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エルフさんが通ります  作者: るーるー
勇者の武器編
235/332

突撃ぃぃぃぃ

「わはははははは!」

「ひぃぃぃぃ!」

『速い速〜い!』


 夜の平原に私の笑い声とゼィハの悲鳴、そしてくーちゃんの楽しげな声か響き渡ります。

 水の都から拝借した馬車を使い一気にダークエルフの里を目指します。


「あ、あなた! なんてものを奪ってるんですか⁉︎」

「善意の馬車ですが?」

「これは違うでしょう⁉︎」


 どこが違うというんでしょう?

 ただちょっとばかし雷を纏いながら走るだけですし、ちょっとばかし普通の馬車にしては至る所にやたらと尖ったものが大量に取り付けられていたりして、少しばかり横には馬鹿みたいな大きさの刃まで装着されているだけです。


「これ! 馬車じゃなくて明らかに戦車チャリオットですから! しかも魔法まで使われてる明らかに軍用の戦車チャリオットですから!」


 んー、そういえば馬車の横にいた馬はやたらと体格がいい馬でしたね。さらには横には馬用の鎧みたいなのもありましたし。それもいただきましたし、問題ないでしょう。


「さあ! 駆けるのです! コウテイゴー一号、二号!」

「『え⁉︎ 馬の名前⁉︎』」


 手にしている鞭を振るうのが意外と楽しいのでビシビシとやります。

 その度に馬が速度をあげていきます。

 私が使っている鞭はゼィハお手製の魔法道具(マジックアイテム)、叩いても痛くない鞭です。

 すでに鞭としては意味がないような気がしますがそれでも私の気分が非常に良くなります。


 所々にゴブリンといった小さな魔物の姿が見えますが大体はこの馬車が纏う雷を目にすると一斉に逃げ出しています。たまに立ちふがるようにする魔物もいますがこの雷纏う戦車ライジングチャリオット(今命名)の前では蟻同然! 方向転換など一切せずに突き進み蹂躙していきます。


「さぁ! このままダークエルフの里に突撃しますよ!」

「ちょ⁉︎ 本気で言ってます⁉︎」


 荷台からゼィハが顔を出し、なにやら文句があるような顔をしています。次に文句を言ったら縛り上げて転がしましょう。


「イメージですがダークエルフってなんかジメジメしたところに住んでキノコ食べて生活しているイメージがあります」

「すごいひどいイメージですよね⁉︎ あたし見てもイメージ変わらなかったんですか⁉︎」


 すごいスピードが出ているので荷台が面白いほどに揺れています。先に積んであった樽が宙に浮くくらいです。あと走ってるところが道から若干外れているのもあるかもしれますんね。

 空を見上げると綺麗な星空になっています。エルフの里では大きな樹が多かったからあまり星空を見る機会はありませんでしたからねぇ。


「ところでダークエルフって星とか見るんですか? というかどんなとこに住んでるんです? 洞窟?」

『沼?』

「あなたたちはどんだけダークエルフに対していいイメージを持ってないんですか!」


 いや、だってエルフやダークエルフは街にたまに来るみたいなことを言ってましたが私は見たことないですし。ダークエルフだってゼィハに会うまでは見たことがない生き物でしたからね?

 逆に正しい想像をしろというのが無理だというものです。


「いいですか! ダークエルフは森の賢者と呼ばれるような種族ですよ! どこぞの凶戦士の集まりのような種族とは違うんです!」


 凶戦士の集まりってもしかしてエルフでしょうか?いや、確かに改めて考えるとエルフって戦うの大好きですけどね。私は薬を作るのが楽しかったですが。


「じゃぁ、ジメジメしてるんですかね? 頭からキノコが生えてるとか」

「だからどうしてそういう発想にないだぁ⁉︎」


 怒りの声をゼィハが上げている途中で小石に乗り上げたのか馬車が大きく揺れ、背後のゼィハの声が悲鳴に変わりました。鞭を振りながら後ろを見るとどうやら積んであった樽が小石を馬車が踏んだ拍子に浮かび上がりゼィハの足に向かい落ちたようです。あれは地味に痛そうですね。その証拠にゼィハは足を抱えて荷台で転がりまわっていますし。


「さあ、このままダークエルフの里まで突撃しますよ!」

『おー!』


 くーちゃんの返事に気を良くした私はさらに鞭を振るいます。

 ぱちんぱちんと痛そうな音が響きますがさすがゼィハ印の鞭、馬は痛痒も感じていないようです。

 それでも私の意図を汲んでくれたのかさらに速度が上がり纏う雷の密度も濃くなったように感じます。稲光りと轟音を撒き散らしながら雷纏う戦車ライジングチャリオットは平原をさらに加速し、駆け抜けていきます。


「ちょ! 待ってください! こんな馬鹿みたいな魔力を纏ったまま突撃されたら森とか結界とか生態系とかに影響が…… というか森に突っ込んだらいくら戦車チャリオットでも保ちませんよ⁉︎」

「なら風の魔法で周囲を薙ぎ払うような刃を作ればいいんですよ!」

『任せて!』


 痛みをこらえながら私の後ろにやってきたゼィハですがその顔にはかなりの怯えているようでした。

 くーちゃんがノリノリで了承。疾走する馬車の前に目で見えるほど圧縮された刃が展開されていきます。


「で、あの森ですよね?」

「え、そんな⁉︎ こんなに早く⁉︎」


 目の前に広がり始めた黒い森を指差すとゼィハは目を白黒さします。

 かなり近くになったにも関わらず雷纏う戦車ライジングチャリオットは私の振るう鞭により加速を続けていき、


「突撃ぃぃぃぃ!」

「ちょ、ま、やめ!」


 ゼィハの制止を無視してダークエルフの森へと突っ込んだのでした。

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