おいでませムトゥの森
「いやー ご迷惑をおかけしました」
少ししてから目を覚ましたマリーは謝りながら魔法のカバンからなにやらよくわからないものを色々と取り出すと慣れた手つきで自分の腕に次々に取り付けて行きますね。紅いパックは血なんですかね。
「これで、少しは楽になりますわ」
マリー曰く輸血とかいう治療らしい。確かにさっきまでは顔色がかなり悪かったけどよくなってる気がしますね。
「血剣は威力を高くすると一発で貧血になるのでさっきやったようなのはあまりできないというのを覚えておいてくださいね」
「使い所が難しいね」
話していると輸血とやらが終わったのでムトゥの森に足を踏み入れます。
しばらくは血剣で断ち切られた木々が続くので楽ですね。
歩いていると所々に魔物、主にゴブリンやオーガといったものが上半身と下半身が別れを告げていますね。恐ろしい切れ味です。
時折冒険者らしき死体が転がってますが彼らは運がありませんでしたね。
「せめて有効活用しましょう」
死体の傍に落ちている剣や槍、斧といった武器を拾い、片っ端から魔法のカバンに放り込みます。
「……リリカさん、死人の持ち物漁るとか趣味悪いですよ」
「ゾンビにでもなって蘇ってきたら返しましょう」
アレスが白い目で見てきますが辞める気はありませんね。死んだら武器なんて使えないんですし使える人間が有効活用したほうがいいに決まってます。
「マリーさんも何か言ってやってくださいよ」
「リリカ、そちらの宝石はわたくしにください。高値で売れそうです」
アレスがマリーに声をかけますが、マリーも私と共に死人の荷物漁りをしていました。この宝石に目を付けるとはやりますね。まぁ、譲りましょう。
「アレス」
「なんです?」
返事をしたのでアレスに向かい金貨を放り投げます。慌ててアレスはわたわたとしながらも金貨を受け取りました。
それを見て私とマリーはニヤリと笑います。
「「はい、これでアレスも共犯者」」
「はぁ⁉︎」
「それ、この冒険者の金貨だからかね」
アレスに放り投げた金貨は息絶えた冒険者の物です。それを受け取ったアレスもまた私とマリー同様、死体漁りの共犯者ですね。
「ボクはただ投げられたから受け取っただけじゃないですか!」
「私の住むエルフの里にはこんな名言があります。『持つべき者は共犯者!』って」
「前から思ってたんですけど絶対エルフの里の教育方針おかしいですよね⁉︎ なんか人間に恨みがあるんですか!」
いや、私は特にないんですけどね〜 どうもエルフの老人達は人間を敵対視してるみたいですし。しかし、教育方針がおかしいときましたか。今度は人間の学校でも覗いて見るとしましょう。
「……なんです? マリー」
視線を感じマリーを見るとなぜか私のことをジッと見ています。
「す……」
「「『す?』」」
「素晴らしい考え方ですわ! リリカ!」
なぜか体を震わすほどに感動されました。
「素晴らしい考え方です! 是非我がナザフロクス家の家訓にいたしますわ!」
「お、是非に!」
「やめなさい!」
このエルフの里の素晴らしいお教えをこの調子で広めていきましょう。そう、まずはマリーからですね。
「ボク、エルフに夢見てたんですかね?」
「その調子で女の子にも夢を見ないことをお勧めしますわ」
「マリーさんはボクの夢を潰したいの⁉︎」
マリーとアレスが後ろで言い合いをしてる中、私は新たな冒険者の死体から武器を回収します。お、この槍はなかなかにいい物ですね。
『なんかくるよ?』
くーちゃんが何かを感じ取ったのか私の周りをクルクルと飛び回ります。
ふむ、なにも感じませんし見えないんですが……
ん?
「精霊が全く見えませんね……」
以前来た時は少ないながらも微精霊の姿が確認できましたが今は全く見当たりませんね。まるで何かを恐れるみたいに。
「マリー、アレス、警戒をしてくださいね」
私の言葉に二人は言い争いを辞め、アレスは杖をマリーは血剣を構えます。
私も弓を構え警戒します。周囲にはただ、遠くで風に揺れる木々の音だけが響きます。
『BAGYAAAAAAAAA!』
突然、爆音のような咆哮が聞こえ空気が振動。私の皮膚にヒリヒリとした痛みが走ります。振動だけでこれですか。
続き体に悪寒が走ります。ああ、これはなかなかいいのができました。
「各個、迎撃で」
「わかりましたわ」
「え? どうやって?」
すんなりと私の指示に返事をしたマリーはその場で血剣を構え、私は矢を番えます。ただ理解していないアレスだけが構えることなく立ち竦む形になりました。
「アレス〜 そこにいたら死ぬよ?」
「え?」
察しが悪いですね。まぁ、これも試練です。
私は弓をかまえると三射を一息で放ちます。
三本の矢は一直線にこちらへと突進する漆黒のミノタウロスへと向かいます。
「さてどれくらいですかね」
放った矢は様子見の矢ではなく一撃必殺を狙った矢です。くーちゃんの魔法は使っていませんが当たれば刺さるはずです。
私の放った矢は寸分違わずミノタウロスの胸元に直撃します。
しかし、
『当たったよ』
「見えました。しかし……」
くーちゃんの報告に答えながら私は苦笑いを浮かべます。
まさか当たった弓矢がへし折れるとは、予想外でしたね。弾かれるならまだわかるんですけど。
まさかただの突進だけで弾かれるとはこれは笑うしかありませんね。
「さあ! マリー! アレス! 私の盾となるのです!」
「「働けよ!」」
『性格わるーい』
二人が私の方を同時に振り返って怒鳴ります。いや、そんな二人同時に振り返ったら……
『BAGYAAAAAAAAA!』
『「「「わぁぁぁぁぁぁぁ!」」」』
凄まじい速度でこちらに向かって来た漆黒のミノタウロスに私達は追いかけられるのであった。
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