この街の名前? わからなくても大丈夫
馬車に揺られること三日。
私とマリーは新たな街に到着しました。
「ああああ、体が痛い! 狭いとこは嫌ですね」
「馬車はそんなものだといったでしょう。それよりもこの街から次の街への移動手段を確保しませんと」
『「え~」』
ようやく地面に足をつけ伸びをしていた私とくーちゃんが不満の声を上げます。
せっかく街に来たのです。そんなに急いで旅をしたくありません。
「宿で寝たい~ 熟睡したい~」
「それもそうですわね。確かにわたくしも沐浴くらいはしたいですわ」
そうでしょそうでしょ。私も体の汚れとか落としたいですし。
宿は確保したいとこですよね。
そういうわけで意見が一致した私たちは一緒に馬車に乗っていた商人に別れを告げ、最寄の宿場へと足を進めます。
宿場には私たち同様の冒険者らしき人たちが幾人か見えます。やっぱりみんなベッドで寝たいんですね。
「おじさん、宿は空いていますか?」
カウンターでほかの冒険者の対応を終えたおじさんに話しかけます。
「運がいいなあんたら二人で部屋は埋まるところだ」
宿泊代をその場で払い部屋を確保しました。これで自由時間ですね。
「じゃ、私街、見てくるね!」
『ね!』
「ちょっと!? 沐浴行くんじゃなかったんですの!?」
「あーとーでー」
マリーの言葉を後ろに置いてきぼりにしながら私とくーちゃんは街を走ります。
しばらく街を走り回っていて気づいたのですけどこの街はティスタニアと違いあまり大きくはないですが立派な建物がおおいですねぇ。なにより街の至る所に女性の石像が建てられていますし。ここは芸術の街かなにかなんですかね?
「そう言えばこの街の名前聞いてませんでしたね」
『聞いてないね』
マリーなら知っていそうですがわざわざ聞きに戻るのも面倒ですね。
まぁ、街の名前くらいわからなくても問題ありませんし。
私とくーちゃんはそのまま観光を続けます。途中、くーちゃんにあげるようの果物を買ったり。|全てを弓へ≪オールボゥ≫用のナイフなどを買い込みます。安物ですので使い捨て感覚で使うとしましょう。
それにしても、
「この国ではああいう服が一般的なんでしょうか?」
『わからなーい』
私が見ているのは先ほどからすれ違い人たちが着ている蒼いくるぶし丈のゆったりしたローブです。頭には裾の大きい頭巾のようなものを被っていますね。
「お前さんは旅の人かい?」
「そうです」
珍しそうに見ていると話しかけられました。
「ならあの修道服は見たことがないのかい?」
「エルフの里から出るのが初めてでしてね。あれ修道服というのですか」
勉強になりますね。
「ああ、あんたエルフだったのか。なら人間の宗教なんてしらないわな」
おじさんがやたらと私をジロジロと見てきます。この街でもエルフは珍しいようですね。そこいら中から不躾な視線を感じますし。
「まぁ、あの服は神に仕える教会の人間が着る服さ。この街にはイリス教の教会しかないけどね」
「ふーん」
人間の宗教は色々と神様がいると聞いたことがありますからね。信仰に厚いことです。
あ、エルフには宗教とかはありませんでしたね。神様とか信じていませんでしたし。精霊さんが信仰に近いのでしょうか?
視線を上に向けるとくーちゃんは何故か機嫌が良さそうです。
『わたし敬われてる?』
「まあ、それなりには」
敬われて嬉しいようでした。よく考えるとなかなかちょろい精霊ですよね、くーちゃんは。悪い人に騙されないかが心配になっとしまいます。
「興味があるならこのまま真っ直ぐ行ったとこにある教会に行ってみるといい。イリス教の教会がある。ただ、かなりの変わり者ばかりの教会だから気をつけなくちゃだめだぞ?」
なるほど、教会と言えども油断はするなと言うことですね。親切なおじさんです。
「そうします。ありがとうございました」
おじさんに礼を告げ興味が湧いた教会の方へと歩き始めます。
「まぁ、流石にイリス教の連中もあんな子供には手を出さないだろう」
ボソリとおじさんが言った不穏な言葉は当然私には聞こえませんでした。
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