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エルフさんが通ります  作者: るーるー
別大陸編
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たぶん、おそらく、きっと

「近くで見ると恐ろしいまでの威力ですね」


 私は赤い火柱が上がり続けるカジノ上層を見上げながらそう一人口籠ります。ゼィハから譲り受けたどこでも自爆くんの予備を使ったはいいですが火力が魔石以上とは恐怖しか湧いてきませんよ。

 遠目で見たときは小さな爆発にしか見えませんでしたが近くで見ると想像以上ですし熱気がなかなかにヤバいです。


「さて、これで死んでるならそれはそれで楽なんですが」

『魔族はすごく強いんだよ?』


 多分死んでないんでしょうねぇ。多少のダメージは期待したいとこですが。そう考えていると立ち上がる火柱の中から何かが飛び出してきました。それはくるくると回転しなかまら私の目の前へと着地し、軽く地面が揺らしたために私はたたらを踏んでしまいます。

 煙を上げながら私の前に立つのはやはり軽々とは死んではくれない魔族ヴィツーでした。ただし、炎で炙られたせいか無傷とは言い難い姿です。瞳にだけは殺意が色濃く出ていますが。


「キサマァァァァ!」

「あー、完全に魔族になりましたね」


 先ほどまでは体の部分だけは人間のような姿でしたが今は六本の腕同様に完全に別物へと変わっています。やたらと筋肉質です。腕でさえ魔ノ華(マノハナ)で断ち切ることができなかったんですがあれ、斬れるんですかねぇ?


「くーちゃん、補助を」

『りょーかい!』


 すでに私自身の魔力は底をつきかけてますし、くーちゃんの補助魔法がある間に決着をつけないと勝ち目がありません。


「ガァァぁぁあぁ!」


 獣のような咆哮を上げながらヴィツーがこちらに駆けながら拳を放ってきます。こちらも魔ノ華(マノハナ)を使い軌道を逸らしますが軽くかするだけでビリビリと刀身と私の手に痺れが走ります。それとは別に魔ノ華(マノハナ)が歓喜を表すように震えます。一本でそれです、あと五本とか。


「面倒極まりないんですが……」

『頑張らないと死ぬんだよ⁉︎』


 刃と拳がぶつかるたびに衝撃波のような物が放たれ地味に痛く、徐々にこちらが後ろに下がるようになってきました。


悪食アグラニ


 このままでは押し切られると判断した私は魔ノ華(マノハナ)の能力を発動。背中に黒翼を生やし、魔力を喰らう靄を纏わした魔ノ華(マノハナ)を今度はこちらから打ち付けていきます。幾度と打ち付けていき、焼き爛れたヴィツーの腕を削るように肉片が宙を舞います。


「ん?」


 しかし、魔ノ華(マノハナ)を振るっている最中に違和感に気づきます。斬撃は確実に通り、ヴィツーは傷を増やしていっています。ですが、私の背中の黒翼が全く大きくならない(・・・・・・)

 つまり魔ノ華(マノハナ)は魔力を吸えていないということになります。それに気づいた私は一瞬体の温度が下がったかのような感覚に襲われます。

 魔力が吸えないと魔力がなくなってこの戦闘自体がまずい。

 すでにくーちゃんの強化魔法を使って戦っている現状では力押しで勝つか小細工で撒くかしか方法はないわけですが。


「ひじょーに面倒」

『ねぇ、魔力がつきそうなのになんでそんな余裕なの⁉︎』


 ヴィツーから放たれる拳を払う払う払う、たまに喰らう。エルフの服の効果でギリギリのところで戦っているようなものです。拳を受けるたびに体に鈍い痛みがひびきます。


「頑丈なエルフだな」


 こちらを殴りつけながら楽しげに口元を歪ませてきます。非常に性格が悪いです。

 振るう刃と拳が幾度となく交差する中、ヴィツーの拳がついに私の肩を打ち、魔ノ華(マノハナ)を持っていない腕から確実に何かが砕けるような音が響きます。その音を聞くと同時に熱さを感じる痛みが襲ってきますがそれよりも頭に血が上り、笑みを浮かべているヴィツーの目に向け切っ先を向けると残りの魔力を注ぎ込み刀身を伸ばし目玉に突き刺します。


「あがぁぁぁぁぁぁ⁉︎」


 私を突き飛ばすようにして離れたヴィツーは血を流す瞳を抑えながら悲鳴を漏らします。

 突き飛ばされた私はゴロゴロと地面を転がり壁にぶつかりようやく止まります。体のそこいら中が痛む中私は地を吐き出しながらも笑みを浮かべ体を起こします。


「知ってました? 瞳って強化してもよく見えるだけで防御力は上がらないんですよ? ぐはぁっ」

『リリカ⁉︎』


 慌てたようなくーちゃんを手で制し、咳き込むと口からさらに結構な量の血が出ます。

 突き飛ばすと表現しても魔族の力は凄まじいもので胸に拳を食らったのと同じくらいの衝撃ですね。というか絶対骨が折れてます。


「きさまぁぁぁ! コロスコロスコロス」

「なんと言うんでしたかね? あ、バリエーション? ヴィツー、あなた言葉のバリエーションが少ないですよ」


 吠えるように同じ言葉を叫ぶヴィツーですが、言葉と共に見えない衝撃波っぽいものが放たれているみたいでやたらと傷に響きます。

 傷の具合でいくと私の方が酷いくらいですし。


「仕方ない、やりたくありませんが賭けにでますか」

『大丈夫なの?』

「魔力は空に近いですがたぶん、おそらく、きっと……」

『不安しかないよ⁉︎』


 まぁ、人生に確実なんてものはありませんし。ですがあまりにも分が悪いのも確かなんですよね。

 こちらに鬼気迫る勢いで突進をかけてくるヴィツーを見ながら私は痛む傷口をおして立ち上がるのでした。

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