でもあれじゃ足りないですよね
今までにないほどの量で強化された私の力は先ほどまで私の体を弄んでいたアーミラが目を見開くほどのものでした。
彼が片腕になったということ、そしてリリカゴーストによって肉体的、精神的にダメージを負わされていることを踏まえても圧倒、という言葉がしっくりくるほどのものです。
「そりゃそりゃそりゃ」
掛け声と共にでたらめに振るわれる魔ノ華から余剰魔力が吹き出て刃を受け止めているにも関わらずアーミラの体にダメージを蓄積さしていきます。
「ぐ、この!」
器用に片手で大剣を操り私の攻撃を防ぎます。先ほど言われたように力押しの攻撃では動きが読まれるようです。
まあ、本当の力押しの前では意味がありませんが。
今までの私が魔華解放で魔力を上げていたの対し、今の私は魔力の総量が自分でもわからないほどなっていることだけがわかるという状況です。
思う存分に魔力が使えるのは素晴らしいことですねぇ。
身体強化の魔法に注ぎ込んでいる魔力の量は今までの十倍くらいにあたるでしょう。たぶんですが以前倒せなかった竜も今なら殺せます。
「ガァァァァ!」
声を上げ、力を増した私の刃を弾きアーミラが今度は攻めに転じてきます。彼の大剣も振るわれるたびに風が吹き荒れ大地に傷を作っていきます。しかし、今の私にはその攻撃は普通に見えるので魔ノ華でやすやすと打ち合いますがやはり武器の扱いについてはアーミラには勝てないのか技量で押されますが、すぐにこちらの攻め番へと変わり攻守を反転さしていきます。
その理由というのも。
「呪え」
「『射出』」
この二つの言葉を呟くだけでアーミラは完全に攻めるタイミングを見失うのですから。
紅い投身の魔ノ華が呪いを帯びた呪刀に変わった瞬間、アーミラは攻撃の余波である呪いを受けるわけにはいかず後退することとなり、隙を見て剣を振るおうとも『射出』による牽制ように放たれる武器の数々に攻めきることができていない様子です。
『射出』は別に剣先から武器が放たれるわけではないため魔ノ華を振り切り、無防備になっていたとしても魔ノ華の背の部分からも攻撃できるため戦い方が未熟な私にはすごくありがたいですね。
「くそっ!」
ひたすらに牽制用に放たれる武器の数々に攻めきれないアーミラは後ろに下がりそれを私が追うという形に収まりつつありますが。
正直飽きました。
再び距離を取るアーミラにため息をつきながら今度は追うことなく魔ノ華 を構え彼我の距離を保ちます。
「呪え」
魔力を吹き出しながら呪刀へと変わった魔ノ華へ今度は私の魔力を注いでいきます。今までは魔力がすくなかったので少量しか注げませんでしたが魔力が爆発的に増えた今ならばいくらでも注ぎ込むことができます。
体を守るために覆っていた魔力も全て注ぎ込むとその量のせいか周囲の空気が震えています。
「させるか!」
魔ノ華に注がれた膨大な魔力の量に気づいたらしいアーミラが大剣を振り上げこちらに突っ込んできますが魔ノ華から『射出』された武器の数々が私に近寄ることを許しません。
今までよりはるかに密度の高い攻撃を喰らいアーミラは防ぐのに精一杯になっています。
その間に魔ノ華へ注いでいた魔力が限界になったような感触を柄ごしに感じとった私は頭の中に浮かんだ言葉とともに魔ノ華を横に薙ぎます。
「呪華」
薙がれた魔ノ華の切っ先から広範囲を覆うほどの紅い閃光が煌めきます。キラキラと輝きながら空間を疾るその光景は見ていて美しいものでしたがそれは紅い閃光が周囲の建物へ当たるまででした。
紅い閃光がゼィハが作り直した建物へと触れた瞬間、黒ずみ、形を失い、さらには弾け飛んだのです。
『なにあれ⁉︎』
「呪いですかね?」
くーちゃんの叫びに普通に答えます。だって私もよくわかりませんし。ただの魔力にしては禍々しすぎるので魔力と同時に呪いも放っているんでしょうね。
しかも紅い閃光はさほど速度を緩めることもなく突き進みアーミラへと迫ります。
「らぁぁぁぁぁぁぁぉ!」
向かう紅い閃光に気づいたアーミラが片手で振り上げた大剣に魔力を注ぎ込まれているためか眩く輝いていっているのがわかります。
「でもあれじゃ足りないですよね」
すでに私の手元を離れた呪華の紅い閃光がアーミラへ迫るのを欠伸混じりで眺めます。
力を増す前の私の攻撃ならばあれでも充分だったでしょう。
ですが強化された私の魔力は脂肪燃焼魔法で増加したアーミラの魔力で強化された大剣を拮抗という言葉すら許さないほどに容易く切断。さらには決死の表情をしたアーミラの首すらも跳ね飛ばします。
「終わりましたね、ん?」
アーミラだった死体がゆっくりと倒れていく間に呪華の光はさらに背後へと奔り、ダークエルフ達が張った結界に直撃、大気が悲鳴をあげるかのように甲高い音が鳴り、次の瞬間、何かが割れるような音が響きます。
「あ、やば……」
そう呟いた私の眼には紅い閃光がダークエルフの里の周りを覆うように生い茂る森ヘ向かうのを捉えていました。




