堪能さして上げますよ?
「熱い熱い熱い熱い痛い⁉︎」
『無計画にこんなことやるからだよぉ⁉︎』
視界を埋め尽くすのは白の色のみ。遅れて熱いのか痛いのかよくわからない感覚が襲ってきます。
まさか特別性どこでも自爆くんが衝撃で爆発する仕組みだとは思いもしませんでしたね。
「これ風の防壁ちゃんときいてまって喉がいたぁぁぁぁぁい⁉︎」
『ちゃんと効いてるよ! じゃないと一瞬で燃え尽くしてるよ! あとそんなに喋ると喉の中が焼けるよ?』
言うのが遅いです。とりあえずは喉の傷を治す意味と潤す意味で魔法のカバンからポーションを取り出し飲み干します僅かに残った分はくーちゃんへとかけておきます。まあ、すぐに蒸発してしまうんですがね。
目の前に広がる白い炎を見ているとどうやらこの最上階のフロアを隙間なく燃やしているようでフロアの中をグルグルと回るようにして燃え盛っています。そしてその中心であるシェリーのいる部分は見ていて目が痛くなるくらいに白く輝くようになっており、天井を突き抜けるほどの火柱が立ち上がっていました。
「いかに魔の欠片で強化されている肉体といえどもあの高熱と呼ぶのすら生ぬるい空間で生きてはいれないんではないんでしょうか?」
『でも魔王だよ?』
「そこが問題なんですよね」
あれは自称とはいえ魔王を名乗っていましたからね。
もしも、アルガンテロアから聞いた通りの魔王だった場合、私では到底勝つことはできないでしょうし。しかし、その魔王の可能性はかなり低そうです。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! あついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついぃぃぃぃぃ! ノォォォォォォどぅぅぅぅぅいだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
アルガンテロアに聞いてた魔王、不死であったら
痛みに耐性があったりする魔王であるならばこんな情けない悲鳴はあげないでしょう。
『あれかなぁ?』
くーちゃんが指差すのは煌々と燃える白い炎の中で僅かに蠢く黒い塊でした。それが炎の中で右に左に動き回っています。
あー、あれはさっき私が熱い中喋って喉が痛くなったのと同じようですね。向こうは防壁がない分さらにやばそうですが。
『なんで魔法で防御しないんだろ?』
「魔法も使うのに集中力がいりますからねぇ。使い慣れた魔法でさえ一瞬の集中が必要ですし全身をこんがり焼かれながら集中するというのはなかなかに無理な話というものですよ?」
『いや、そうじゃなくてさ。なんで爆発が起こる前に防御しなかったのかなぁって』
くーちゃんの物言いはもっともなことですが肝心なことが抜けていますね。
「くーちゃん、忘れてますね。爆発する寸前までシェリーにはどこでも自爆くんがとりついて魔力を吸い上げていましたし魔法で防御なんてできはしなかったんでしょうよ」
『あ』
仮に防御できていたとしてもそこに魔力の矢をたらふく放り込んでやる予定でしたがね。
運良く結界の中まで滑るようにして帰ってきた魔ノ華を拾い上げ熱さに耐えながら鞘へと納めます。
「しかし、あれもしつこいですね」
『あ〜』
私が呆れたような目を向ける先にはいまだ悲鳴を上げながら転がり回るシェリーの姿が映ります。先ほどよりもわずかに動きが小さくなっているような気がしなくもないですがまだ元気なようですね。
やがて周りを焦がしていた白い炎も小さくなり始め、周囲に熱気だけを残し、炎は完全に姿を消す。ただ、その中心に焼け焦げた黒い塊を残して。
「本当にしつこいですよ……」
もはやため息しか出ませんね。
なにせ黒い塊が音を立てながらもとの肌色へと戻って行ってるんですから。
「ま、魔族の、魔王の生命力を甘く見ないことてすね」
体全体で息をするように体を揺らしながら私の言葉に答えてくれますが、本人的には笑みを浮かべているつもりなんでしょうがこちらからは苦悶の表情にしか見えません。
「シェリー、ここら辺で私にあっさりと首を切られる気はありませんか? 今ならじっっくりとクビを切るのを堪能さして上げますよ?」
『え、そこは痛みを感じさせずとかじゃなくて?』
「そんなことしたら復讐にならないじゃないですか」
さっくり殺してしまったらわたしの気が収まりませんからぬな。
「ま、魔王は屈しないわ!」
炭化していた体の大半が回復し終えたようですが白い炎に焼かれて服がなくなった間抜けな姿でシェリーは白ノ華を杖にするようにして立ち上がってきます。
「ええ、そう簡単には降伏してもらうとつまらないですからね」
予想通りの答えに私は心の底からの満面の笑みを浮かべて上げます。
さぁ、まずはどこから切り落としましょうかね?
『顔が怖いよ?』
気のせいです。




