あなたの速いんですね
「うーん、力が漲るのは五分くらいですかね」
背中の魔力の羽が霧散し、自分の肌が元のエルフ特有の白い肌へと戻っていくのを確認しながら私は自身の力が上がっていた時間を推測します。
褐色であった肌は薄まって元の肌に戻ったわけではなく私が自分で突き刺した部分に向かい薄くなり、複雑な記号や文字らしきものへと変わり私の胸元に褐色の紋章のようなものが刻まれます。
「おー、こんなこともできるんですね」
胸元の紋章をペタペタと触りながらそこに軽く魔力を流してみると体に力が漲る感触がしますね。これは魔力を使えばもしかしたら膂力だけ上がるかもしれませんね。魔ノ華を突き刺すという工程は意外と面倒ですし、力押しで行ける時はそっちの方が良さそうです。
「で、いつまで倒れてるんです? 勇者様」
『え、生きてんの⁉︎』
驚いたような声のくーちゃんとは対照的に私はめんどくさげに視線を背後にやります。そこには瓦礫を押しのけながらこちらに向かってくる傷だらけの勇者様(笑)の姿がありました。
「あの魔族は!」
血走ったような眼で周囲を見るカズヤに呆れながら私は下半身だけとなりころがっているヴィツーを指差します。
「死にましたが?」
「は? 魔族だろ?」
「さぁ?」
魔族とかの見極め方なんて知りませんしね。彼は私に言わせれば自称魔族といったところでしょう。もしかしたら魔族もどきかもしれませんが。
「魔族は聖剣でしか倒せないって聞いたんだが?」
「魔剣でも斬れちゃいましたね」
実際には魔力を使ったリリカビームを使ったんですが些細な問題でしょう。ですが、
「そんなことは問題ではないんですよカズヤ」
カズヤに笑みを浮かべながら私は魔ノ華の柄を握りしめ、再び刃を夜の空へと晒します。
ああ、今の私は自分でもよくわかるくらいに興奮している。だからこそ一度収めた刃を再び抜き放ったわけですが。
「カズヤ、先程のダンスの続きをしましょうか」
月の光を反射させる切っ先を揺らしながら私はカズヤに告げます。対してカズヤは顔を顰めてこちらを見ていました。
「お前、魔力酔いしてるだろ?」
「酔ってはいませんが? お酒飲んでないですし」
ただただ気分が高揚しているだけです。こんな気分は初めてなんですよ。
『ねえねえ、魔力酔いってなに!』
「さっきの馬鹿みたいに魔力が上がったのってそいつだろ? 一時的とはいえ許容量以上の魔力を身に宿してたから魔力に当てられてハイになってるんだよ。大体は時間が経てば治るらしいんだが……」
「いきますよう?」
カズヤが何かくーちゃんと話をしていましたが今はそんなことよりも私と踊ってもらいましょう。滑るようにしてカズヤの懐へと入り込んだ私はダンスの続きを舞うかのようにカズヤの首へと刺突をかましまします。首を横に振ることで避けたカズヤですがそんなものは予想済み。実験の意味も兼ねて胸元の紋章へと魔力を流し込み、腕に力が入るのを確認。同時に腕力に物を言わせ刺突をカズヤの首を落とすべく斬撃へと軌道修正を行います。
「踊りにしては過激だな!」
無理やり軌道を変えたせいで速度が下がったのかその一瞬の隙をつくかのようにカズヤが魔ノ華を振るう私の手を下から拳で突き上げ、刃は空を切ります。
「さすが」
素直に賞賛の言葉を述べ、私は体を回転。後ろ回し蹴りを今度は無防備な腹へと叩き込むべく放ちます。しかし、それは大地に突き立てられた聖剣の腹に阻まれ失敗に終わります。いかに力を手に入れても聖剣を砕くほどの膂力はないようです。
刃を引き、後ろに下がりながら魔ノ華を再び構えます。
「結構速くやったと思うんですがまだあなたのほうが速いんですね」
魔華解放ではないといえかなりの力で放った蹴りを意外と余裕で止められたことに少しだけイラつきます。
「いや、結構ギリギリなんだが……」
同じように地面から引き抜いた聖剣の切っ先を私に向けながら言ってきます。
「というかお前どんだけ魔力取り込んだんだ?」
「さあ〜?」
問いの答えなどは自分でもわからないので軽く流します。
そして魔ノ華を数度振るい感触を確かめます。確かに言われる通り体に魔力が満ちすぎていますね。魔ノ華へ魔力を流し続けているにも関わらずに、です。
「今の過剰な魔力量ならできるかもしれませんね〜」
音を立てるように刃から魔力が溢れ出る魔ノ華を眺めながら思案します。
これほどまでの過剰な魔力。以前から考えていた戦い方なあったのですが私の魔力が足りなさすぎて結局廃案にした戦い方。
それを試すとしましょう。




