さっさと勇者を殺っちゃいたいんですが
「ん? もう見つけたんですか?」
さっきまで私の心配をしていたはずのゼィハは魔法のカバンからなぜか野営セットを取り出しています。
「いや、あなたなんでそんな野営の準備をしてるんですか」
「お腹減りましたし」
ゼィハのヤツも妙に逞しいですね。
そうこう言ってる間になんかいろいろと準備して言ってますし。
「ゼィハ、私はさっさと勇者を殺っちゃいたいんですが?」
「だからですよ。もう夕方ですよ? 夜の山は危険ですよ」
「ふむ」
確かに見上げると日が沈みつつあります。
暗い中にこの鉱石の森、と呼んでいいのかわからない中に入るのは確かに危険はありますからね。
『確かにわかったの?』
「ええ、あのピリピリした感じ。確実にカズヤの持つ聖剣でしょう」
船で初めて会った時もあの聖剣を見たときになんともいえない感じがしていましたからね。それがより強くなっている感じでしたがそれは魔の欠片の力を私が使いこなしているせいか以前よりも明確に感じ取ることができていました。
『勝てそう?』
「うーん、わかりませんね。カズヤも強くなっているような感じでしたからね」
力が増した私でも勝てるかわかりません。以前はボコボコにしてやりましたが。
「あ、そうだ」
『なにか思いついたの?』
不意に思いついた嫌がらせを実行してやりましょう。失敗しても私自体に損は一切ありませんし。
「シャチク」
「ハイヨロコンデ」
私の呼びかけに鎧が音を立てながら近づいてくると私の前に片膝をつき頭を垂れ、私の命を待ちます。
そこそこに使えるこのシャチクを使った嫌がらせ。この疲労、痛覚、恐怖といった生きている者ならば確実に追うであろうペナルティを一切受けない存在を使うというのはいい考えな気がします。
「シャチク、あなたの持てる技能を使い勇者への安眠妨害を命じます。期限は朝日が昇るまでです」
「ハイヨロコンデ」
「あくまで安眠妨害です。直接戦闘は避けて間接的にやりなさい。あ、殺れそうならやっちゃって構いませんよ? ですがヤバくなっら逃げること」
「ハイヨロコンデ」
鎧をカタカタと揺らしているシャチクはなぜか楽しげに揺れているような気がしました。まあ、生きているのを怨むのがデュラハンという魔物ですからね。睡眠妨害でも楽しむんでしょうか。いや、あわよくば殺っちゃおうとか考えてるんでしょう。そうしてくれたほうが私も非常に楽なんですがね。いやそもそもがここまで言っても無理なのでしょうかね。
「行きなさい」
「ハイヨロコンデェェェェ!」
私の命令に咆哮を上げながら立ち上がるシャチクは私が貸しあたえた呪いの大剣二本を背中から取り外し両手に一本ずつ持つとオリハル山へ向かい音を立てながら駆けていきました。隠密に行動する気があるのか? と疑問を抱くほどに前にある鉱物を粉砕していくシャチクでしたがやがて騒々しい音が小さくなり聞こえなくなりました。
「これで勇者は睡眠不足におちいるでしょうね。ついでに首が落ちたらなおのこといいんですが」
『地味だ…… 確かに地味だけど確実に効果がでそうだね』
「えげつないですね……」
失礼な。物事はいかにさきに情報を手に入れるかという事とどれだけ楽ができるかということが大事なのです。
今回は私がカズヤのいる場所がわかっているという事とシャチクという休まずに動く事のできる僕がいることでできる作戦なんですから。
「まあ、シャチクには間接的にと言ってましたしリリカさんもなんだかんだで勇者のことが気になってるんじゃないんですか?」
は? ゼィハはなにをいってるんでしょうか。
晩御飯の準備をするべく食材を出しながらゼィハの方を見やるとなぜかニヤニヤとした笑みを浮かべています。
ゼィハ、期待を裏切るようで悪いですがそんな恋愛的な要素はカズヤには一切ありません。
「勘違いしてるようですねゼィハ。私は……」
『山が騒がしいよ』
私の言葉にかぶせるように呟いたくーちゃんの言葉につられるように私とゼィハはオリハル山へと視線を移します。
すると山の真ん中あたりで黒く禍々しい光りがいくつも放たれており、それを迎え撃つかのように眩い光りが周囲を薙ぎ払っていました。どうやら勇者一行とシャチクが戦闘を開始したようです。
「やっぱり無理でしたか……」
『え、どういうこと⁉︎』
「ゼィハ、私はカズヤを気遣ってあんな事を言ったわけではありませんよ」
くーちゃんに答えを返すわけではなく唖然とした様子のゼィハに今度は私がニヤニヤと笑いながら言葉を綴ります。
「シャチクは魔物ですよ。しかも亡霊系の。生き物を襲う以外の形で命令が遂行できるわけないじゃないですか」
『え、じゃさっきの命令は⁉︎』
「ノリでだしたに決まってるじゃないですか」
ま、できたらいいなぁ〜くらいの気持ちでしたからね。こうなると思っていましたが。
「これは勇者たちは眠れないでしょうね」
私は笑いながら山から立て続けに上がる黒い光を見た後に食事の準備を再開するのでした。




