最近のは飛ぶんですね
「よし、叩き切りましょう」
『え、突然だね⁉︎』
だってこいつは私がまだ見てない世界まで潰そうとしているわけですからね。
それは看過できません。
いまシェリーを潰しておけば少なくとも私の今後しばらくの楽しみは確保されるわけですよ。
腰のぽちを引き抜き、即座に魔ノ華へと変化。刃を返し、まだペラペラとしゃべり続けているシェリーの首へと狙いを定めます。
「一撃で切り落としますから痛みはないはずです」
息を軽く吸い、そして吐き出す。
眼を閉じ、全身の力を抜き、体に流れる魔力の流れに意識を向けます。
そして瞳を開いた瞬間に全身に魔力を漲らせ、踏み込む。
一瞬にして最高速での踏み込みを行ない、さらには魔力を纏った魔ノ華を容赦なく振るう。これだけペラペラとしゃべり隙があるのだからそこまでしなくても問題ないほどでしたが念のために全力です。
吸い込まれるようにシェリーの首へと迫った魔ノ華の刃はしかし、シェリーを切り裂くことなく彼女の皮膚で停止します。
「なんですとぉ⁉︎」
ビリビリとした痺れが私の腕にはしります。つまり、魔ノ華の刃は確実にシェリーの首に当たっているはずなんです。それに確実に斬り裂けるだけの力と魔力は込めていたにもかかわらずシェリーの首筋には刃による傷が一切付いていませんでした。それどころか攻撃をした私の手が衝撃で裂け、血を滴らしています。なんたる硬さ。
「リリカさん、人が語っている時に無粋ですわ」
少しばかりイラついたような口調でシェリーが繰り出すのは拳。いつもなら魔ノ華で受け止めるところです。しかし、体全体が魔ノ華で斬り裂けないほどの硬さとなっているのであれば受けるのも危険です。
咄嗟にそう判断し、体をかがめることで拳を回避。しかし、屈んだ私の視界に今度は繰り出された足が目に入ります。屈んだ状態で躱すのは不可能に近いので魔ノ華で受け止めます。予想通りというべきかシェリーの足は魔ノ華で切ることは叶わず、それどころか力負けした私は軽々と吹き飛ばされます。
「なんて馬鹿力ですか」
吹き飛ばされながらも恨みごとを言い、さらには魔ノ華を大地に突き刺すことでその場にとどまります。
「どうですリリカさん、私の力は!」
興奮したように、そして力に酔ったかのようにシェリーは声を大にして叫びます。そんなに大きな声を出さずとも聞こえるというのに。
しかしあの力、帝国にいた時にはおそらくは持っていなかった力でしょう。持っていたのであればあの時、転移用の魔力を抜かれただけで顔が恐怖に歪むこともなかったと思いますしね。
そう考えると導き出されるのは、
「魔の欠片なわけなんですよねぇ」
どこで手に入れたかは知りませんがあれほどの力をすぐに手に入れることはできません。しかし、魔の欠片であれば力を引き出すことさえできれば爆発的に強くなることが可能です。
「リリカさん、答えを聞いていませんでしたわ」
自分が優位に立っていることを思い出したのかシェリーは微笑みながら尋ねてきます。
私はひとつ大きくため息をつくと立ち上がり、魔ノ華を肩に乗せながらシェリーに向き直ります。
「答えはノーですよシェリー。私はまだこの世界には退屈はしていませんのでね」
そう私が答えるとシェリーは口を半月のように歪め笑みを浮かべてきます。なにか面白いことでも言いましたかね? 私は。
「ええ、残念です。とても残念ですよリリカさん」
あなた、大して残念そうな顔はしていませんでしたがね。
「ですが嬉しくもあります。この退屈な世界で最後にあなたを始末するという刺激的なイベントが行なえるんですから」
「ここで戦うつもりですか?」
肩に担いでいた魔ノ華を構え、シェリーを睨みつけます。ですがシェリーの笑みは崩れません。
「ふふ、こんなとことで最後のイベントを消費するのは勿体無いですわ」
そう告げると細い腕を私に見えるほどの高さに上げ、その細い指を鳴らします。
パチンっと乾いた音が鳴った瞬間、私達を覆うほどの影が落ちてきました。
「まだ、日が落ちるには早いはずですが……」
『上! リリカ! 上にでっかいのがあるよ!』
くーちゃんに言われるまでもなく上を見上げた私は呆然としてしまいます。
「最近のは飛ぶんですねー 羽根を羽ばたかせながら」
『城はとばないよ⁉︎』
頭上にある物、それは羽をばたつかせながら空を浮かぶ巨大な城でした。




