歩きながら必ず読んでください
「さあ! リリカ! 長年の決着を今ここでつけてやるわ!」
血の滴る 巨大を討つ剣を振るい血を飛ばし、切っ先を私へと向けてくるベシュ。
こいつは今の状況がわかってるんでしょうか? いや、それよりも確認することがありますね。
「私を殴りつけたのはあなたですか?」
『え、そっち?』
「それ以外に何を聞くというんですか?」
『どうしてベシュがここにいるの? とかさ。普通なんじゃない?』
「ベシュなんてどうでもいいんですよ」
「聞こえてるわよ!」
ベシュがどこにいようとどうでもいいんですが、そんなことより私を殴ったのかどうかのほうが問題です。
『やられたらやり返す。二倍で済むと思うなよ byリリカ』という名言を残してもいいくらいマジです。
「まあ、くーちゃんが気にしてるから聞いてやりますよ。なんであなたがいるんです?」
確かに『魔王絶対許さない同盟』の中にはエルフ達の姿もあったのはオリハルドラゴンの背中の上から確認していましたがこいつがいるとは思いませんでした。
「ふふん! 私くらいの強さになるとどうしてもって呼ばれるのよ!」
「あ、そうですか」
どうせこいつのことです。
里に帰って暇だったから外に出てみたら魔王がとうたらという話を聞いてエルフの面々を率いてきたんでしょう。
「長老もきてるんですか?」
長老もきているとなると面倒ですね。棺桶に片足を突っ込んでいても一応はエルフの里の戦士。この間はわけのわからない武器で自爆してくれてましたがまともな武器を持っている状態なら戦いたくありません。
「長老なら膝に矢を受けて……」
「あら以外ねぇ。戦線離脱かしら」
フィー姉さんが心配? そうな声色でしゃべっていますが顔はめちゃくちゃいい笑顔を浮かべています。
「膝に矢を受けて倒れたところを重鎧の騎士たちの乗る馬に引かれて死にかけの重傷よ」
『馬に引かれて……』
「なんて哀れな……」
しかも重傷とは。ま、あのジジイも殺しても死なないタイプのエルフですし戦線離脱しているだけでも良しとしましょう。
「それであなたが魔王城にいるのは何故です?」
「決まってるわ!」
大きな声をあげるとベシュは 巨大を討つ剣を床へ突き刺し空いた手を私に向かい突き出してくると指さしてきます。
「私は長老の孫! いずれはエルフの里の長となるもの! その私がリリカ! あなたのような落ちこぼれに負け続けていたという汚点を消すためよ!」
「はぁ」
「だからこそリリカ! 今日、この誰も目につかないこの場所で私はあなたを殺してみせる!」
つまり今までの負けを帳消しにするために私を殺すと? 相変わらず思考がぶっ飛んでるやつですね。
「フィー姉さんがいますが?」
私が聖剣に闘気を集めているフィー姉さんを指さします。
「なななななんでフィーさんがここに⁉︎」
「いや、さっきも返事してたじゃないですか」
「やっほ〜」
闘気をまとった聖剣を音がなる勢いで振り回すフィー姉さん。
そこの顔には純粋に久々に知り合いに会えた喜びの笑顔が浮かんでいます。対してフィー姉さんがいることに気づいたベシュはというと顔面蒼白です。
こいつは昔からフィー姉さんには頭が上がりませんでしたからね。物理的な意味で。
「成り行きでここにいるのよ? ついでに魔王を倒しにきたのよ」
魔王はついでで倒されるような存在だったんですね。
「だ、だったら私とリリカの決闘は手出し無用でお願いしますよ⁉︎」
「さすがにお姉ちゃんも人様の決闘には手出ししないわよ?」
心外だと言わんばかりの顔をしていますがこの人は気分屋ですからねぇ。どう動くかわかりません。
「ベシュ、あなたの相手ならあとでしてあげますよ。あなたより先に私の楽しみをぶっ壊そうとしてる奴を張り倒して泣かさないといけないんですよ」
「そんなこと言って、そいつ倒したら逃げる気でしょ! そうはいかないんだから!」
変なとこで勘が鋭い奴ですね。
ため息をつきながら魔ノ華を仕方なしに構えます。
「フィー姉さんは先に進んでください。このバカと闘わざる得ないようなんで」
「あら? ここで上に撃ち続けたらダメなのかしら? これ楽しくなってきたんだけど?」
「ちょっと周りを気遣えなくなると思うのでやめてください」
「ちぇ」
フィー姉さんが聖剣に纏わしていた闘気を唇を尖らしながら簡単に散らしています。が頼んでおいてなんですが普通はそんなに簡単に集めた闘気は散らせないと思うんですよね。本当に規格外な存在です。
「ヴァン、クク、ゼィハも先に進んでください。それからヴァンにはこれを」
私は魔法のカバンからいくつかポーションを取り出しヴァンへと放っていきます。結構適当に投げたにも関わらずヴァンは容易く受け止めました。さすがは暗殺者を名乗っていることはありますね。
「一本目のポーションに効果を纏めて書いた紙を貼っておきました。歩きながら必ず読んでおいてください」
「……了解」
「では先に進んどいてください。ベシュ、私が残ればいいんでしょう?」
今更ながらに確認するとやはり私だけが狙いのようでベシュは何も言ってきません。
『リリカ……』
「くーちゃん、あなたも先に行っといてください。すぐに追いつきますよ」
『……うん』
心配そうにしながらもくーちゃんはゼィハの頭の上へと行くと座ります。それを確認してからかフィー姉さん達は移動を開始し、やがて暗い廊下の奥へと消えていきました。
それを見送った後に私は手にしている魔ノ華の柄を強く握りしめ、ベシュへと向きなおるのでした。




