ボコボコにしていけばいいわけですよね
世の中には善意という言葉があります。
善い意識と書いて善意です。
つまりは善いことをしてくれるわけですよね。
「というわけで善意からこの馬車をいただこうと思います」
『間違ってるよ⁉︎』
「待ちなさい! 善意の意味わかって言ってますか⁉︎ それは強盗なわけですよ⁉︎」
魔ノ華の鋼糸でグルグル巻きにくくりつけられミノムシのようなゼィハと私の頭の上のくーちゃんが吠えます。
全く、夜中なんだから静かにしてほしいものですよね。
「なんですか逃げようとしたくせに。わざわざ逃がしてあげようというんですよ?」
「だったらまずはあたしを括ってるこの糸をほどきなさいな!」
「ならなんで逃げようとしたか聞いていいですか?」
私はゼィハの方…… へは向かわずに一際目立つ馬車に目をつけるとそちらに向かい、馬車を固定している留め具をゼィハを縛っている魔鋼糸とは別の糸を使いバラバラにします。
ふむ、あとは馬を調達すればいいだけですね
「あなたから逃げたかったのもありますが、一番は郷に戻るわけにはいかなくなったからです!」
『なんで?』
「説明しますから解いてくれません?」
私からも逃げようとしたという発言も気になりますが里に戻るわけにはいかないてという理由も少しばかり気になりますね。
おお、この馬はすごくいい馬…… のような気がします。
「いいですよ。その代わり今度逃亡を図ったら両足貰いますよ?」
「う…… わかりましたよ」
私の条件をしぶしぶといった感じで了承したので私は魔ノ華を元の形に戻し、ゼィハを糸から解放します。
糸から解放されたゼィハは体の調子を確かめるように体をしばらく動かした後、魔法のカバンから一枚の紙を取り出し、私に渡してきます。
「これは?」
「昨日、ダークエルフの里から届いた手紙です。黒い鳥見ませんでしたか?」
「いましたね」
ああ、そういえばなんか窓にとまってましたね。珍しい鳥でしたから気にはなっていたんですが。なるほど、あの鳥が手紙を運んできたわけですね
「内容は?」
折りたたまれた手紙を開き、文へと眼を落とします。
「……お見合いらしいです」
「ほう、よかったじゃないですか。これでお嫁にいけますよ」
言いにくそうにゼィハが答えるのと文の内容が一致するのは同時でした。
昨日、お嫁に行けないとか言って涙を流していたわけですからね。
ゼィハはまだなようですがエルフは二百を超えて結婚していなかったら行き遅れと指を指されるらしいですからね。
「いやいやいや! こんな狙ったようなタイミングでくる時点で怪しすぎますよ!」
即座にゼィハが否定してきます。
「なら監視でもされてるんじゃないです?」
冗談交じりでそう言ってやると騒いでいたゼィハがぴたりと動きを止め、考えるような素振りを見せはじめます。
「いや、まさか、そんなことまでするはずが……」
そんなことをブツブツと呟きながら着ている服、エルフの服とは色違いの服、言うならばダークエルフの服を弄るようにしています。
どうも心当たりがあるようですね。
「しかし、お見合い自体は悪い話ではないんではないんですか?」
さっきゼィハから受け取った手紙を最近文字を覚えたので軽く読んでみたところ所々わからない言葉はありますがお見合い相手はダークエルフの中でもかなりの腕利きと書いてありますし。
『貴族とかじゃないの?』
「ダークエルフはどうかはわかりませんがエルフに貴族というのはありませんね」
私の知る限りではエルフの里で肩書きのようなものがあったのは爺である長老だけです。
「ダークエルフにもありませんよ。ですが、あたしに見合いを持ち込んでくるね輩はかなり多いんです」
「え、喧嘩売ってるんですか?」
無意識なんでしょうが腕を組んで無駄な胸脂肪の塊を私に見せつけるようにしてきます。これは私に宣戦布告をしてきていると解釈をしていいんですよね?
「なんで怒ってっていたぁ! ちょ! なんで叩くんですか!」
「この! この駄肉ですか!」
ゼィハの私よりはるかに大きな胸めがけて手を振るいます。私の手が当たり音が鳴るたびにゼィハの胸が揺れ、それを見て私のやる気がなくなっていきます。
「駄肉削ぐべし」
『それはまずいよ⁉︎』
ナイフの形へと姿を変えたぽちをゼィハに向けるとくーちゃんが体当たりをしてくるようにぶつかってきました。
「ちっ、しかし、どうするんですか? 私はダークエルフの里に行きたいんですが」
仕方なしにぽちを鞘に収めつつゼィハに問います。
「あたしとしては戻りたくないんですが……」
「却下です。私は行きたいんです」
『横暴すぎる!』
なんですか? みんなして私が我儘を言ってるみたいな言い方は?
「わかりましたよ」
「わかってくれましたか」
溜め息をつきながら了承の言葉を告げるとゼィハはホッとしたような表情を浮かべています。が、なにか勘違いをしていますね。
「つまり、ゼィハとわからないように顔をボコボコにしていけばいいわけですよね?」
『「微塵もわかってなかったよ⁉︎」』
拳を軽く振るい練習する私を見て二人は悲鳴のような声をあげています。なんでですかね?




