こいつ、楽しんでますよね?
「さて、なにか言いたいことは?」
言いたいことを言い終えたのか満足げなアルは周囲で呆然としている面々を見渡します。
しかしその場にいる面々は完全に硬直しています。なぜでしょう?
「なにかリアクションがないと僕としては非常に困るんだけどねぇ?」
「話が難しすぎてわからなかったとか?」
「そんなバカな……」
困ったような顔をしたアルに私は思ったことを教えると絶句しています。
「それでくーちゃんはどう思いましたか?」
『うーん、よくわからないよ』
一応は私が今からやることを説明して納得してもらう予定でしたが。
『でも精霊の世界的には特に影響はなさそうな感じだからいいと思うよ?』
「そんなのわかるんですか?」
『うん。精霊には世界の危機が迫るとビビっとくる器官があるんだよ』
「そ、そんな器官があるのか! 精霊恐ろしい子!」
なんだかよくわからないノリでアルとくーちゃんが会話しています。しかし、そんな器官があるというならばシェリーやアリエルがしたことはさして世界の危機として認識されなかったことになるんですがね。
『星が滅びる規模じゃないとビビっとこないの』
「想像以上に規模が大きかったのとかなり大雑把だということがよくわかりましたよ」
そりゃ反応しないわけですよね。
要は星が壊れるような要因がシェリーのしようとすることにはなかったわけなんですから。
世界征服では星は壊れませんしね。
「道が作られて起きる影響は僕にはわからないからね。でも過去に一度だけ僕が暇つぶしで開いた時は確かかなりの規模の戦争が起こったね」
「魔族とですか?」
「そうだね。魔界の魔族とだね。みんな勘違いしてるんだけど魔族って元は魔界側の住人をさす言葉なんだよ。こちら側にいる魔族というのは何代か重ねて血が薄くなってるから純粋な魔族というわけじゃないんだよ」
「へー」
ではシェリーや黒の軍勢は純粋な魔族ってわけじゃなかったわけですか。
しかし、暇つぶしで戦争……
「まあ、世界が混沌に満ちるかもしれないかもしれないけどね」
「そんなこと許せるか!」
愉快そうに話すアルの声をかき消すように怒鳴り声を上げたカズヤは全身を輝く魔力が覆うとすでにボロボロになっている剣を構え、一瞬にして消えると意気揚々と語っていたアルの背後に姿を見せ、切りかかります。
しかし、その斬撃はアルの体に当たることなく、アルの褐色の肌に触れる寸前で停止。よく見るとカズヤの剣の切っ先に抵抗するかのようにアルから黒い魔力が放たれているようです。
「ん? 今代の勇者。君の出番はもうないだろう? 魔王は倒されたわけだし」
今気づいたと言わんばかりに振り返り、煩わしいものを見るかのような視線を向けるカズヤへと向けるアル。別に敵意とかそういったものは全く感じません。
「そんなわけあるか! 魔界に通じる道を作ってお前が帰る間に他の魔族が来ないという保証はないだろうが!」
「まあ、確かにそうだね。今のこの世界ならば魔族の上位である魔人クラスが二人位いたら滅びちゃうだろうし」
え、そんな簡単に滅びちゃうの?
この世界すごく弱いじゃないですか。
「そんなことは俺がハーレムを作る前にやられてたまるかぁ!」
私利私欲じゃないですか。
「うーん、他のみんなもおんなじような意見なのかな?」
困ったような顔を浮かべたアルは残りの勇者一行を見据えます。
フィー姉さんは獰猛な笑みを浮かべながら拳を構え、ククは覚悟を決めたように杖を握りしめ、ヴァンはため息をつきながらナイフを構えます。
「穏便にはいかないようだよ? リリカ」
「そのようですね」
こいつ、楽しんでますよね。




