質より量です
「さぁ、いきますよ」
ゼィハに宣言すると同時に宙に浮かせていた武器に込めた圧縮していた風の魔力を手始めに一つ開放します。
空気を切り裂くような音が鳴り響き、閃光のように光が空を奔ります。
ゼィハに目標を定めたはずなんですが私が投じた槍はゼィハの横を通り抜けるとメルルの作り上げた結界へと突き刺さり、その後ろで観戦していた街の人たちが悲鳴を上げます。
それを振り返って見たゼィハが顔を青くしています。
うーん、速すぎるからこそ狙いがつけにくいですね。さすがに見よう見まねではうまくいかないようです。
メルルの使った『鋼の魔弾』。それを私なりにアレンジして使ってみましたが一回ではうまくいきません。
ならば、質より量です!
「結界があるから被害無視! いろいろあるから名前は『いらない在庫掃射弾』!」
宙に浮かぶ様々な物が圧縮した魔力を爆発させるようにして空を駆けます。飛んでいくのは武器もあれば盾もあったりいつ拾ったかわかりませんがタンスのようなものまでありました。
それら全てがおそろしいまでの速度を出しながらゼィハの周囲へと放たれます。
「い、幻想義手!」
その飛来する様々な物を見たゼィハが慌てたように幻想義手を振るい必死に迎撃をはかります。さっきの私とは真逆の立場になりましたね。
ちょうしんどうとやらの力のせいか幻想義手が触れたものはものの見事に両断されていきますがこちらは数で圧倒しています。
「ぬがぁぁぁ!」
ゼィハが咆哮を上げるとさらに切り裂いていく速度が上がります。おそらくは幻想義手の数を増やしているんでしょう。
どれだけ増やしたのかはわかりませんが古代魔導具という名を冠しているんですから魔力を消費するはず。
こちらはすでに魔力が尽きそうになっているというのに。魔力が多い人はそれだけでズルですよね。
ですが魔力を大量に消費するということは当然そちらに集中力を割かないといけないということです。
魔力の残りが少ないですが私はまだ空中に待機している様々な物をゼィハに向かい放ち続けます。
外れた物は大地に突き刺さると軽く地面が凹ましたり、結界のいたるところにぶつかって結界を震わしています。
これだけの破壊力を出しているにも関わらずに私は魔力を解放するだけですので非常に楽なんです。魔力はガンガン減っていかますが。
ですが私がなにもしないわけないんですよね。魔ノ華を弓の形へと変えると近くを浮遊する槍を掴み全てを弓矢にの力で弓矢へと変えます。一応、柄の方が鏃に変わるようにして魔ノ華へと番え、必死の形相で幻想義手を振るうゼィハへと狙いを定めます。
「私は優しいですからね。死なない程度にしてあげましょう」
だから頭は狙うのはよしてあげますよ。それに柄の部分ならくーちゃんの補助魔法がない限りは貫くことなんてないでしょう。
私、優しい!
ゼィハの視線が完全には私から外れた瞬間を狙いを銀矢を放ちます。
今までは上から飛んでくるものに注意を払っていただけだったのが横からの攻撃、自分に飛んでくる銀矢に気づいたゼィハが、幻想義手をさらにふるっているようですがそうはさせません。
宙に浮かぶ残りの物を一気に狙いも定めずに発射していきます。いかに狙いを定めていないとはいえ物量が圧倒的です。いくつかはゼィハの直撃する軌跡を描いています。
「やりすぎじゃないですカァぁぁぁぁぁぁ⁉︎」
幻想義手を振るいながら悲鳴のような声を上げるゼィハですが頭上から迫る物を叩き落とすことが精一杯のようです。
銀矢は何の障害も受けぬまままっすぐとゼィハまで飛び、途中で元の剣の姿に戻るとゼィハの鳩尾へと吸い込まれるように入りました。
「ゴフゥ!」
全く防御が取れなかったゼィハは苦痛に歪んだ声を上げると膝を付き胸を押さえながら倒れ、ビクビクと痙攣を繰り返します。
完璧に入りましたからね。しばらくはうまく呼吸ができないことでしょう。
『リリカ! ゼィハを動かして!』
「あ……」
くーちゃんの声に思い出しました。まだ、私の打ち出した物がゼィハに向かいいくつもの閃光となりゼィハの周囲に着弾していきます。雷が落ちたかのような音が立て続きに響き、ゼィハの近くに落ちるとその衝撃でゼィハが蹴り飛ばされたかのような勢いで転がりまわります。
それも一度や二度ではなく何度も何度も。
「生きてると…… いいな……」
未だゼィハに向かい飛んでいく物は残り三十以上。これが終わって生きてたらちゃんと謝ります。
あ、魔華解放を使えば魔力切れの心配なかったですね。やはり使わないと慣れないでしょうから今後は使う癖をつけていかないと!
爆音が続く。




