お金がないから契約だ!
「な、なんですの? 」
「こんにちは、マリー?」
血反吐を吐きながらも意識を取り戻したマリー? に私はにこやかに挨拶をします。
「え? あ、こんにちは」
まさか普通に挨拶が返ってくるとは思いませんでした。これはおもしろい。
「えっとあなたは?」
「私の名前はリリカ・エトロンシア。こっちは私の契約精霊クーデルハイトナカトランバルティア」
『え?』
くーちゃんが唖然とした顔で私を見てきます。くーちゃん、くーちゃんはニックネームなんだよ? ちゃんとした名前はクーデルハイトナカトランバルティアなんだから。
「はぁ、精霊さんですか? わたくしには見えませんがよろしくお願いします」
くーちゃんは見えないようですがきっちりと挨拶をするあたりが好印象ですね。
「確認しますが、あなたが『ブラッディマリー』?」
「そんな大袈裟な二つ名が付いてはいますがそうですね。『ブラッディマリー』ことわたくしがマリー・ナザフロクスです」
礼儀正しいこんな子が冒険者によく知られている『ブラッディマリー』ですか。
「少しお話ししても?」
「どうぞ」
笑顔を浮かべながら椅子を勧めてきます。
「で、その背中の剣は? なに⁉︎」
私、気になります!
いや、私だけでなくこのギルドにいる人達全員が気になっているはずですよ。
「背中……、ああ、わたしの背中の に突き刺さっている聖剣ですね」
「やっぱり聖剣なんですね!」
くーちゃんもなにかいるみたいなことを言ってましたし、是非抜いて見たいものですね。
「この背中の剣は我がナザフロクス家代々に受け継がれてきた聖剣ですの」
「由緒正しきってやつですね。でもなんでその聖剣が背中に?」
そういうやつは基本的に家に飾られてるイメージかあるんですけど。私の家にも魔槍だかなんだか知りませんが先祖から受け継いでる槍が飾られてましたね。
するとマリーは恥ずかしそうに頬を染めながら、
「実は剣術の練習中に背中に突き刺さってしまったんです。しかも普段は飾ってある聖剣で練習している時に」
どんな練習したら聖剣が刺さるんだろ?
「しかもコレ抜けないんですよね〜 はやく抜きたいんてすけど、引っ張っても抜けないんですよね〜」
なんだろう、このへらへらとした生き物は。行ってる言葉の割に深刻度が全く伝わってこないな
「なによりこの聖剣が背中に刺さってから不幸の連続ですしね〜 両親は流行病で亡くなりましたし、投資に失敗して借金だけが膨らみましたし、わたくしの家は没落しちゃいましたし、わたくし自身は危うく奴隷になるとこでしたし、まぁ、しようとした輩にはそれなりの痛い目を見ていただきましたが」
なにやら奴隷とかいう不穏な単語が飛び出しましたね。
「でも剣刺さってても生きてるからいいんじゃないの?」
「嫌ですよ〜 考えてみてください〜 寝返り打つたびに吐血するんですよ? 朝起きたらベッド血の海なんですよ? おかげで安眠できませんよ〜」
「そのわりには肌ツヤとか血色とか良さそうですよね」
『ねー?』
アレスとくーちゃんが疑惑の目を向けてきてますね。
その視線に気付いたのかマリーはポンと手を叩きます。
「それはですね。あまりに貧血になりすぎるのでわたくし、自分で輸血ができるようになりましたのでそのおかげですわ」
「「『輸血?』」」
「たりなくなった血を再び体にいれる医療行為ですわ」
医療行為? 初めて聞きましたね。
「とりあえず、わたくしはこの背中の聖剣を抜く方法を探しているんですわ」
「なにか当てが?」
私の言葉を聞いたマリーは首を横に振る。これはチャンスですね。目的があるけど手段がない。これはパーティに入ってもらえるかもしれません。
「なら私達とパーティを組まない? あなたが入ってくれれば変異種のミノタウロス狩りのために森に入れるの!」
「その気持ちは嬉しいんですが、お恥ずかしいことにわたくし今は宿をとるお金も持ち合わせていませんの。ですからまずはお金を貯めないといけませんの」
だからさっき果物を値切ろうとしていたのか。
お金か。
わたしは横にいるアレスをちらっと見るとその視線に気が付いたアレスは警戒しながら後ろに下がります。勘がいいですね。
「ならばなおのことパーティを組みましょう! 乱獲です! 森の生態を崩す位の乱獲を三人でするのです!」
『乱獲です!』
お、くーちゃんもノリノリですね。ミノタウロスを探しながらムトゥの森の深部を目指していけば戻る時にはボロ儲けですね!
「魔物狩りですか、確かに儲けはよさそうですね」
マリーも少しノリ気になってきたようですね。
「でパーティの取り分なんですけどね。私、アレス、マリーで七:一:ニでどうでしょう?」
「わたくしに入る報酬が少なくありませんか?」
「ちょっとリリカさん⁉︎ ボク一ですか⁉︎」
ふむ、マリーとアレスが同時に文句を言ってきましたか。
「ふふ、冗談ですよマリー。報酬は五:五、これならば文句はないでしょう?」
「あら、なんて素敵な報酬なんでしょう」
「あの〜 ボクの報酬はどうなるんでしょう?」
さて何が不服なのか。とりあえずアレスだから無視しても問題ないかな。
「その条件なら喜んでお受けさしていただきますわ」
満面の笑みを浮かべたマリーの瞳には『金』という文字が見えた気がするけど気のせいだと思います。
「契約ですわ。わたくしとあなたが組む限り、いえ、お金が支払われる限りはわたくしは裏切りません〜」
そう言いながらマリーは右手を私に差し出してきた。私も右手をだし、がっしりと言う音が聞こえる握手を交わす。
『人族は笑顔で握手をしながら反対の手では武器を持つのじゃ! by長老』
長老の言葉を思い出しながら私はニコニコと笑うマリーと握手を続け眺めるのであった。
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