勝った奴こそが正義
『何する気?』
「ようら守りながら戦うからこんなことになっているわけなんですよ」
飛んで来る魔弾を切り裂きながらくーちゃんを諭すようにして私は言葉を続けます。
「ゼィハが目覚めないから守らないといけない。これはいうならばゼィハが動けないから守らないといけないわけです」
『そうなるね』
「だったら動けてかつ攻撃できるようにすればいいわけですよ」
『あのシャチクみたいにする気⁉︎』
信じられないものを見るような目でくーちゃんが私を見てきます。
「そんなわけないでしょう。そもそもゼィハはまだ死んでいませんよ。死んでないとシャチクみたいにはできません。……少しばかりやってはみたいですがね」
『死んでたらやるんだね……』
そもそも死んでたらこんな面倒な守りながら戦うなんてことは起こらないんですからね。速攻で下僕として作り変えてやりますよ。
「だから守るのをやめます」
『ゼィハを見捨てるの⁉︎』
「いえ、攻めながら守ります」
『ど、どういうこと』
「こういうことです!」
私は倒れ込んだゼィハを掴み上げるとそれを盾にするように構えると私の体が隠れるように調整していきます。
『ちょ! リリカ! 契約した者として言わせてもらうけど汚すぎない⁉︎』
「いいえ、くーちゃん。これが最善最強必勝の手です」
そう告げ私はゼィハのダークエルフの服に穴が空き、傷一つないお腹へと手を這わします。
「んん」
手を這わすと艶やかな声が上がりますがやはり傷ついている様子は触っている感触はありません。
「魔弾を食らっても傷一つありません。すなわちこれは最強の盾なわけですよ。これに私の魔力を流し込んで強化すれば……」
魔ノ華に魔力を流し込む要領で首元を掴むゼィハへと魔力を注ぎ込んでいきます。
途端、痙攣したかのようにゼィハが震えます。あれ? 流した魔力が多すぎましたかね? 人の体を強化するなんて発想は私自身の魔力が少なすぎたこともあったので全く考えたこともありませんでした。
しかし手応えはありました。
ゼィハの体は確実に強化されているというなんだかよくわからない確信を感じるほどの手応えが!
「あいつ、味方を盾にしていやがる!」
「あの長耳、エルフか!」
「くっ! やはりエルフが知的だというのは幻想だというのか!」
「俺たちの希望は絶たれた……」
なにやらいろいろと盛り上がっているようですが話している内容はただの幻想の押し付けでしかありませんね。
ここは彼らに現実を押し付けてやることにしましょうか。
「先に襲撃してきた奴らが何をほざこうが構いませんがね。一ついいことを教えてあげましょう」
手に持つ盾と魔ノ華へとに魔力を込め終えた私はその二つを構えます。
「この世界は勝った奴こそが正義であり負けた奴は価値などなく言った言葉もただの戯言なんですよ!」
『うん、仲間を盾扱いするリリカも価値がないと思うよ?』
「辛辣ですねぇ」
最近はくーちゃんの口が悪い悪い。しかし、くーちゃんは気づいていないんでしょうね。自分の変化に。私が丁度魔の欠片の力を引き出したあたりから妙に口が悪くなったりしていることに。そして今までは背中に生えている風の精霊の証である翠の羽が少しづつ黒くなっていることに。
初めは色が少し変わった程度かと思っていましたが今は普通に黒くなっていることがわかります。くーちゃんの場合は自分の背中にある羽根を見ることは無理でしょうから気付いていないようですがね。
あれが完全に黒く染まった時、くーちゃんはどう変化するんでしょうかね。それはそれで楽しみなんですがね。
その時の事を考えながら私は盾と魔ノ華を構え、ローブ達へと突っ込むのでした。




