このまま里まで一直線です
森に突撃した瞬間、パチンっというような音が聞こえたような気がしましたが、それを気にするよりも速く目の前にあった樹が瞬く間に切り裂かれ、さらに焼け落ちていきます。
これはくーちゃんが作り上げた風の刃が進行を妨げる木をあっさりと切り崩し、雷纏う戦車の纏う高密度の雷が木材と化した樹を焼き尽くしているのでしょう。
そのおかげか馬たちは道がない悪路にも関わらず多少の減速ですみ、未だに雷纏う戦車は前進を止めていません。
「ははは! 景色が一掃されていきますね!」
前方には樹しか見えないにも関わらず突き進むというのはかなりの異様さです。
しかし、ノリノリの私とくーちゃんはひたすらに突っ走るのを止めません。そんな私たちの気分が感染したかのように雷纏う戦車を引く馬たちも落ちていた速度を取り戻すかのように加速を再開していきます。
「ちょっと⁉︎ この森一応ダークエルフが結界張ってたんですけど⁉︎」
森に突っ込んだ拍子に再び荷台を転がり回る羽目となったゼィハが跳ね起き私の肩を掴み揺らしてきます。
「あ、さっきなんか当たったのが結界かもしれませんね」
「どうするんですかぁぁぁぁ! あれは正規の手続きを踏んで解除しないととんでもなくややこしいことに……」
ゼィハがぶつぶつと何かを言っています。しかし、それを聞き返そうとした瞬間、私の視界に黒い点がいくつも目に入ります。
「あれなんですかね?」
疑問を口に出している間にも黒い点は私のほうに迫りってきます。徐々に大きくなってきた黒い点を見てようやく飛来するものが何かわかりました。
「弓矢だ!」
私がよく使うものではありますがこうも自分に向けて正確に飛んでくるのを見るのは初めてです。矢の形状が見えるほどの距離になったその時、雷纏う戦車が放つ雷がまるで意思を持つかのように飛来する弓矢へと雷が飛び容易く消し飛ばします。
「おお、これは凄い」
私が驚きの声を上げている間にもこちらに向かって飛んでくる弓矢の数は増えていきますがそれらは鞭のように唸る雷に触れると容易く消し炭へと変わっていきます。
「ちょっと! あれ警告ですよ! 早く止まってください」
「いや、ここまで来たんですし警告まできたということはダークエルフの里はこの先なんでしょう? 一気に突き進みましょう!」
『ゴーゴー』
「本気ですか⁉︎」
「え、冗談言ってるように見えます?」
しかし、目を凝らしてみますが全くダークエルフの姿は見えません。私達エルフと同様に遠くを見る眼はあるようですがもしかしたらエルフよりさらに遠い距離を見ることができるのかもしれません。
一方、私の近くにいるダークエルフはというと、振り返ってみるとすでに彼女の顔は涙目です。まぁ、普通に考えたらそうでしょうね。結界まで張って人が入ってこれないようにしている所に警告までしているのにダークエルフが他の種族であるエルフを連れてきてるわけなんですから。
「全然、冗談にみえなぃぃぃぃぃ! あたしもう家に帰りたい!」
「安心してください。このまま里まで一直線です」
「怒られるのも嫌ぁぁぁぁ!」
なんなんですか、帰りたいと言ったり怒られるのが嫌と言ったり情緒不安定すぎますよ。
止まる気なんて全くありませんが。
「ところで戦車、私の魔力を吸って雷を発生さしてるみたいですよね」
『みたいだね』
なんか魔力を座れてる感じはあるんですよね。凄い少量なんですがその少量でこれだけの力を発するわけですよ。
「……もっと魔力をこちらから込めたらどうなるんでしょうか」
さらに周囲を蹂躙するほどの力を得るのかがとても気になるところです。
試しに業者台に手をつけ、そこに魔力を軽く増やして注いでみます。
すると馬車を覆うようにしていただけの雷が周囲にも雷を放ち、樹々を燃やしていきます。
なるほど、注ぐ魔力を増やすと纏う雷の量が増えるということですか。
確認が取れたので私はさらに魔力を注ぎ込んでいきます。
雷の魔力が暴れまわり森の至る所へ雷が疾っていきます。それは警告を発していたダークエルフの方へも飛んだのか、こちらに飛んでくる矢の数が目に見えて減ります。
これはさらにいけそうです。
さらに私の魔力が空に無くなるギリギリまで注ぎ込んでみます。すると雷纏う戦車の周辺は災害が訪れたかのように破壊の嵐が巻き散らかされていきます。一瞬にして樹々は吹き飛んでいく光景は森の民であるエルフとしては複雑な心情ではありますが、どうせ何千年か立つと元に戻ると考えるとさして気に止める必要はないでしょう。
「さ! なんか魔力の塊が集まってる場所もなんとなく感知しましたしこのままいきますよ!」
『おー!』
「……もうやだぁ」
やだといっても連れて行きますよ。というかこんな状況で馬車から飛び降りるというほうが危険です。
周りを破壊しながら進む雷纏う戦車が突如として開けた空間に出るまでゼィハの泣き言は続くのでした。




