それは別腹
「意外と更地というのは簡単にできましたね」
『……簡単?』
手頃な出っ張りに座った私が月を見上げながら零した言葉にくーちゃんが疑問系で答えてきます。
目の前には遠くにある崩れかけた王城が見えるほどに何もない更地です。
時折アンデットたちがうめき声を上げながら徘徊していますがさしたる脅威ではないでしょう。
リリカビームにより過剰な魔力と自分の魔力を全部使い切ったからか先程のような高揚感は一切なく、ようやくいつもの自分に戻った気がします。その代償に帝国の一部は更地と化しましたが。
「ついでに二つ目も手に入りましたしね」
手の中に収まるものを宙に投げ遊びながら私は笑います。宙になげたのはヴィツーの持っていた魔の欠片。どうやら鋼糸で街を輪切りにした時にヴィツーの下半身も斬ったみたいでその時に魔ノ華が回収し私のところに持ってきたようでした。今回は即座に食べなかったようで安心しました。
『ゼィハ無事かなぁ』
「なんだかんだで運が強いですから大丈夫でしょう」
リリカビィィィィィム(小)乱れ打ちバージョンで消しとばしたのは帝国の一部なわけですしね。
未だ静かな夜、とはなりませんね。アンデットいるし。まだあちこちで光が輝いているのを見ると戦いは続いているのでしょう。
「で、どう思います? 勇者様」
私は下敷きにしている勇者へと語りかけます。
「……」
と言っても返事返ってこないんですがね。血溜まりができるほどの出血、それに加えて魔力枯渇になっているようですし時折死にかけの魚みたいにビクンビクンと動いてますから死んではいないようですがね。
こいつもつくづく悪運が強い奴ですよね。
城ではどこでも自爆くんに巻き込まれたにも関わらず生き残り、さらにリリカビームを喰らって今も生き残ってるんですから。
「勇者ってゴキブリなみの生命力を持つ人を指すのかもしれませんね」
『やだなぁ、そんなのが勇者なんて』
くーちゃんがとても嫌そうな顔をします。
「まぁ、それは否定できませんわね」
とても嬉しがっているような声が夜に響き、そちらを見ると手に大きな宝石のついた杖を手にしたシェリーがいつも通りのメイド姿のアリエルを背後に控えさしこちらに向かってきていました。
「やっぱり生きていましたか」
「なかなかに肝を冷やしましたよ? アリエルがいなければ死ぬところでした」
そう言いシェリーは背後のアリエルへと振り返ると、アリエルは小さく頭を下げます。
「お嬢様をお守りするのが私の責務ですので」
そう淡々と言うアリエルな服と右腕だけが焼けただれたようになってはいますがそれ以外に目立った外傷は見られません。そして庇われたらしきシェリーには傷などは一切見られませんでした。
「魔族ならそうやすやすとは死なないんでしょう?」
「……」
適当に言った言葉が聞こえたのかシェリーの顔が笑顔で凍りついたかのようになります。背後のアリエルはなぜか戦闘態勢を取り始めていました。
「いつお気づきに?」
「いや、適当に言っただけなんですけどね」
まさかこんなあっさりとわかるとは思ってませんでしたよ。
「ヴィツーもそうでしたが魔族とは随分と人間社会に馴染んでいるようですね。あんまり興味はありませんが」
「あら、魔族は嫌いかと思いましたが?」
意外そうに聞いてきますが別に私は種族で差別するほど他の種族を知りませんからね。精々、里にいた時に友好のあったドワーフと人間くらいです。
「魔族だからなにか違うんですか? 死なないと言われてた魔族のヴィツーも死んだようてすし不死ではないんでしょう?」
夜も更けて大分眠気が強くなってきたので欠伸をしながら尋ねます。
「本当に興味がないんですね」
「今のところはですがね」
大体面倒なことに首をつっこむとろくなことがありませんしやりたくありません。刺激的でたのしいのは歓迎ですが面倒は嫌なのです。
『自分で起こす分にはいいの?』
「それは別腹です」
自分でやる分には我慢できますが人にやられると非常に嫌、というか不愉快なんですよね。
『じこちゅーだなぁ』
ちょっとわがままなだけなんですけどね。
「で、その杖は? 皇帝が持っていたものですよね?」
私が気になったのはシェリーが手にしている杖。おそらくはあの大きな宝石が魔の欠片だてて推測しますが。
「こちらは魔の欠片ですわ」
予想通りだったようです。そしてシェリーは笑顔のまま杖をこちらに放ってきます。放物線を描きながら私の方へと飛んできた杖を片手で受け取りシェリーの方を見ると今までと同じ何を考えてるのかわからないような笑みへと戻っていました。
「あなたの戦果ですので」
「拾ったのはあなたでしょう?」
「あなたが持ってい方がよいと思いますよ」
「ふーん」
くれるというのであれば貰っておきましょう。私は手元で遊んでいた魔の欠片をシェリーからもらった魔の欠片がついた杖を空に放り投げ魔ノ華を抜きます。
「たべていいですよ」
私が許可を出した瞬間、刃が二つに分かれ顎のようななると魔ノ華はかぶりつくかの様に|二つの魔の欠片を喰らい尽くしました。魔ノ華が震え私に魔力が流れ込んでくるのがよくわかります。
「これで三つ」
あとひとつ手に入れれば七つあるうちの半分以上を手に入れたことになります。魔王復活を阻止しようとしている人の野望を潰すにしても魔王復活を目論む魔族を邪魔するにしても楽しくなることは間違いありませんね。




