私が作り出した解剖よ……
「任務、完了」
「いい仕事でしたね。ヴァン」
私の背後の暗い廊下から滲み出るように姿を現したヴァンに労いの言葉をかけます。
「ちゃんと歩きながら見ていただいたようで助かりましたよ」
「報酬はいただく」
先ほど別れる前に渡しておいたポーション。それの一本目に貼っておいたメモ。それに書いておいた内容。それは気配を消したヴァンによる背後からの一撃を頼むものとそれに使用する物を隠すためのものでした。
「暗殺者なら気配を消して背後から迫るなど容易い」
容易いっ言う声には誇るような響きが乗っていますね。ですがそれだけの技量を持っているわけですから認めるしかないでしょう。
「しかし、リリカの作ったこの針のほうがやばい」
そう震えるように言いながらこの壁に埋もれるようにしているベシュへと近づくとその首筋に刺さる小さな針を引き抜きます。
今、ヴァンの手にある針こそがベシュを一瞬にして昏睡さした武器。
「私が作り上げた解剖よ…… んん! 治療用麻酔薬です」
「解剖用って聞こえたけど」
「この針に塗られている薬は一雫に満たない量でさえ下手したら死ぬほどのヤバさです」
「…… そんなものを知り合いに?」
なぜか怯えたような表情を浮かべて私から距離を取るんでしょうか?
「ベシュがこの程度で死ぬわけないですよ。底なし沼にはまっても三日は生きていたようなやつですよ?」
呼吸できない状態で三日も生きていたのは今でも里では恐怖の代名詞として伝えられているでしょう。
「しかし、よくこんは小さなものを寸分狂わずに動くベシュの首筋に突き刺すことができましたね」
針って里にいるときに投げたことがありますがまっすぐ突き刺さってくれないんですよね。なんだか角度が重要なようなんですが何度練習しても上手くいきませんでしたし。
「これ使った」
どこからかヴァンが取り出したのは先端に穴が開いた細長い棒のようなものでした。
「なんですこれは?」
「これは吹き矢といってリリカが渡してきた針と同じようなものを飛ばして攻撃する武器」
「ほほう」
ヴァンが掲げる吹き矢なるものを受け取りひっくり返したりして調べて見ます、が特に目新しい技術や魔法が使われているような感じはしません。
「ここに息を吹き込むと魔法で空気が圧縮されて針を放つ仕組み」
「ほほう」
ヴァンに言われた通り吹き矢の穴に口をつけると軽く息を吹き出してみます。すると軽く吹いたにもかかわらず結構な速度で針を打ち出し、その針は気絶しているのか寝ているのかよくわからないベシュのお尻ふと突き刺さりました。
「おお! これはおもしろい」
「里に伝わる自慢の暗殺道具の一つ」
誇らしげに告げるヴァンの横で楽しくなった私は連続で息を吹き矢へと吹き込んでいきます。プシュっという軽い音が鳴るたびにベシュのお尻に針が一本、また一本と刺さっていきますが彼女は起きる様子は見られません。
やがて彼女のお尻が里で見た針モグラみたいに針で埋め尽くされてしまいましたがそれでも目を覚ます気配がありませんでした。
「うーん、この薬は効きすぎてリアクションが楽しめませんし失敗作ですね」
「かってに失敗作にしないで。そもそも拷問向きじゃない」
あらやだ。
ごうもんだなんて物騒なことをいうなんてなんて恐ろしい子!
「ま、動かないなら都合はいいです。邪魔者が起きない間に進みましょう」
「ん」
短く了承の意を示してきたヴァンとともに歩き出そうとした私は不意に上を見上げ、フィー姉さんの闘気により作り上げられた大穴で崩れそうになっている場所をみつけます。
「あそこにしましょう」
意識が戻らないベシュをその崩れそうな場所の下へ移動させ、針まみれのお尻を高々とあげるような姿勢を取らしておきます。
「これで瓦礫が落ちてきたら楽しいことが起こりますね」
「……鬼」
晴れやかな気分でスキップをしながらその場を離れる私の耳には非難するようなヴァンの声などはいらないのでした。




