あなたの思考の方が明らかに毒されてるというか狂っていますからね?
「ですから私の目的って本当に聞く気がありますの⁉︎」
「ん? あるある」
鋼の大精霊メルルから貰った鋼の加護を使い小さなナイフを作り出した私はそのナイフを駆使して先ほど取り出したリンゴの皮を剥いていきます。
さすがは大精霊の能力。
リンゴの皮がとても剥きやすいですね。
「欲を言うならば切ったら甘くなるような力を付与してくれればよかったんですけどね」
『多分一番無駄な大精霊様からの加護の使い方だよ』
私が切り分けたリンゴを受け取りつつもくーちゃんがなんとも言えないような複雑な表情を浮かべていました。
「聞く気がないのですかぁぁぁぁぁぁ!」
全く少し構わないだけでこれですか。甘えたがりですか、かまってちゃんですか。
「いや、ありますって。どうぞどうぞ」
ええ、ちゃんと興味はありますよ。内容次第ではいろいろと私も動かないといけませんからね。
「そ、そうですか、やっと聞いて下さるんですね」
話を聞くと言っただけで花が咲いたようにパァッとした笑顔を浮かべていますね。チョロすぎますね。大丈夫ですかねこの魔族は。
すごくあっさりと騙されそうです。性根は腐ってますがなにせ無駄に純情ですから。
そんな私の心中など知りもしないシェリーはというと何度か咳払いを行ない、真面目な顔を作ろうとしているようですが顔が緩みまくっています。完全な失敗ですね。
いやはや、少し離れたところではフィー姉さん達とアリエル軍団が戦っているというのに呑気なものですね。
「私の目的、それは刺激に満ちた世界を作るということですわ!」
「刺激に満ちた世界を作る?」
『どういうこと?』
シェリーが楽しそうに言い放った彼女の目的に私とくーちゃんは首を傾げます。
だって意味がわかりませんから。
「それはどう言った世界なんでしょうか?」
「その前にリリカさん、あなたに聞きたいことがあります、あなたは今の世界で満足でしょうか?」
私の質問には答えずにシェリーは逆に私に質問を投げかけてきました。
「今のとこは特に不満はありませんよ」
その質問に対して私は大して悩むことなく答えます。
なにせ私の知る世界というのは極めて限定的で狭い世界ですからねぇ。なんとも判断がしづらいものです。
すると明らかにシェリーはがっかりしたかのように瞳が暗くなります。なんなんでしょうか? 私は普通に感想を述べただけなんですけどねぇ。
「ええ、毒されてます! 毒されてますわリリカさん!」
あれ? なんか変なスイッチ入りましたか?
「いえ、あなたの思考の方が明らかに毒されてるというか狂っていますからね? そこをまずは自覚してください」
「そう! 世界の文明は進みすぎたのです!」
「あとちゃんと私と会話してください」
だめだ、これは人の話をまるで聞かない状態だ。ああ、里にもいましたねぇ。人の話を一切聞かずに自分の夢とか理想とかをひたすらに話し続ける人が。そして総じてこのような人種は自分が満足するまで話を終えないものなのです。
「世界の文明が進みすぎたせいで人はだらけるということを覚えたのです! 怠惰! この言葉が蔓延る世界では刺激など減っていくだけです!」
魔法のカバンから新たなリンゴを取り出し、再び鋼の加護を使います。今度は鋼糸状にし、空に放り投げたリンゴが宙にある間に鋼糸を振るい皮と実を一瞬にして切り分けますが微妙に歪な形に切り裂いてしまいました。
『す、すごい!』
「慣れすね」
あと何回かすれば完璧にできるでしょう。そう考えた私はまた魔法のカバンからリンゴを取り出した再び鋼糸で切り裂いていきます。
気づくと魔法のカバンの中のリンゴが空になるくらいやってきました。おかげでリンゴでウサギさんが作れるくらいには鋼糸の扱いが上達しました。
少しばかり太陽の位置が変わってますが……
「つまりこの世界に生きている生物を減らしていけば人は生きるのに必死になる! すなわち怠惰ではなくなるわけですわ!」
大量に作ったリンゴを食べながらシェリーの演説らしきものを適当に聞きます。
意味のわからないことをひたすらに言ってはいますが簡単にいうと。
「文明が進んで便利になったからみんな堕落しているので世界を壊そう! ってことですよね」
『すっごい物騒だ!』
まだ語ってるシェリーを半目でみながら私は魔ノ華の柄を握り締めたのでした。




