引きずり出すとしましょう
「今の俺を無視するとはいい度胸だな」
おっぱいさんことゼィハをからかっている間ほったらかしにしていた元豚がやたらと上から目線でそんなことを言ってきます。
そんなことを言うなら喋っている最中に攻撃してこればよいと思うんですがね。
「あなたもあれですよね。誇りがどうたらこうたら言う人みたいですね」
めんどくさいったりゃありゃしない。
「話をしている奴を背中から斬れと?」
「いや、もういいです」
不機嫌そうな表情をしてくる元豚を見ながらため息をつき会話を打ち切ります。だって話が噛み合う気が全くしませんし。
返事と言わんばかりに私は魔ノ華の刃を胸元の魔法陣へと向け一気に突き刺します。
血が出るわけではないのですがこの異物が入ってくる感覚は気持ちの悪いものです。
「魔華解放」
キーワードを告げることにより私の肌は一瞬にして褐色へと変化。周囲のダークエルフと同じような見た目へと変貌を遂げた私の姿を見て周りのダークエルフが息を飲んだような音が耳に入ります。
魔の欠片はから引き出す魔力を体へと纏わしながら胸元から引き抜いた魔ノ華を軽く振るい、切っ先を元豚へと向け構えなおします。
「この状態には制限時間があるんでさっさと、」
言葉の途中で足の魔力を炸裂。一瞬にして元豚の背後に回り込み手加減など一切考えていない斬撃を叩き込むべく首に魔ノ華を振るいます。
「首を転がします!」
その速度は魔ノ華を振るった私自身が驚くほどです。おそらくは魔華解放に体が慣れたのか、それともあと二つ魔の欠片を手にしているかなのかはわかりませんが以前より力が上がっているような感じがします。
「喋ってる途中から攻撃とは!」
体を捻るようにしてこちらの攻撃に反応したことに驚きます。さらには全身を覆っている高密度の魔力を片手へと移動。その腕を私が振るう魔ノ華の刃が通る軌道へと合わせてきます。
そして、魔ノ華と拳がぶつかり合い、魔ノ華の斬撃が拳により止められます。
「はぁ? べしっ⁉︎」
斬撃を止められたことにより間抜けな声を上げている間にすかさず体を回転さした豚が繰り出した足技をお腹に受け、再び食らった衝撃から間抜けな声を上げ背後に蹴り飛ばされます。
ゴロゴロとしばらく地面を転がりますが転がる勢いに合わせて足をつき飛び、姿勢を戻し前を見るとすでに豚が大剣を振りかざしているのが目に入ります。
このまま受けては確実に頭から割られるのが目に見えてわかるのでとりあえずは手にしていた魔ノ華を横にし、頭上に掲げます。
次の瞬間、体が地面にめり込むかと思うほどの衝撃が構えた魔ノ華から私の腕へと伝わり私の体は少しばかり地面に沈みます。
魔華解放してるのにこれ⁉︎
今まで引き出していた魔力よりさらに魔の欠片から魔力を引き出し、力尽くで豚を弾き飛ばし、今度はこちらから魔ノ華を繰り出していきます。
鋼の打ち合う音が響きますがどれも豚には突き刺さりませんね。なにより完璧に防がれてますし。
「剣が達者なようですねぇ」
「そういう貴様は下手だな」
いや、そう言われても剣なんて横に降るか縦に振り下ろすかの二択しかないわけじゃないですか。
なにより私の武器は剣などの前に出る武器ではなく弓なんですから。
「ぐぇ……」
私が繰り出す攻撃は容易く大剣にて防がれ、オマケと言わんばかりに大剣を持っていない方の手で放たれる拳打がカウンター気味に私の体に叩き込まれます。エルフの服のせいで致命傷にはなりませんが地味に衝撃が響いて体のあちこちが痛みます。
これは確かにゼィハより強いと言われるだけのことがありますね。
ゼィハはどちらかというと自身の力というよりは古代魔導具などをうまく使うという強さですがこのアーミラとかいう豚は私が苦手なタイプ、自身の肉体こそが最強の武器と言わんばかりの脳みそ筋肉です。ベシュと同じように直感で動くタイプみたいです。
大変に相性が悪い。
私は元々魔力も少ないですし前で戦う技術というのもさして覚えていないわけですしね。
「あぐぅ」
再び、今度は大剣で体を打ち付けられ地面を転がります。
ああ、なんというかかなりイライラしてきました。
こっちの攻撃は当たらないの向こうの攻撃だけはひたすらに当たる。これはなんというかかなりストレスが溜まります。
のろのろと魔ノ華を杖のようにして立ち上がります。
ふと、アーミラの方を見ると警戒するような眼を私に向けてきています。自分で転がしといて警戒するとか意味がわからないんですがね。
しかし、今の私には足りない。技量が、力が、魔力が、経験が、全てが足りません。
どれか一つでも混ざっているならまだ勝てたかもしれませんがどれも足りません。
だったら……
『リリカ?』
心配するようなくーちゃんの声が聞こえたように気がします。ですがその声に私は答えずに笑みを深めます。
全てに私のわがままを押し通せるように。
「引きずり出すとしましょう」




