善処はしましょう。前向きに
「いやぁ、予想外なことで出れましたね。帝国から」
『ねー』
すでに背後となった元門である瓦礫の山を振り返りながらくーちゃんと頷きあいます。
門が全部閉まってたみたいですし最後は潰す予定でしたがまさかゼィハが叩き壊すとは予定外でしたよ。ゼィハが振るうナイフは剣性をとらえることはできずに壁を穴だらけにし叩き潰したためそこから出ることができました。門の前で出ることができずにたむろしていた連中も同じように出たようです。
「変態ですがあいつ強いんですよね」
『あんなのが三人いたらうまくいかなかったんじゃない?』
そうなんですよね。今回はうまくはいきましたがくーちゃんの言う通り剣聖が一人であったこと。そして一度戦い深手を負わし本調子でなかったことが大きいでしょう。勇者というイレギュラーもありましたし運に助けられたと言っても間違いありません。
「もし、あの場にフィー姉さんがいたら確実に詰んでましたね」
その点は陽動用のアンデット達を作っておいて正解でした。あんなに早くに潰されまくるとは思いませんでしたが。
「今後どういう形で勇者達と出会うかはわかりませんが力がいりますね」
『ぱわーあっぷ?』
首をかしげるくーちゃんに頷きます。魔石が尽きた今、私が戦うには小手先の技術はもちろんですが私自身が強くなる必要があります。
胸元に施された魔法陣に指を這わせながら考えます。
そのためには私のもつ魔の欠片の力を十全に使いこなす必要があります。
「当面は自分の力を使いこなせるように適度に練習をしたくありませんがしながら旅をしていくとしましょう。で、いつまでいじけてるんですか? ゼィハ」
私の今後の方針が決まったので帝国を出てから今まで一切喋らないゼィハへと話を振ります。いえ、喋りはしているんですが彼女の口から零れる言葉はなんというか呪詛にしか聞こえないんですよね。
試しに耳を傾けてみると、
「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスあの剣聖次に会ったら絶対コロス」
というような感じです。それほどまでに自分の胸を貶されたことが許せないようです。このまま憎悪を溜め込んでたらどこかで爆発しそうですがどうしようもありませんね。何より楽しそうです。
「ゼィハ、ゼィハ」
「はっ! 私は一体!」
呪詛を撒き散らしているゼィハの肩を揺すり正気に戻します。だって話が進みませんからね。土地勘のないまま歩くのは危険だと思いますし、ここはこの大陸に住んでいるダークエルフに頼った方が安全です。
「ゼィハ、とりあえずは水の都とやらまで案内を頼みますよ。まずは観光です」
「本当に観光なんてする気あります?」
「あるある、見てこの澄んだ瞳」
「向こう見ながらそんなこと言わないでください。眼見えませんから」
「そこで覗き込むあたりが私、信用されてないよね」
「胸に手を当ててから発言すべきですよ、リリカさん」
言われた通りな自分の胸に手を当ててゼィハを見ます。私よりボリュームのある胸のあるゼィハを!
なんですか、私の胸がないことに対する嫌味ですか? 私に胸がないことに対する嫌味ですか⁉︎
「なんでそんな眼で睨まれるのかよくわかりませんが多分胸は違います」
心が読まれた⁉︎
これが持つべき者の能力というやつですか!
「話を戻しますがリリカさんはもう少し自重をするべきですよ。今のままじゃ近いうちに狙われますよ?」
「賞金稼ぎに?」
すでに私の首には賞金かかってるから今更な気がしますがね?
「いえ、もっと面倒なものですよ」
「えー」
賞金稼ぎに襲われたことはありませんがさらに面倒なことなんて嫌ですよ。
「ある程度の脅威を認定されると国単位で動かれる場合がありますからね。特にリリカさんの場合はすでに国を半壊さしてることもあるんですからね?」
「うーん」
と言われてもいつの間にそうなっちゃうわけですからね。自然な成り行きで。
「ま、気をつけますよ」
私の適当な返事にゼィハが睨んできたような気がしましたが知らんぷりです。気づくとまた小言を言われそうですからね。
『水の都なんだから水がきれいなんだろうねぇ』
空気を読まないくーちゃんが期待に満ちたような声を上げますが私は特に街には期待はしていませんね。
食べ物が美味しいのが理想的ですね。芸術? なにそれ? お腹膨れるんですか?
「……水の都に連れて行って破壊されたらどうしましょう」
なぜかゼィハは顔を青くしながらそんなことを言うのでした。
しかたありません。善処はしましょう。破壊しないように前向きに。




