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エルフさんが通ります  作者: るーるー
別大陸編
209/332

あ、死にましたかね

「あっつ!」


 光の本流からはなんとか躱せましたが熱量が半端じゃありません。夜にも関わらず周囲を昼のごとく照らしてきます。


「あれも魔法ですか?」

『多分、光魔法だと思う』


 私の呟きにくーちゃんが答えてくれます。光魔法、やばい威力ですね。直撃していないにも関わらず周囲を凄まじい熱気が漂っています。

 光魔法の威力に愕然としていると何かがひび割れるような音が耳に入ります。そしてその音がなる方へと向き直ると私は眉をひそめ舌打ちをします。


「さいあくですね」


 直撃をしていないのにも関わらず、あまりの熱さでヴィツーを覆っていた氷が溶けてることなんですよね。

 音を立てながら氷が割れるごとにヴィツーが負っていた傷が修復されていくのを見て私はため息をついてしまいます。せっかく追い込んだのに。


「形成逆転だなぁぁぁぁぁぁぁ! エルフゥゥゥ!」


 禍々しい笑みを浮かべ再び六本となった振りかざしたヴィツーが姿をみせます。


「負ける勝負とかしたくないんですが?」


 逃がしてくれる様子など微塵も見えないのでとりあえず魔ノ華(マノハナ)を構えます。もう魔力なんて欠片もないんですがね。


「にがすわけ、なぁぁぁいだろぅぃがぁぁ!」


 こちらに迫りヴィツーの速さは先ほどの倍以上に速くみえます。単純に強化が切れたからでしょうが魔力が切れ、強化をしていない今の私の目で追うのがギリギリすぎます。


「しねぇ!」


 次々に繰り出される拳を魔ノ華(マノハナ)で仕方なしに迎撃するべく踏み出しますが完全に力負けしてしまいます。刃を振るうも拳に弾かれ、拳を防ぐも軽々と吹き飛ばされます。逃げようとしても向こうはひたすらに距離を詰めてくるので戦うすべがないに等しいです。


「……ム!」


 再び私の耳が何かの言葉を捉え先程と同じ悪寒に晒されます。それはヴィツーも同じだったのか慌てたようなは私と距離をとります。私もまた後ろに飛びますが同じタイミングで光の本流が着弾。容赦のない熱気が私の体を襲います。


「あっづぅ⁉ っていうかイダァ⁉︎︎」


 しかし、完全には躱すことはできず光魔法が私の腕を掠めます。

 炙られる魚の気持ちが今だけわかりました。熱いより痛みが先にきてるような感じです。というかこの魔法使った奴、誰なんですかねぇ!

 痛みに堪えながら光魔法が飛来した方角へと目を向けます。どうやらヴィツーも同様で気になったようでそちらに目をやっていました。

 そして私とヴィツーの視界に入ってしたものは。

 ボロボロの礼服に身を包み、

 馬鹿みたいに大きな剣を肩に担ぎ、

 闇のように黒い髪を夜風になびかせ、

 顔や手を煤まみれにしながらも好戦的に笑う、


「よう! 危機一髪だったな! ロリエルフ!」


 自称勇者で腹ただしく存在を認めたくない者、カズヤの姿がありました。


『リリカ、ピンチだったの?』


 本人的にはかっこよく現れたつもりであるということを読んだくーちゃんが私にだけ聞こえるような声で囁くように聞いてきます。が、


「いえ、全く。苦戦はしていましたが余裕でしたよ。誰かさんが横槍に光魔法さえ撃ってこなければね!」

「ははは! 照れるな照れるな!」


 多少、というかほぼ全力で言った皮肉でしたがこのバカには全く効果がないようです。


「まぁ、そこで見てな! この勇者たるカズヤ様が華麗にこの魔族をぶった斬るところをな!」


 背中の大剣を引き抜き、構えながらカズヤは笑います。それが不快に感じたのかヴィツーが体の向きを私からカズヤの方へと向けていきます。


「たかだか人間が魔族に勝つだと?」

「ハッ、人間なめんなよ? お前もそこらのアンデッドどもと同じように真っ二つにしてやるよ」

「ちょっと待ってください、あなたアンデッド斬ってここまで来たんですか?」

「おう! 大半は斬り捨てたぞ。残りはフィーやヴァンに任せてきた」

「……」


 ゆ、勇者とはここまで規格外だったんですか。騎士たちが敵わないことから考えてアンデッド達はそこそこ強いと思っていましたがここまでとは。というかフィー姉さんが出たらアンデッドもひとたまりもありません。


「それに俺には聖剣と聖剣技勇者ビームが……」


 カズヤが技名らしきものを口にした瞬間。聖剣が周囲の光を喰らったかのように眩く輝きます。そして光は刀身を滑るように移動し、切っ先へと集まり、爆発します。

 聖剣の切っ先から放たれたのは光の塊。それめ恐ろしいまでの密度を持った魔力です。おそらくはあれがくーちゃんが言っていた光魔法なんでしょう。光魔法は破壊の光となって突き進みカズヤの前方で構えを取っていたヴィツーへと迫ります。が、ヴィツーも警戒するかのようにカズヤを見ていたため不意打ちのような攻撃にも反応。易々と躱し、光魔法は背後の建物に直撃し、光を弾けさしながら建物の壁を突き崩し瓦礫の雨を降らします。


「やっば、これ技名言うだけで発動するのか……」

「な、なんで危険なものを使ってるんですか! このバカ勇者が!」


 所有者であるカズヤが呆然として聖剣を見ていることと発した言葉に私は恐怖を覚えます。

 武器の性能を知らずに使うとか怖すぎますよ!


『リリカもそれの使い方分かってなかったじゃん』

「私、今死にそうになったんですけど? というか今も死にそうなんですけど?」


 瓦礫の雨は勢いを増し、下手をすれば死ぬレベルです。体が痛みすぎて身動きがとりにくくて仕方ありません。ヴィツーもカズヤの方を脅威と見たのか私への警戒はほぼなくなりましたし、とりあえずは安全なところへいかないと。


『リリカ! 危ない!』

「危ないのこの場所です! 今の私なら容易く死にますよ!」

『上! 上!』

「上?」


 慌てたように言うくーちゃんの言葉に従うように頭上を見上げます。するとそこには明らかに私より巨大な瓦礫が落ちてくるところで。


(あ、死にましたかね?)


 この状況へ陥った原因である勇者へと憎しみを燃やしながら、私の意識はあっさりと暗転するのでした。

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