勇者ってなんでしょうか? 付録?
「し、死ぬかと思いましたわ」
「あ、いきてたんですか」
体のいたるところから血を流し、歩くたびに血を飛び散らせるようにしてシェリーが私の横に並んできます。私は自然に見えるように距離をとりますが、なぜか距離を詰めてくるのでため息をつきながら止まります。
「なんなんですの! あれはなんなんですの⁉︎」
ヒステリックになりながらシェリーがアリエルと楽しげに打ち合うフィー姉さんを指さします。
「あれはフィー姉さんです」
「そんなことはわかってます!」
親切に教えたのに…… ひどい。
「そうじゃなくて! なんで魔の欠片を手にして強くなった私の防御壁を突き破るくらいの力を持っていますの⁉︎」
「そう言われましてもね。フィー姉さんですし」
正直な話、フィー姉さんがシェリーに負けるとかそういった姿を想像できないんですよね。
「アリエル! その女を叩き切りなさい!」
「は……い! お嬢、さま!」
声を荒げながらアリエルに命令を下していますが対してアリエルはそれどころではないようですね。というのもククの補助魔法を受け、攻守ともにパワーアップしているフィー姉さんが完全なる力押しできているわけですからね。
さらには大振りになり隙ができたとしてもそこはヴァンがフォローしているので全くと言っていいほどに隙が見当たりません。
「あれを見てるとカズヤって実はいなくてもいい存在だったんだなぁとおもってしまいますね」
『それはそうだねぇ』
アリエルは強い。確かに強いです。
ですがそれは一人として強いという意味です。
逆にフィー姉さんたちははパーティで強いというべきでしょうか? 個人としてもかなりの強さを持っているフィー姉さんですが隙をなくすように動いてくれる仲間がいることでより一層の強さを発揮しているのでしょう。
勇者ってなんでしょうか? 付録?
「ほーら」
軽い声とともに闘気を纏った拳がアリエルへと打ち付けていくフィー姉さんの顔は笑顔。対峙し、武器を操るアリエルの方はというと焦りのようなものが目に見えます。
アリエルの振るう白ノ華を正面から受けず、側面から殴りつけて軌道をそらしたり、振り下ろした白ノ華を踏みつけて武器として使えないようにして蹴りを放ったりとまさに縦横無尽と言える動きをフィー姉さんが見せてきます。
「完全にフィー姉さんが推してますね」
初めのうちでこそヴァンの援護もありきで戦っていたフィー姉さんですがすでにアリエルの力を見切ったのか隙が減っています。確実にアリエルにダメージを与えるように動き、さらには攻撃をいなし、反撃する。
「あ、アリエルが……」
横のシェリーも言葉にならないようですがフィー姉さんが負っている傷はかすり傷、ですがアリエルが負っている傷は小さくないものばかりです。アリエルが動くたびに地面には点々と赤い花が飛び散っていますしね。
「……魔華解放」
フィー姉さんの拳を白ノ華で弾き飛ばし、体がガラ空きになったのを好機と見たのかアリエルが私が使うものと一字一句同じ名前を呟きます。
今まででさえバカみたいに魔力を纏っていたにも関わらずそれらがさらに膨れ上がり、アリエルの全身を強化。さながら雷を纏っているかのような眩い光を体に帯びたアリエルが雷光の閃きの如く放った斬撃がフィー姉さんを襲います。
「『なっ、』」
しかし、その斬撃は甲高い音と、私たちの驚愕の声により止められていました。
フィー姉さんの肘と膝により白ノ華の刃が挟まれて静止していたからです。
「な、んで!」
「お姉さんびっくりしたわぁ」
目を見開くアリエルと軽く額の汗を拭うだけのフィー姉さん。どう考えてもびっくりするだけでどうこうできるものではないと思います。
肘と膝で刃を挟む。
言葉にすればとても簡単なことですがそんな簡単にできるものではありません。
あれだけの魔力のこもった一撃を周囲に霧散させるわけでもなく、同じだけの力を込めて相殺。さらに的確に攻撃を見極め、絶妙なタイミングでしなければそんなことは無理でしょう。というか私なら不可能。
「本当にぶっとんでますよ」
唖然とし、呆然としていたアリエルの顔面に裏拳をぶち込み、吹き飛ばしているフィー姉さんを見て心の底からそう思います。
鼻血を飛び散らしながら後ろに飛んだアリエルですが空中にて一回転し、華麗に着地。未だ肘と膝で白ノ華を挟んだままのフィー姉さんをにらみます。
対峙するフィー姉さんは興味深そうに自分の元に残った白ノ華を手にして軽く調子を確かめるように振り回しています。
「……戻れ、白ノ華」
「うん?」
アリエルが血をぬぐい、手を前に出し声を出すとそれに反応するかのように白ノ華が振動を始め、フィー姉さんの手から離れると一直線にアリエルの元へと戻ります。
「お嬢様、次の一撃のあとに離脱を開始します」
決死の覚悟、といった様子でアリエルは満身創痍の体を操り両手で白ノ華を握り構えます。
対面するフィー姉さんはというと軽く構えるだけ。いえ、ヴァンやクク、そして瀕死のカズヤがフィー姉さんの後ろに控えている様子です。
「うん、今の状況って私いらないですよね?」
「蚊帳の外だよねぇ」
ピリピリした雰囲氣の中、完全に部外者になりつつある私とくーちゃんはただただ傍観を続けるのでした。




