いや、サクッと殺りますが
地味に二百五十話目
「いやね、呪いを出すだけの力なら対して面白くもないでしょ?」
『め、めちゃくちゃ怖いけど!』
くーちゃんが声を震わせながら私の頭にしがみついてきます。
たかだか呪いごときでそこまで怖がることはないと思いますがね。
ただ確かに周囲を飛び回るリリカゴーストたちの数とその姿は威圧感と恐怖を煽るのには充分でしょう。
現に結界の外にいるはずのダークエルフでさえ体を震わしているようですね。
「さてさてこのリリカゴーストをですね」
静かに告げ、私は魔法のカバンから一本の剣を取り出します。それは特殊な力もほどこされていないなんの変哲も無い剣です。
「呪いなさい」
剣を高々と掲げそう呟きます。
すると今までなんの規則性もなく飛び回っていたリリカゴースト達が目標を定めたかのように掲げ剣へて向かってきます。
リリカゴーストが剣にぶつかるように中に入り込んでいき、その度に剣が黒く染まっていきます。
結界内にいるリリカゴースト達が全部剣の中に入りきってしまうと剣は完全に黒く染まり切ります。
『Ooooo……』
心なしか剣からうめき声のようなものがが聞こえる気がしますそれは気のせいでしょう。
『いや、聞こえてるからね⁉︎ それどころかなんか剣から垂れてるよ⁉︎』
言われてちゃんと剣を見てみると確かに剣先から黒い液体が雫となり地面に落ちていっています。
落ちた地面を見てみると明らかに黒ずんでますね。あとなんとなくですが土地から生気というか生命力といったものがなくなっているような感じがしますね。
「いい感じに出来上がりました」
『うー、これ大地を呪ってるよ』
全く興味がありませんね。今は呪われた剣を試したくて仕方がないんですよ。
「さてと」
準備ができたので私は幾分か回復したのかこちらに剣を向けてきているアーミラへと再び視線を戻します。
「ちょっとは回復してくれたみたいですね。さすがに身動き取れないような相手を潰すのは罪悪感が湧きますからね」
『うそだー』
疑うような目でくーちゃんが私を見てきます。
まるで私の心を読んでいるかのようですね。
「きさまも武人であったようだな」
なぜか笑みを浮かべたアーミラが私を見てきましたが私は首を傾げます。今の発言の何処に武人としての発言があったのでしょうか?
「いや、サクッと殺りますが」
呪われた剣を全てを弓矢にの力で弓矢へと変えていき、私は目を見開きます。
触れたものを銀の矢に変えるというのが古代魔導具全てを弓矢にの力だったはずなのですが私の手にあるのは呪いの塊である漆黒の弓矢。
「ほほう」
ニヤニヤと笑いながら手で遊んでいた漆黒の弓矢を魔ノ華へと重ねます。すると漆黒の弓矢は魔ノ華に吸い込まれるようにして消えていきます。
これが『呪い』とは別の私が得た新たな能力の半分たる『収納』。
魔ノ華の切っ先を構えを取るアーミラへと向けます。
「射出」
私が声を上げると共に先ほど魔ノ華に吸い込まれた漆黒の弓矢か凄まじい速度で放たれます。
「な!」
『収納』と『射出』これが新たに得た力です。
ようは魔法のカバンの魔ノ華版ですね。ただし普通に取り出すということができず放つ、つまり『射出』するということになりますが。
魔ノ華から弓矢が放たれたことに一瞬驚いたかのようにアーミラは体を硬直さしています。
その僅かの間を逃すことなく視認するのも難しいほどの速度で突き進む矢がアーミラの肩へと突き刺さります。普通の矢なら刺さるだけで済んだのでしょう。ですが漆黒の矢は呪い全開の矢です。突き刺さった腕から徐々に侵食していくかのように黒い模様が広がっていきます。
「これは! なんだ⁉︎」
アーミラが慌てた声をあげながら突き刺さった矢を引き抜き投げ捨てていますが、すでに致命傷でしょう。
「ヌァァァ!」
黒色が広がってていき、腕を覆い尽くし、肩に迫ろうとしていた瞬間、アーミラは大剣の刃を返し自分の腕を躊躇うことなく切り落とし大量の血が切り口から流れ出ます。
「思いっきりがいいですねぇ」
「ぬかせ……」
おお、怖い怖い。
あっさりと見切りをつけ、自分の腕を切り落としたアーミラに感嘆の声を差し上げたのですがどうも嘲りと受けられたようです。
アーミラは大剣を地面に突き刺しなにやら呪文のようなものを唱えると血が流れていた傷口が淡く光り、血が止まり始めています。治癒魔法まで使えるとは。
その間に私は魔法のカバンから今までに拾った武器などを全て魔ノ華へと移し替えていきます。
こちらの能力の方が呪いより使い勝手が良さそうです。
アーミラの腕の光が消え、傷が塞がりましたがべつに生えてきてはいません。そのため、片手で大剣を構えるアーミラを確認した私は魔ノ華への武器の収納をやめます。
「じゃ、斬り合いますよ? 片手だから負けたなんて言い訳しないでください、ね!」
今まで以上の魔力を体に纏い大地を蹴り砕くと瞬く間に距離を詰めた私はアーミラに魔ノ華を振りかざすのでした。




