めっちゃ血がでてますね!
上から響く悲鳴? に驚きましたがまさか当たるとは。
私の幸運も捨てたものではないかもしれませんね。
「フィー姉さん」
「なぁに?」
聖剣を振り下ろした姿勢のままでいたフィー姉さんでしたが私の声に反応してこちらを見てくれます。
そんなフィー姉さんにわかるように私は指を一つ立てると先程開けてもらった大穴より僅かにずれた場所を指さします。
「今度はこっちで」
「わかったわ〜」
再び聖剣を振りかぶり全身に纏う闘気をふくらましていきます。
「ヴァンは周囲の警戒を。あとゼィハ用意してもらってたのを出してください。全部です」
「了解」
「いいけどここで全部使っちゃうんですか?」
「ええ、大事に持っときたいものでもないでしょう?」
「そりゃそうですけど……」
ゼィハから受け取ったものを私は自分の魔法のカバンへと移します。
「二発目よぉ」
フィー姉さんの声とともに再び膨大な闘気が放たれ、魔王城の内部を突きくずしながら上へと飛んでいきます。
しばらく闘気が城を壊す音が響いていましたが。
『ひぃぃぃぃぃ⁉︎ またきたぁぁぁぁぁぁ!』
「やっぱり上にいるみたいですねー」
あの悲鳴の感じからして二発目の闘気もどうやら近くに飛んで行ったようですね。
『どうして逃げないんだろ?』
「どうせシェリーの事です。悪党の美学とかに拘ってるんでしょう」
『美学?』
「ええ、馬鹿げた美学です」
フィー姉さんに再び闘気を放つ場所を指さした後にうなずきます。
すぐさま放たれる闘気の塊に背を向け、くーちゃんへとむきなおります。
「大方、『私は魔王! つまりはラスボス! ラスボスなら高いとこにいるべきですわ!』とか意味のわからない事を言ってるに違いありませんよ」
『そんなバカな』
くーちゃんが苦笑いを浮かべていますがいやいや、シェリーならありえますよ?
『わぁぁぁぁぁ⁉︎ またきたぁぁぁぁぁ!』
また頭上の大穴から悲鳴がきこえてきたのでくーちゃんの方を見やるとそんなバカなといわんばかりに口を大きく開けて呆れていました。
『ま、負けません! 私は魔王! つまりはラスボス! ラスボスなら高いとこにいるべきですわ! ここは絶対死守ですわ!』
一語一句同じ言葉がくるとは思いませんでしたが、やはりシェリーはバカのようですね。
「そういうわけですよくーちゃん。おバカな魔王様は上でお待ちしてくれているようです」
『魔王ってこんなにバカな存在でもなれるものなの?』
ほかの魔王にあったことはないので知りませんがね。でもこんな魔王ばかりなのもひどく迷惑な話ですよ。
「フィー姉さんまだいけます?」
せっかくまだ上に留まる宣言をしてくれたわけなんですからね。ここは下から攻撃し続けるのが良いでしょう。
「いけるわよぉ」
「ではお願いしま……」
「妹どの! 危ない!」
フィー姉さんにさらに追撃をかけてもらおうとした瞬間、切迫したようはヴァンの声が耳に入ります。そしてそちらを向こうとした瞬間、私の頭に衝撃がはしり、次に周囲の景色がぐるぐると回ります。
しばらくして視界の回転が止まるとフィー姉さん達が壁に立っています。
「? どうやって壁に立ってるんです?」
『ちがうよ! リリカが倒れてるんだよ!』
倒れてる? 私が?
そう言われると確かにお腹の下に硬くて平べったいものが当たると思ってましたが。これは床でしたか。なるほどならばフィー姉さん達は普通に立っているだけということですか。
そうわかると体を起こし、立ち上がろうとすると右側の視界だけが赤く染まり、さらには床についた手にも水滴のようなものが滴り落ちてきました。
「城の中なのに雨ですか?」
『り、リリカ⁉︎』
「血塗れじゃないですか!」
慌てたようにしてゼィハとくーちゃんが近寄ってきます。その間に軽く右眼の周りをぬぐってみると手が真っ赤かっです。
「めっちゃ血がでてますね!」
「なんでそんな嬉しそうなんですか!」
いや、なんかまともな量の血を見たのが久々な気がして…… って血がでてるとわかったら目眩がしますね。
「ふふん! 今回はみねうち? ってやつにしてやっわよリリカ!」
「ああん?」
この不快な声は。
聞いただけでイラっとするような声が響いた方へと少しばかり痛む頭を抑えながら向くと血を滴らせる 巨大を討つ剣を手にし、満面の笑みを浮かべたベシュの姿が目に入ったのでした。




