演技が上手なドラゴンですねぇ
「む、落ちませんでしたね」
空を飛び始めたオリハルドラゴンに向け放った武器は十本。その全てがオリハルドラゴンに確実に当たっていましたが小さな傷がついたくらいで落ちる気配は見られません。
「ゼィハ」
「わかってますよっと!」
幻想義手を操り魔力を込められた武器を手渡されるたびに私は全てを弓矢ににて矢へと変換し、攻撃を受け困惑しているオリハルドラゴンへと狙いを定め放ちます。
矢が放たれるたびに空気が振動するような衝撃がはしり私の腕にも負荷がかかりますがここは一気に勝負魔を決めるところでしょう。
放たれた矢がオリハルドラゴンに当たるたびに小さくない爆発が起こり、その度にオリハルドラゴンが悲鳴のような甲高い声を上げていますが効いてるかどうかわかりませんので攻撃の手を緩める気はありません。ええ一切ありませんとも。
絶え間なくひたすらに弓を射続けます。そのため爆発音も止まることなくひたすら鳴り続けています。だから耳が変な感じがします。
「ゴ、ゴァァァ……」
ひたすらに射続けた効果かオリハルドラゴンが情けない声を上げながら空から降りてきました。
しかし、傷一つついていませんね。
『ねぇ、なんか弱って……』
「よしゼィハ、もう奴が動く気が失せるほどに攻撃をし続けますよ!」
「合点です! あれほどのオリハルコンの塊、逃すわけにはいきません!」
目を爛々と輝かしたゼィハが次々と私へと武器を放り投げてきます。それを受け取るたびに私も変換し、再び矢を放ちます。
さっきは落とすために翼を重点的に狙いましたが地に堕ちた今、今度は。
「顔面狙いです!」
夥しい量の魔力の塊と化した矢がオリハルドラゴンの顔をひたすらに狙い続けます。
「ギャァァァァァァァァァァァァ!」
顔面を延々と爆発させながらオリハルドラゴンは声を上げます。必死に顔を守ろうとして腕で顔をおおっていますがそんなものは関係ありません。ええ、関係ありません!
『ねえ! あのドラゴンさん泣いてるんだけど⁉︎』
「あんなのは演技です。じじいも言ってました『女の涙に騙されるなよ? あいつら普通に嘘泣きするからな? こっそり目薬仕込んでるんだからな? by長老』と」
『長老は一体過去に何してた人なの⁉︎ むしろあのドラゴンは雌なの⁉︎』
「さあ?」
『適当だった!』
「ギャァァァァァァァァァァァァガガガ⁉︎」
「やかましいですっね!」
より一層魔力を込めた矢がオリハルドラゴンの顔の一部に突き刺さったのか本当に悲鳴のような声を上げています。
「はっはっはっは、痛がる演技が上手なドラゴンですねぇ」
「リリカさん、オリハルドラゴンは本気で痛がってるように見えるんですが……」
「作戦ですかね?」
弓を射ることをやめずに答えます。その間もひたすらに魔力の爆発が起こり、オリハルドラゴンの悲鳴(演技)が響き渡ります。
気のせいでなければ爆発する魔力のせいか四天王の三人とカズヤが吹き飛ばされてそこいら中を転がされまくっています。それもそれで面白いんですけどね。シャチクはというとあ、逃げてますね。
「ガァァァァァ!」
おっと少しばかり他に意識を向けていたのてオリハルドラゴンに向かう攻撃の手が緩まってしまったようですね。どうやらあちらも私達が超長距離から攻撃していることに気づいたようです。だってこっち睨んでますし。
オリハルドラゴンが大きく口を開き、こちらからも口内に魔力が溜まっていることがわかります。
「ブ、ブレス」
『やぁぁぁ! 死ぬぅぅぅ!』
「させませんよ?」
絶望的な声を上げるゼィハとくーちゃんでしたが私は口を開け、逆に無防備になった口内に向けてさらに矢を撃ち込んでいきます。
立て続けに放り込まれた矢が次々とオリハルドラゴンの口内に突き刺さりさらには魔力爆発を起こしていき、たまらんといった様子で口を閉じます。
いや、あいつ自分の口の中にブレス用の魔力貯めてたの忘れてません?
「アァァァァァァァ!」
私の軽い心配は的中し、オリハルドラゴンの閉じた口内でブレスか発生したのか爆音を上げながら炎が口から零れ、肉の焼ける匂いが立ちこめます。
カズヤ達はというと溢れる炎から必死に逃げ回っていました。遠くから見ると小さな炎のようでしたがおそらく近くではかなりの大きさなんでしょう。
そしてやっぱりというかなんというかフィー姉さん達は結界の中にいるために全く効果がありません。いや、魔力で吹き飛ばされているカズヤを見てさっき同様に笑っていますね。
「人の不幸を見て笑うとは本当に悪魔ですよね。あの人は」
「エルフの里には鏡がなかったと思えるような発言ですよね」
『でもやっぱり姉妹ってわかるよね』
「ん? なんの話です?」
なんとなく話してる内容が気になったので背後を振り返るとゼィハとくーちゃんがひそひそと話していました。
「いや、『人のことどころか自分もそうだろうが!』なんて思ってませんよ?」
『悪魔がここにもいるんですけど! なんて思ってないよ?』
「…… そうですか」
二人が私をどう見てるかよくわかるような発言ですよね。
「オォォォォ……」
今にも絶えそうな声が耳に届くと同時に大地が大きく揺れます。
再び、オリハルドラゴンのほうへと視線を戻すと土埃を巻き上げながらオリハルドラゴンが大地に倒れこんでいる姿が見えました。
「あれ? あっけなかったですね」
『オリハルドラゴンが不憫でならないよ』
「ええ、魔力のこもった武器をひたすらに遠距離から投げつけられ硬いオリハルコンの鱗まで貫かれてますしね」
「しょせん、この世はやきにくていしょく、なんですよ」
「……弱肉強食?」
「……それです」
痙攣するようにして倒れたオリハルドラゴンを見て私はそう答えるのでした。




