コレで準備は万端です
「これ、穴からでてきたんですよね?」
「みたいです」
怯えながらも好奇心が勝ったのかゼィハは魔法のカバンから取り出した剣で鱗に覆われた腕をつついています。
「魔界の住人さんですかね?」
『え⁉︎ それってやばくない!』
やばい、のでしょうか?
そういえば穴を開けたら上位魔族とかが向こうからこれるみたいなことを言ってましたが、この腕の持ち主がそうなんでしょうか?
《我が腕を切り裂くとはなかなかの小童よ》
「穴から声が⁉︎」
驚き飛び上がったゼィハが想像できないほどの俊敏さを発揮し、私を盾にするかのように私の後ろに回り込みやがります。
こいつはもう少し戦う気を見せてもいい気がするんですけど無理な話なんですかね。
期待するだけ無駄というものなんでしょう。諦めをつけながら私は声の聞こえる穴の方へと視線を向けます。
すると先ほどまで何も見えない暗闇だった穴の中に金色に輝くものが見えました。
《ほほう、どんな小童かと思いきや、エルフにダークエルフとは》
いえ、金の輝きが閉じたり開いたりしているところを見るにあれは巨大な瞳でしょうか?
《だがたかだかエルフとはいえ我が右腕を切り落としたことは賞賛に値する。褒めてつかわす》
「えらく上からですね」
少なくとも今までであった人達の中では一番上から目線で話しているようです。
そんな私の不機嫌そうな声を聞いてか金の瞳がなぜか愉快気に笑ったような気がしました。
《上からだとも。我こそは魔界五天の一角、バ……》
「あ、もうフラグとかいらないんで」
なんか意気揚々と名乗りをあげようとしてくる多分上級魔族らしい奴の言葉を遮り、魔力の羽根を伸ばし、頭上に掲げると剣の如く振り下ろします。
魔力の羽根は穴から見えている金の瞳を上から一閃。僅かに遅れ、金の瞳が縦に割れるようにして血が溢れ出ます。
《ァァァァァァ⁉︎ 我の瞳がぁぁぁぁぁぁ!》
途端、穴から金の瞳が消え、続いて魔王城を揺らすほどの絶叫が響いたので耳を抑えます。しかし、片手しかないので片方からは絶叫が聞こえてきたためあまりの大きさに頭がクラクラします。
《許さん! 許さんゾォォォォ!》
うん、ありきたりな台詞ですね。
ですがこれ以上いろいろなものに関わられるのは面倒です。
「最大出力でぶっ飛ばしますよ!」
イメージするのはフィー姉さんが聖剣を使い放っていた極大の刃状の闘気です。
あれはフィー姉さんと聖剣というイレギュラーな組み合わせだからこそ出来た攻撃方法と言っていいでしょう。
あの馬鹿げた攻撃を私が同じように行うとなると色々と準備が必要となります。
魔力の羽根の一部分を変化さしていき、床に縫い付けるようにして私の体を固定。こうでもしないと魔力の放出と同時に私の体が反動で後ろに吹き飛びかねませんからね。
続いて右腕を穴へと向け、更にそこに魔力の羽根を纏わしていき、筒のようなものを作り上げていきます。
『え、なにこれ』
「コレで準備は万端です」
この右腕に構える筒状のものはフィー姉さんが使っていた聖剣の変わりです。いや、フィー姉さんなら生身で撃てそうで怖いんですが。
ここに闘気の変わりに魔力を充填していきます。
いままでの魔力弾と違うのは魔力の密度うんぬんではなく完全にこの筒から放つだけのために私の体の魔力を全てを収束さしていることです。
「吹き飛ばしますよ! 魔力充填開始!」
構える筒に向け、私は魔力を注ぎ込むのを開始。
途端に体から一気に魔力を抜き取られていく感じを味わった後に虚脱感を味わいます。しかしそのかいあってか筒の前には真紅の魔力の球体が空気を振るわせるような音を鳴り響かせながら放たれている時を今か今かと待っているかのように振動しています。
《この我にぃぃぃぃぃぃ!》
「必殺!リリカビーム改め、フラグブレイカーの威力を見て驚くといいのです!」
『なんかかっこよくなった!?』
怒りの咆哮と共に穴から再び鱗まみれの腕が飛び出てくると床を削るようにして私に迫ってきます。
が、私は右手の筒、フラグブレイカーの狙いを慌てることなくゆっくりと迫り来る腕とそれが飛び出してきている魔界への穴へと定めます。
そして唸りを上げ風を抉るように迫ってきた腕が私に触れそうになる瞬間。
「発射あぁぁぁぁぁぁ!」
筒の魔力を爆発させ、私を吹き飛ばさんとする衝撃を私の体に食らわしながらフラグブレイカーはこの世に解き放たれたのでした。
夜にもう一話あげます




