなかに違和感を感じるものですね。現に左側のエルフの服が風ではためいているだけでも凄まじいまでの違和感なんですから。


『だったらいいけどさ。あ、あとゼィハはよかったの?』

「彼女が行きたいと言ったんですから止めるのもおかしな話でしょ?」


 そう、ゼィハはオリハルドラゴンの背中には乗っていません。彼女は未知という知的好奇心を押さえれずに魔界へと向かったんですから。気絶したベシュを抱えて。


「ベシュも強いですし、 巨大を討つ剣(ヴァングラミー)もかなり卑怯な武器ですしそう簡単には死にませんよ」

『そうかなぁ?』


 多分ね。

 今さら近くにいない人を助けるなんてことはできないので適当ですが。


「カズヤ達が心配していた魔界へと繋がる道も先ほどの自爆で壊れたでしょうし。魔の欠片も先ほどの自爆に全部使い込んでやりましたし、これで追われることや命の危機のない自由な身ですよ。ねえカズヤ?」


 私は笑みを浮かべながら背後を振り返ります。するとそこには血まみれの勇者パーティの面々が憔悴した表情を浮かべながら座り込んでいました。


「たぶんな……」

「生きてる…… 生きてますぅ」

「死んだかと思った」


 口々に生きていることを実感しているようです。

 こいつら三人はゼィハと別れた私とくーちゃんが脱出しようと気絶していたオリハルドラゴンのところに向かっていた最中に偶然遭遇。とりあえずはどこでも自爆くんがいつ爆発するかわからなかったので彼らを無視して先を急いでいると私たちの後ろを付け、脅したオリハルドラゴンに同乗してきた図太い神経の持ち主達です。


「助けてくれて助かったよリリカ。危うく爆発に巻き込まれるとこだった」


 助けた記憶はないんですがね。

 勝手に乗ってきただけですし。


「じゃ、助かったことですしさっさと飛び降りてもらえますか? あれです。存在が目障りなんで」

「ちょっとまて、この高さだぞ! 死ぬわ!」


 特に細かい指示を出していないオリハルドラゴンはすでにその身を海上へと踊らしています。

 下には真っ青な位の蒼さを見せる海が広がっています。


「大丈夫ですよ。下は海です。落ちても死にはしませんよ」

「ばっかぁ! ある程度の高さからの海はな! コンリート並に硬いんだぞ! さすがに死ぬに決まってるだろが!」


 コンクリートとやらがなにかは知りませんが関係ありません。

 ようは私の気分の問題なわけですからね。

 そう、これは善意です。

 血まみれになりまともに身動きが取れなくなっている三人の汚れを落としてあげようという私なりの……


「善意です!」

「悪意しか見えねえよ! がふっ!」


 とりあえずうるさかったので簡単な風魔法を使い叫んでいたカズヤの足へとぶち当ててやります。

 すると面白いようにバランスを崩し、オリハルドラゴンの背から踊るようにして宙へと飛び出しました。

 ククとヴァンの腕を掴みながら。


『ワァァァァァァァァァァァァァァァァ!』


 三人で揃えたかのように大絶叫を上げながら落下していくカズヤ、クク、ヴァンの三人はまるで硬い板にぶつかったかのような乾いた音を立てながら海へと激突。

 巨大な火柱に対抗するかのように巨大な水柱を作り上げます。

 その光景に拍手をしているとしばらくして死体のようにゆらゆらと揺れる三人が浮かび上がった後に周囲の海を赤く染めていました。


「…… さて、くーちゃんこそ魔界に行かなくてよかったんですか? 魔界に行ったらすぐにでも大精霊になれたでしょうに」

『え、勇者に対しての謝罪とか一切なしなの⁉︎』


 勇者に謝罪?

 する必要あるんでしょうか?

 そんなことよりもくーちゃんのことですよ。

 闇属性の精霊になっているくーちゃんにとっては魔界の空気自体が栄養になりそうなほどの魔力量です。行けばあっさりと大精霊の仲間入りできたでしょうに。


『わ、わたしもまだいいよ? 闇属性となると魔力の集め方とかもわかりやすいものが多くなるからこっちでも時間をかけたら大精霊になれそうだし。それにわたしが魔界に行くとリリカぼっちになるよ』

「ぼっち……」


 なんでしょう。酷く心に刺さる言葉です。

 しかし、くーちゃんがそう決めたのであればあれこれ言うのは違う気がします。


『これからどうする気なの?』

「そうですねぇ」


 行きたいとこもあるわけではありませんしねぇ。行きたくないとこは多少ありますが。エルフの里とか。

 まぁ、特に急ぐこともありませんか。


「まだ見たことないとこでも観光にいきますかねぇ」

『今度は観光ちゃんとするんだよね?』


 失礼な、いつもちゃんと観光してますよ。

 でもよく考えたら大体どの街でも戦ってるか壊してるか奪ってるかと殺伐としたことしかやってないような気がしないこともありません。

 そう思うとたしかにロクデモナイ旅ということに気づき苦笑を浮かべてしまいますね。

 でもまぁ、


「まぁ、オリハルドラゴンが通るとこに向かうだけですよ」

『まぁ、そうなんだよねぇ』

「当面はフィー姉さんが生きていたとしても簡単に気づかれない場所を目指すとしましょうか。また結婚とか迫られそうですし」

『だねぇ。あと果物が美味しいといいねぇ』

「あ、このままオリハルドラゴンで行くと大変ですよね」

『そりゃそうでしょ』

「なにかわかりやすい挨拶でも考えましょうか」


 私とくーちゃんはどうでもいい会話をしながら新しく見えてくるはずの大陸に期待を膨らましていっているうちに不意にわかりやすい挨拶を思いつきました。


「よし、町に着いたこう叫びましょう」

『なんて?』


「純粋無垢なエルフさんが通りますよーって大きな声で叫べばみんな信用してくれますよね」

『詐欺だよね?』


 詐欺ではないと思うんですがね……

ようやく完結です。

これまで読んでくださりありがとうございました


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