残念ながら現実です
『ちょ⁉︎ なにしてんの⁉︎』
「消しとばしてるんですが?」
両手で振り下ろされ、赤黒い魔力を放出し続けている魔ノ華から目を離しくーちゃんと話をします。
まだ放出し続けている魔ノ華の下では苦悶の声を上げるシェリーですがまだ呪い殺されていないようでしつこいですね。
『前より威力上がってない⁉︎』
「そりゃそうでしょう」
魔力が吹き荒れる空間の中、くーちゃんが飛ばされないように私にしがみついてきます。
ふむ、まぁ確かに三カ月前とは別次元の強さを得ているという自覚はあります。
三カ月の間、準備していたのはシェリーたちだけではありませんしね。私も魔の欠片の力を全て引き出せるように仕方なしに努力しましたしね。
「しかし、粘りますね」
「ま、魔王として当たり前ですわ」
魔ノ華からの魔力放出を白ノ華で受け止めながらシェリーが疲労が漂うような声で言い切ります。
ふむ、魔王というのも大変なものですね。少なくとも私は耐えたり粘ったりするのが義務なんてなのにはなりたくないですね。
「古来より魔王とは正義の味方に倒されるというのが定番というかお決まりのようですよね。私も絵本などで読んだことがあります」
『こんな私的な理由で魔王に挑む輩は聞いたことがないんだけど』
それを言うなら魔王を倒そうとしてる自称正義の味方の連中も結構私的な理由で戦っているような気がするんですけどね。だって絵本とかだとお姫様とかと結婚したり王様になったりしているわけですから。欲望の塊と言ってもおかしくないと思うんですよね。
「あ、あなた……」
「なんです?」
まだ喋る余力があるとはなかなかですね。
「なんで以前戦った時よりはるかに強くなってるんです⁉︎」
「ああ、やはり気づきましたか?」
流石に何度も打ち合えばわかりますか。
確かに私は三ヶ月にアリエルに手も足も出なかった時よりもはるかに強くなっています。
「三ヶ月もイヤイヤながら頑張ればこれくらいはできるんですよ」
『リリカってやればできる子?』
なんとなくバカにされた気がしますがその通り。私はやればできるエルフなのですから!
「この三ヶ月はあなたとアリエルをぶっ飛ばすためだけに努力をしたんですからね」
アルガンテロアとの契約で力の使い方を教わった私はかなりの強さを誇るでしょう。それでもフィー姉さんとは戦いたくありませんがね。あの人の強さはなんというか底が見えないので。
「それでも! 魔の欠片の数は同じのハズ! 私とあなたの力の差は決定的にはならないはずですわ!」
「ええ、その通りです。あなたの言う通り魔の欠片の数が同数であればここまでの差は広がるはずがありませんよね?」
私の所持している魔の欠片は三つ。そしてシェリーの所持している魔の欠片も三つ。そうシェリーは思っているのでしょう。
「では一つずつ答えていくとしましょうか」
私は片手を魔ノ華から離し、掌を上に来るようにしてさらにシェリーに見えるような位置にもっていきます。
「ぐぬぅ!」
「ああ、片手になったからといっても私の魔ノ華へ込める力は変わりませんよ? 気を抜いた瞬間吹き飛ばしますので気をつけてくださいね」
片手になった瞬間にわずかに白ノ華に力が込められたので私はそういって差し上げます。
やがて抜け出せないと悟ったのか白ノ華に加わる力が減ったのを確認した私は再び掌の上にシェリーに見えるように魔力を込めます。
赤黒い魔力が私の掌の上で渦を巻き、それが収まり、私の掌の上に現れた物を見た瞬間、シェリーが大きく目を見開きます。
「ば、ばかな!」
「残念ながら現実です」
シェリーが思わず否定した物。
それは私の掌の上で円を描きながらくるくると回る魔力の結晶、魔の欠片でした。




