古代魔導具
「では今からムトゥの森に突撃したいと思います!」
『「わーい」』
パチパチと言うマリーとくーちゃんの手を音が私の耳に届きます。
「本気でノープランで行くんですか……」
対してげんなりとした表情を浮かべるアレス。初陣の時のようにガタガタとは震えていることはありませんが慎重なところは変わりませんね。危機を感じる感覚は壊れたと思ったんだけど。今度は完全に叩き潰す必要がありますね。
「フランの言う通り三人集めましたしね。これで行けます」
今私達がいるのはムトゥの森の手前。先ほどから何組かのパーティが森に入って行ってますがどのパーティも重武装ですね。みんなマリーの背中の剣を見てギョッとしていますね。
「一応マリーの武器を確認しときたいですが? 流石にその聖剣で戦うわけでもないでしょう?」
動くだけで吐血しているのだ。この森に来るまでにも何回吐血しているか。歩きながらテンテキとか言うパックから血を供給している始末です。
見るからに何も持っていないマリー。いえ、腰に小型の魔法のカバンを付けていますので武器がないと言うわけではないでしょうが。
「まさか〜 ありますよ〜」
のほほんと笑ながらマリーは腰の魔法のカバンから短剣を取り出し、鞘から抜き放ちました。
「柄だけ?」
アレスの疑問は私も思ったことでした。
マリーが抜きはなった短剣には刃は無く、マリーの手元には柄だけしかなく肝心の刃が見当たらないのです。
「ふふーん、これは古代魔導具の一つ『血剣』よ」
「古代魔導具!」
誰でも使える魔法道具と違い所有者を自ら選ぶという古代魔導具! 本で読んだことはありましたが実物は初めて見ました! ですが……
「なんかしょぼいですね」
素直な感想を言うことにする。
するとマリーは指を振りながら笑います。
「ふふーん、見た目で決めてはいけません。ですが先に見した方が早そうですね」
そう告げるとマリーは一歩前にでる。これによりムトゥの森に一番近いのはマリーになった。
「あ、後ろも危ないので少し離れていてくださいね」
マリーの忠告を受け私達は後ろに下がる。マリーは血剣を手元でクルクルと回し遊んでいたマリーが柄を握る。
すると柄を握っている彼女の手からポタポタと血が流れ、柄を伝っていた。
「マリーさん! 血がでてますよ⁉︎」
「ん〜? ああ、問題ない問題ない」
アレスが慌てるがマリーは全く慌てていなかった。相変わらずゆるい笑顔を浮かべている。
そうこうしているうちに結構な量の血が流れているがその血は一滴たりとも地面に流れ落ちることなく柄よりさ先に刃の形を形成していた。
「こんなものですかね」
マリーが血剣を軽く振るっているが血で作られた刃は一切形を崩さないみたいですね。
「不思議だね」
『不思議ー』
「くーちゃん、あれどういう原理なの?」
『んー不思議原理?』
くーちゃんにもわからないと。古代魔導具とは謎の多いものが多いようです。
「ではいきますよ〜」
マリーがゆるい掛け声とともに血剣を横に振るう。
瞬間、マリーの振るった剣の刃が消えたように見え紅い閃光が疾る。
しばらくはマリーは血剣を振り抜いたままの姿勢でいたがすぐに構えをとき、こちらを振り返った。
「こんなものですかね〜」
「なにも起こってないようだけど?」
マリーはただ剣を横に振るっただけだ。他に変化は見られません。いえ、よく見ると微妙に違います。
血剣が再び柄だけになっていました。
「血剣の刃はどこに?」
「ふふーん」
私が尋ねるとマリーは誇らしげなか胸を張り、後ろのムトゥの森を指差した。私、アレス、くーちゃんがムトゥの森を注目した瞬間、景色がズレた。
前面に広がっていた木々が轟音を立てながらゆっくりとした動きで巨木が次々と倒れて行く。
『「「おお!」」』
轟音が鳴り止んだ時、マリーを除く私達三人は感嘆の声を挙げました。
前方の木々がまるで刈り取られたかのように倒れていたからです。
随分と見晴らしがよくなりましたね。
「地面から一アメル上の高さで振り抜きましたからね。ゴブリンとかオーガがいたら死んでますわ」
「すごいすごい! どうやったんです⁉︎」
私は飛び跳ねるようにマリーに近づくと尋ねる。
一体なにをしたのか気になって仕方ないのだ。
「そういいましても、全部これの能力ですよ」
マリーは微笑みを浮かべながら古代魔導具血剣を見してくれました。
「古代魔導具血剣の一つ目の能力は『自身の血を剣として使用する』なんですよ」
なるほど、だから自分の血が刃になっていたのか。よく見ると切断された木々の断面が真っ赤なのは血で切断したからなのか。でもそれだけじゃこんな森林破壊はできないと思うんだけど?
「二つ目の能力は『形を変化させることができる』です」
「形を変える?」
「さっきの剣を振るった時は糸状にしたんですの、強度は魔力を込める量次第で変わりますしね」
なかなかに便利な道具なんですね。
この調子で森を文字通り切り裂いてもらいましょうかね。
服汚れるの嫌ですし。雑魚もついでに殺っちゃってもらいましょう。
「じゃ、この調子で森を切り開いちゃってください!」
「そうしたいのは…… 山々なんですが……」
『フラフラ?』
くーちゃんが言ったようにマリーの足元がおぼつかない。押したらそのまま倒れてしまいそうだ。
「この古代魔導具、大変使い勝手がいいんです。鍵とかも開けれますし、でもひたすらに血を使うだけなんですぐにひ……」
言葉の途中でバタンと音を鳴らしながらマリーは地面に倒れた。背中から倒れたので聖剣の柄が地面に当たりめり込んだのかマリーは口から血を吐き出します。
慌てて、アレスとくーちゃんが近づいていきます。
「生きてる?」
「生きてます。幸いにも頭とか打たなかったみたいなので」
『なんで倒れたの?』
なんとなく予想はつきますね。血を使う古代魔導具、衝撃を与えられると吐血する聖剣。
つまりは、
「貧血。戦えば戦うほど血を失うわけですね」
古代魔導具の破壊力と使い勝手の悪さにため息をついたのでした。
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