あれは勇者だから存在を許されているようなものですよ
「眠い……」
「全くねれなかった……」
『すぴー』
私は別に朝は弱くありません。いえ、むしろいつも決まった時間におきれるほどに強いはずです。
ですが今日は私もゼィハも完全に寝不足の状態です。くーちゃんだけはぐっすりと憎たらしいほどに寝てヨダレをたらしていますが。
「あれ、一晩中やってたみたいですね」
私が指差したのはオリハル山の半ばで行われているシャチクによる勇者への妨害活動です。
未だに山からはやかましい轟音と黒い閃光と白い閃光がぶつかり合っていました。
「微妙に命令は守ってるんですよねぇ」
「確実に時間ずらしてやってますね」
山から見える光と音は別にひたすら聞こえたり見えたりしているわけではありません。どうも命令はしっかりとは守られていないようですが『睡眠を妨害する』というのと『ヤバくなったら逃げる』という事を微妙に守っているようです。
ゼィハのいう通り山から聞こえてくる音がかなり時間がばらけているようですし。
おそらくは勇者の元には適度? に攻撃をし追撃を受けそうになる前にシャチクは撤退しているような感じでしょうか? そして時間をバラつかせて再び攻撃をしているようですし。あんなこと繰り返されたら睡眠なんて絶対取れませんよ。
「それに今見ている感じでは勇者側の攻撃が少ないですよね」
黒い閃光はあの禍々しさから見てシャチクの放った攻撃でしょうが明らかに勇者が放っているであろう白い閃光による攻撃の回数よりも多いですしね。
「いや、普通に考えるんであれば夜の間ずっと攻撃をしのいでいる勇者も十分おかしいですよ?」
「……確かにそうですね」
疲れを知らないシャチクという亡者を相手に戦い続けていられるというだけで如何に勇者が馬鹿げた存在かというのがわかりますね。
「そういえば、シャチクってデュラハンなわけですけどデュラハンって魔物の中ではどれくらいなんです?」
「え、知らずに使ってたんですか⁉︎」
と言われましてもね、いまいち魔物のランクってわからないんですよね。むしろ魔物より人と戦ってるほうが多い気がするくらいです。
なんとなくならばどれくらいかというのはわかるんですがそれで知ったつもりになるのは危険ですからね。
「シャチクはどうも他のデュラハンとは違うようですがデュラハン自体は危険度で言うとAに相当しますよ。そもそもバッタリ出会ったものならば並の冒険者なんて即殺されるようなものですよ」
思ってた以上にやばいランクでした。
そうか、並の冒険者なら速攻でぶっ殺されるレベルでしたか。
そう聞いてもやはり勇者への警戒度は下がりません。それどころか上がりましたよ。
「やはり勇者は厄介極まりませんね」
「戦闘能力はピカイチですしねぇ」
そう戦闘力だけはピカイチというものです。人として見ればゴミクズ同然ですが。
「あれは勇者だから存在を許されているようなものですよ」
『ふあぁぁ、リリカって勇者に対してはすごく厳しい評価するよね』
「起きたんですね。当たり前ですよ。あいつは私の勇者という偶像を叩き潰しやがったんですから」
『勝手な意見すぎる……』
眼をこすり、欠伸をしながら話しかけてきたくーちゃんでしたがまだ眠そうです。
気高くかっこいい勇者像はカズヤにあったことで潰されてしまいましたからね。
ええ、認めますよ。あいつが気に入らないのは完璧に私怨です。
「あとぽちがカズヤを嫌っているというのもありますけどね」
魔の欠片をぽちに取り込んでからというもののどうもそちらに引っ張られているような気がしますしね。魔剣としての本質でしょうか?
「それでリリカさん。どうするんですか?」
「どうするとは?」
「いえ、今から勇者たちのとこに向かうんですか?」
「……あんなところに?」
見上げた山では未だに黒と白の閃光が交錯しています。それらはどちらも直撃していないようで山をひたすらに削り続けているようです。
「行きたいですか?」
「できれば行きたくないんですが……」
腰が引けてさらには逃げようとしていたゼィハの服を掴み逃亡を阻止しておきます。
ここまで来ておいて逃すなんてことはありえませんがね。
「まぁ、とりあえずはですね」
くぅぅう
どこからか、というかお腹の音が私の耳に入ります。
「ゼィハ緊張感がありませんね」
「え⁉︎ あたし⁉︎ いや明らかにお腹鳴らしたのはリリカさんでしょう⁉︎」
なにやら見苦しい言い訳を並べているゼィハを睨みつけます。
しかし、私もお腹が減りましたしね。
「朝ごはんを食べてからにしましょうか」
「だからあたしのお腹の音じゃなくてですね!」
『ゆるいなぁ〜』
お腹減ったわけですし。時間がかかっても勇者が疲弊するだけですしお得なんですからね。




