服が汚れそうな気がするんです
「キシャァァァァァァァ!」
「ふんぬ!」
奇声を上げながらこちらに向かってくるスケルトンに向かい私はぽちを横薙ぎに振るい、直撃したスケルトンは体の一部分を砕かれながら壁へとぶつかり沈黙します。
「自分で作ったものですが非常に面倒な薬ですね」
今や街の至る所で死者が生者に襲いかかるということが引き起こっているようです。あちらこちらでは悲鳴とうめき声が重なり合い悪魔などが喜びそうな負の音楽が演奏されています。
「言うならば今の帝国は魔都といったとこでしょう」
隣で私同様にスケルトンやグールを蹴散らしていたゼィハが呟いた言葉に私は頷きます。
魔都、言い得て妙ですね。
この帝国はかなりの高さの城壁に囲まれている巨大な国ですが内部と外部を繋ぐ門は四つしか存在しません。そしてその門は夜になると鐘の音と共に閉じられるということは帝国に来て数日の私でも知っていることです。
「現状、このこの帝国は陸の孤島となったわけなんですよね」
外からの攻撃を防ぐための堅固な城壁が内からの攻撃が発生したために仇となっているわけなんですよね。
なによりゾンビ、グール、スケルトンが発生した場所が悪いです。
スラムと騎士団の詰所。
前者は街の端の方にあるため被害は街の中心に向かっていくでしょう。そして後者の騎士団の詰所。これらは五つあり、そのうち四つは全て門の近くに配備されているわけです。
唯一外とつながっている門の近くに発生したモンスター、しかもそれが五つのうち四つの付近から光や爆音が響いているのがわかります。そのせいで完全に外に逃げるという選択肢を封鎖された帝国。いまや完全に死の都となっているのです。いやぁ、人の腐敗って怖いものです。
「ぁぁぁぁぁぁ」
「キシャァァ」
「ひぃぃぃぃ!」
「た、助けて!」
雄叫びと呼んでいいのかわからないような声を上げながらモンスターの一団が悲鳴を上げ逃げ惑う住人に襲いかかります。スケルトンに殺された住民はまだ救いがあると言えるでしょう。殺されるだけなんですから。グールに捕まった人は生きたまま食べられてますし、
ゾンビに噛まれた人間は暫くすると噛んだゾンビ同様によくわからないうめき声を上げながら生者を襲い始めていました。
「薬としては成功かな?」
「国を滅ぼすような薬を作り出しといて軽いですねぇ」
近寄ってくるスケルトンやゾンビを棍棒状に変化さしたぽちで殴りながら呟くとゼィハがげんなりしながら返事を返します。
襲ってくるモンスターには斬撃の効き目が薄いんですよね。なにせ腕や足を斬っても進んでくるんですから。スケルトンに至っては斬りにくいんですよ。
結果、
「ほーむらぁぁぁぁん!」
私は声を上げながら前に立つスケルトンの顔面にむけぶっとい金属の塊と化したぽちを力任せに振り抜きます。
ぽちを顔面に受けたスケルトンの頭はカコーン! という軽快な音を鳴らし、骨の破片を飛び散らせながら夜の空に飛び立ちました。頭のなくなったスケルトンがオロオロとしているところに再びぽちを振りかぶり叩きつけます。完膚なきまでに体が砕かれたスケルトンはもはや動くことができないといった有様です。
「ゼィハゼィハ! スケルトン私が相手するのであなたはゾンビとかグールとか担当にしません?」
「なんで! ですか?」
手にした杖を使いゾンビの頭を叩き割っているゼィハが聞き返してきます。頭を潰した拍子に飛び出した血が私の方に飛んできたので慌てて避けます。
「なんかゾンビとかグールとか潰したら血が飛んできて服が汚れそうな気がするんです!」
「自己中心的すぎますよ!」
言いながらゾンビやグールを殴打するゼィハ。私は飛び散る血だかなんだかわからないものを避けながらもスケルトンを破砕していきます。
「さっさとカジノに向かいますよ。できればカジノ内も死で充満していれば尚のこといいですね!」
「…… リリカさん、あなた本当にエルフですか? 発言聞いてると悪魔にしか思えないんですが」
『悪魔だよね』
「まだ薬余ってますが飲みますか?」
魔法のカバンから骨人薬が半分以上入った瓶を見せると二人は引きつったような表情になりました。
「なんなら少し……」
「さ! とっととカジノに向かいますよ!」
『そうだね! 急ごう!』
私の言葉を遮りゼィハとくーちゃんが前に出ます。
そして進む速度が異様に上がりました。ついでに蹴散らされるモンスターの数も増えました。
「この調子ならすぐですかね」
悲鳴が音楽として鳴り響く夜の中、私はそびえ立つカジノの姿を見て笑みをこぼすのでした。




