取引ですよ。と・り・ひ・き
「おら、きびきび動けゼィハ」
「そこ角度悪いぞゼィハ」
「お茶入れてゼィハ」
「肩揉んでくれよゼィハ」
「うるさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
ダークエルフ達の次から次へと繰り出される要望の数々についに今まで無言で対応していたゼィハがキレました。
超振動を使い木を切り、幻想義手をつかい次々と私が壊した家を直していたようですが我慢の限界を迎えたようです。
「全く、我慢強くありませんね」
『いや、それをリリカが言っちゃダメでしょ?』
くーちゃんの言葉を聞き流しながら私は魔法のカバンから水の街で買い込んだお菓子の袋を開け、中身を取り出し口に放り込んでいきます。
しかし、あまり私の好みの味ではなくあまり美味しくはないので顔を顰めながらくーちゃんへと渡します。
すると嫌そうな顔をしながらも袋を受け取ると風の魔法で器用に中身を取り出し齧っていっています。うまく魔法を使っていますがなんでしょう。この使い方こそ魔法の無駄遣いな気がしますよ。
「ちょっとリリカさん! なんであたしが奴隷みたいに働かないとダメなんですか! 壊したのリリカさんでしょ!」
む、気づきましたか。
ゼィハの声のする方を見ると何人かのダークエルフが地面に倒れていました。
ふむ、幻想義手で殴りましたかね?
あれを相手にするのはしんどいのでやり合いたくはありません。
「ゼィハ、私のエルフの里にははるか昔に勇者が来た際に言った名言があります」
「……この状況で名言ですか」
あ、すっごく胡散臭そうに見ていますね。なんだか最近のゼィハは人を疑うような視線ばかりを私に向けているような気がしますね。なんとなく人生を損している気がします。
「……なんでそんな哀れむような目であたしを見るのかがよくわかりませんがなんか腹ただしい! それより早く名言とやらを言いなさい!」
「気になってるんじゃないですか」
半笑いになっているのを自覚しつつ、隠すことなくその笑みを向けてやるとゼィハは顔を赤く染めながら黒い腕を振り上げます。
「ああ、わかってますよ! 勇者が言った名言とやらは『旅は道連れ世は情けねぇ』だった気がします?」
「なんで疑問系なんです? あと世は情けねぇってどういう意味なんです?」
「はるかに昔のこと過ぎてあんまり覚えてないからですよ。あと意味なんて知るわけないです」
「こ、この女!」
なぜか手をプルプルと震わしながらゼィハが私を睨みつけてきますが、なにか悪いことをしましたかね?
「そんなことより! なんであたしが里の復興を手伝わないといけないんです! 潰したのはリリカさん! あなたでしょ!」
「え〜 私たち仲間でしょ?」
「都合のいい時だけ仲間面か!」
「いや、あなたの幻想義手ってすごい使い勝手が良いじゃないですか。それならあっという間じゃないですか」
「いえ、ですからなんであたしが……」
未だブツブツと文句を垂れるゼィハに向かいため息をつきながら歩み寄ると彼女にだけ聞こえるように耳元で囁きます。
「取引ですよ。と・り・ひ・き」
「っ! なんなんですか! なんの取引なんです?」
あれ? なんでそんな顔を赤くしながら後ろに下がるんです? あ、耳に息が掛かってこそばかったのですかね。
「あ、いや、あなたまだ結婚したくないんでしょ?」
「ええ! まだ研究三昧の日々を送りたいです!」
結婚したいんじゃなかったんですかね。なんか前と言ってることが違います。
しかし、結婚は人生の墓場と揶揄する人がいると聞いたこともありますし、どちらが正しいかよくわかりません。
「というわけであなたがこの集落の復興を手伝ってくれるんであれば」
「あれば?」
そこで言葉を止めた私を急かすようにゼィハが言葉を継ぎます。
そしてその期待するかのような瞳に私は笑みを浮かべます。
ゼィハはそれを見てなぜか顔を少しばかり青ざめさせながら後ろに一歩下がりました。さらにはお菓子を食べていたはずのくーちゃんも顔を引き攣らせるようにしながら後ろへと下がりました。
なんなんでしょう?
疑問を覚えながらも私は顔を笑みを貼り付けたまま告げます。
「ゼィハの前に二度と立てないくらいに顔とプライドをボコボコにしてやりましょう!」
『『えっ⁉︎』』
なぜかゼィハとくーちゃんだけではなく他の復興作業をしていたダークエルフ達も絶句してました。




