本当に大丈夫なんでしょうね⁉︎
「さあ、リリカちゃん! 私の愛のために行くわよ!」
「そこが私たちの、とつかない自分本位なあたりが流石だと思いますよフィー姉さん」
すでに臨戦態勢のフィー姉さんは聖剣を使う気はないのか腰の聖剣を鞘ごと一応の持ち主であるカズヤへと放り投げます。受け取ったカズヤはというとすかさず聖剣を鞘から抜きはなちごく自然な動作で刃へ魔力を流しこちらを睨みつけてきます。
うん、やはりカズヤはなんとかなりそうですがフィー姉さんに私が勝てる姿が全く想像できません。
「いやあ、実物は初めて見たけどやはり君のお姉さんはイレギュラーの塊だよ」
はっはっはと楽しそうに笑っていますがなんでしょう、イレギュラーって。
「どう言うことです?」
「言葉通りさ。あれは世界の異端、バグ、特異点と呼ばれるような存在さ。まともにやって勝てるような存在ではないね」
「ほほう」
いってる意味はいまいちわかりませんがなんとなくやばいものということだけが伝わってきました。
「簡単にいうのであればあれは理不尽な存在なのさ。戦術や戦略というのは彼女の前には意味がない。あれの前では勇者すら地に跪くさ」
「なんで戦う前にそんなことをいいますかね? ならどうやって勝つというんです?」
戦っても勝てない相手とやるなんて馬鹿のすることです。というかフィー姉さんとは戦いたくなんてありませんからね。
「ふむ、なら僕がイレギュラーの相手をしよう。勝つことはできなくとも負けない手段なら僕にはあるからね」
「あなた一人でですか? 確かに少なからず魔力はあるようですがフィー姉さんはあれですよ? キチガイですよ?」
『実の姉にさらっと酷いこと言うよね?』
「ならくーちゃんが止めてくれますか?」
『さて、現実的な話をしようよ』
さすがに精霊にフィー姉さんを止めろというのは冗談でしたが想像以上に恐れているようですね。
「まぁ、冗談はさておき僕ならばイレギュラーを止めれるよ。だけど止めるだけで他は何もできなくなる。勇者たちの相手は任せるけど大丈夫かい?」
少しばかり心配したような口調で問いかけてくるアルに私は鼻を鳴らして笑うことで返答を返してやります。
「たかだか勇者ですよ? 魔神の魂を持つ私が負けるわけないじゃないですか」
「どっからその自信がくるんですか……」
『わたし絶対リリカの前に出ないよ?』
ゼィハとくーちゃんがジリジリと私から離れ、徐々に後ろに下がっていきます。
「話し合いは済んだかしらぁ? じゃ、私の幸せのために気絶してもらうわよリリカちゃん!」
「私の幸せではないのでお断りします」
断りの途中ですでにフィー姉さんの足元は爆発し、そこに姿は見当たらなくなりました。そして刃を首筋に当てられたかのような悪寒。
反射的に魔王クラスまで増加した自分の魔力を全身から放出。
放出したその魔力が途絶えた箇所に向かいすかさず体を回転さしその勢いで先ほど納めたばかりの柄だけの魔剣を躊躇いなく振り抜きます。
振るわれた魔剣は私のイメージ通りに魔力で刃を作りあげると背後からの強襲者へと迫りましたがそれをフィー姉さんは笑顔で闘気を纏った拳で叩き上げ軽々といなしてきます。
「アル!」
相手はアルがするという話でしたが初手から話が違うという非難の眼を我が共犯者へと向けます。視線の先では驚いたような表情をしたアルの姿が目に入りましたがその両手には瞬く間にで眼を見張るほどに緻密な魔法陣が描かれていきます。
「これほどまでにイレギュラーとは想像以上だけど止まってもらうよ」
恐ろしいまでの速度で描かれていた魔法陣が完成したのか淡い色を発し、光り輝きます。
そしてその輝く魔法陣から夥しい量の黒い鎖が宙を疾り、フィー姉さんへと迫っていきました。
それを避けるそぶりすら見せずに獰猛な笑みを浮かべた我が姉はより一層手に纏っていた闘気の量を増やし迎え打ちます。
音が途切れないほどの打撃音が響き、すでにフィー姉さんの手は私の瞳では捉えきれないほどの速さに達してます。
「うーん、固有魔法の足を止める暗き鎖をここまで防がれるとは…… まぁ、足止めはしてるよね?」
「確実にお願いしますよ? 背後から殴られるのはごめんです」
「大丈夫だよ? ほら」
なんでもないように言っていたアルが軽く指を鳴らした瞬間、拳打を放っていたフィー姉さんの足元に先ほど見た魔法陣浮かび上がり、そこからも黒い鎖が湧き上がり前に集中していたフィー姉さんの体を縛り上げていきます。やたらと胸を強調するいらやしい縛り方です。嫌味?
「あ、なにこれぇ! 取れないんだけど」
いや、そんなことを言ってますが足とか手を動かすたびにぶちぶちと引きちぎってるんですけどぉ……
「ねえ! 本当に大丈夫なんだしょうね⁉︎」
見ているだけでも煩わしそうにしているだけでフィー姉さんは手足を動かすたびに特に障害など感じないかのようにひきちぎってます。拘束が全くできていません。
「安心しなよ。これからだよ」
特に気負うこともないアルを睨みつけていると再びアルの手が振るわれいくつもの魔法陣が姿を現し、鎖と格闘しているフィー姉さんを取り囲むようにして展開されていきます。
「これで終わりっと」
アルがそう告げた瞬間、周りに展開されていた魔法陣の全てが光り輝き、その輝きがフィー姉さんを覆い尽くします。
『ま、まぶしぃ!』
くーちゃんの言う通りあまりの眩さに一応戦闘中にも関わらず眼を背けてしまいます。やがて光が収まり、目が慣れてきて再びフィー姉さんがいた場所へと眼を巡らせるとそこにはフィー姉さんの姿は欠片も残さず見当たりませんでした。




