普通の剣では無理ですか
数分間、穴の中で跳躍を繰り返しようやく頂上へと到着し、私は両足を床へとつけ、周りを警戒しながら見渡します。
「なんだか初めてアルガンテロアに呼ばれた場所に似てますね」
改めて周りを見渡すとそこいら中に穴が開いているものの無駄に白いこの空間は初めてアルガンテロアに呼び出された空間に非常に酷似しています。
同じ魔の欠片を持つ私も同じようなことができるのかはわかりませんがね。
しかし、この魔王城とやら、外と中が全く釣り合わない大きさなんですよね。外から見るとさして高くは見えなかったんでず明らかに中身は別物です。
「一体どういう魔法を使っているんでしょうか? 城が空を飛ぶ魔法というのにも非常に興味がありますが」
まぁ、今は魔法の事とこの部屋のことは置いておきましょう。
それよりも私はここについてから気になっていたものに向かい、手にした剣を引きづりながら歩みを進めます。
それはこの穴だらけの空間にはひどくそぐわないものでした。
そこにあるものはかつて騎士の国で見たことがあるような王が座る椅子。王座でした。
別になにか特別な細工がされているようには見えませんがどことなく違和感のような物を感じるものです。
「な、なんなんですか、あの魔王との戦い方を無視したわけのわからない力任せの攻撃は…… 戦いの美学というのが微塵もわかっていないあの戦い方は!」
そんな王座の後ろから声がぶつぶつと恨み言のようなものが呟かれています。
私が剣を引きずりながら歩いているにも関わらず気付かないとは余程頭にきているんでしょうね。
「こうなっては仕方ありません。魔王としての見せつけてやり魔王のあるべき姿をあの不届きものに見せつけてやる必要が」
「いや、必要ありませんね」
「ひゃ?」
なにやら力強く決意を固めていたようですがそんなシェリーの後ろから王座を挟むような声をかけてあげると意外と可愛い声を上げながら飛び上がりました。
「り、リリカさん⁉︎ な、な、な、なんでここに⁉︎ まだ一階にいたはずでしょう⁉︎」
はて、なんで私が一階にいたことがわかるんでしょうか? いや、何かしらの古代魔導具か魔法を使っているのでしょう。あとでこの城を探せば色々と出るかもしれませんね。
「そんなことはどうでもいいんですよ」
ニッコリと笑みを浮かべたまま私は手にしていた剣を振りかぶり、そして即座にシェリーの首に向かい振り下ろしてやります。
「ひぃ!」
完全に戦う姿勢ではなかったためか一瞬、瞳を恐怖に染め、迫る刃から目をそらすかのようにシェリーは目を閉じます。
しかし、振り下ろされた刃はシェリーの首を両断することなく金属音を鳴らしながら、私が振るった剣のほうが両断される羽目となりました。
いや、両断ではありませんね。へし折れたようです。
「ふむ、やはり普通の剣では無理ですか」
「え、え?」
予想していた結果を見た私はまずまず満足気に。なにがどうなったかよくわかっていないシェリーは戸惑ったような表情をしています。
やがて自分に刃が通じないことに気づいたシェリー笑みを浮かべ、腰に吊るしていた剣、白ノ華を抜き放ち私へ向かい突撃してきます。
ゆっくりと迫る刃を武器を失った私は自身の体に刃が突き刺さるのをただ見ているしかありませんでした。
「あらぁ? リリカさん、なぜ防御しないのです? それとも私が強くなり過ぎましたか
ぁ?」
言い方がいちいちイラつきますね。
「残念ですよ。この退屈な世界での最後のイベントがこんなにあっさりと終わってしまうなんて」
そのわりには顔がにやけていますがね。そんな勝利を確信しているシェリーを見ながら私は深々とため息をつきます。ついでに血も吐きましたが。
「で、いつから私が本物だと思ってました?」
「へ?」
優越感に浸っていた笑みから一転し、間抜けな顔をしているシェリーを見下ろしながら私は命令を受信。私の胸に白ノ華を突き刺しているシェリーの腕を掴みます。ええ、これで逃げれませんよ
「自爆」
「ちょ⁉︎」
一瞬にして恐怖に歪んだ顔をしたシェリーの姿を見た私は命令通りに全身の魔力を暴走。周囲を閃光で包み込み、そして意識をなくしました。




