では解放しましょう
「さてさて、命乞いの時間になりましたね?」
私は手にしたヴィツーの腕を軽く振り、そして笑いながら顔以外が凍りつき恐怖の色を浮かべるヴィツーへと近づいていきます。
どうやら魔族が死なないと言っても傷口などが凍りつくと再生はされないようですね。再生しているならとっくの昔に攻撃してきているでしょうし。
「こ、けちらにさ交渉の……」
「まぁ、命乞いは聞く気がありませんので」
「……」
交渉の準備? いやいや、そんなものしりませんよ。
「あなたには私の質問に答えていただきます。それが私の納得のいくものであれば考えてあげてもいいですよ?」
ペチペチと彼の腕で氷漬けとなったヴィツーの腕を叩きます。
「何が知りたいのだ」
「おや、協力的ですね? てっきり「くっ! 殺せ」とでも言うと思ってたんですが」
まぁ、素直なことはいいことですよね。
「まず一つ目です。あなた、魔の欠片を体の中に入れてません?」
『んー? どういうこと?』
「言葉通りです」
おそらくは私の感じた通りならばヴィツーの体の中には魔の欠片が必ずあるはずです。
「魔ノ華がこいつの体に当たるたびに喜ぶかのように震えるんですよ」
初めは手の痺れかと思いましたがあの震えは明らかに違います。あれは確実に魔ノ華が喜んでいましたから。そしてよくよく考えればヴィツーの部屋にるはずかね魔の欠片が部屋に入った時点で魔ノ華が反応しないのがおかしいのです。ゼィハの所で魔の欠片を見た時、魔ノ華は私の制止を聞く前に黒靄で食べて? しまいましたから。部屋の中にあれば即座に食べると思うんですよね。ですが食べなかったところを見ると。
「食べれない場所にあった、これが一番しっくりきます」
『なるほど!』
「で、もう一度聞きますがあなた魔の欠片とやら持ってるんですか?」
持ってないなら砕いて確かめるだけです。持ってても砕きますがね。
「た、確かに俺の体の中にある」
震えるような声で教えてくれました。いやぁ、大の大人が子供に怖がってちゃだめでしょ。ですがなんですかね。怯えた目で見られると背筋がゾクゾクします。
「そうですか。では二つ目の質問です。魔の欠片とはなんです?」
『魔王復活のために必要なんじゃなかったっけ?』
「シェリーの話ではそうですよね。だったら妙なんですよね」
『どういうこと?』
「たぶんですがこの国の皇帝が持っていた杖についていた宝石。あれがおそらくは城にあると言われていた魔の欠片なんですよ」
どこでも自爆くんの目から見ただけでしたが明らかに普通の宝石ではなく魔力を放っていました。何も情報を得ていない状況であれば王家に伝わる何かと判断していてもいいでしょう。ですがシェリーはあの城に魔の欠片があると言いましたからね。その時点で疑問だったんですが。
「魔王を復活させるために魔の欠片を集めるというのは特に問題はないんです。問題なのはある場所ですよ」
『場所?』
「魔の欠片とやらが魔王を復活させるための物ならもっと厳重に封印なりなんなりされないとだめでしょ?」
『あ!』
ゼィハの所にあったものはダンジョンの中とはいえほぼ放置されていました。ですがダンジョン内ということを考えればまだギリギリで許容できます。ですが魔王を復活さすためのアイテムを皇帝がアクセサリー感覚で杖に組み込みますかね? だからこそ魔の欠片は魔王を本当に復活さすものなのかという疑問が出るんですがね。
「で、魔の欠片の正体は?」
魔ノ華の切っ先をいつでも突き刺せるようにしながらヴィツーの解答を待ちます。
しばらく沈黙していたヴィツーですが私がイラついているのがわかったのかため息をつきます。
「……魔の欠片が魔王復活に必要なのは本当だ」
「質問の答えになってませんね」
私は笑うと魔ノ華を握る腕に力を込めると氷漬けのヴィツーの体に突き刺さります。
「ま、まて! 説明する!あれは、魔の欠片は魔王の魂だ!」
「魂?」
また非常に面倒そうですよね。というか魂って割れるんですか? 固形化できるんですか?
「そうだ! 昔勇者と戦った際に魂が七つに砕かれたと聞いている! それを集め魔王を復活させるのが黒の群勢の目的だ!」
「ふむ、確かに筋はとおります」
ですがなんとなく違和感は残るんですよね。何がと言われると何かは言えないのですが。
『でも魔の欠片はリリカの武器が食べちゃったじゃない?』
「……そうですね」
食べたというか吸収したというかなんとも言えませんが。
というか食べても問題ないんですかね? 魂って。魔剣だから問題ないのかもしれませんが私に何か起こったりするとやですし。
「最後の質問です。器の資格とやらに覚えは?」
「器の資格だと?」
ヴィツーの反応を見る限りでは知っている感じはしませんね。となると用済みということになります。
「大変参考になりましたよヴィツー」
私は一礼し、手にしていた魔ノ華を大きく振り上げます。ただし、ヴィツーには氷の死角で見えないような位置でですが。
「こ、これでも俺は解放されるのか?」
どこかホッとしたような声色のヴィツーですが何を言ってるんですかね? 解放はしてあげますよ。ただし、生きることからですがね。
「では解放しましょう」
そう告げると手にしていた魔ノ華を氷漬けのヴィツーに向け躊躇いなく振り下ろします。
「……ム!」
なにやら声が聞こえた瞬間、ゾワリとしか表現のしようのない悪寒が体を覆います。無理やり振り下ろしの途中であった魔ノ華を止め、反動で痛む体を無理やり押さえ付けて後方へと全力で下がります。刹那、私のいた場所にある目も眩むような光の束が叩きつけられ視界を遮られるのでした。




