ぶれいこうってなんです?
「ぷふ〜 いいダンスだったわね〜」
音楽がとまり、ダンスが終了したため私とカズヤの死の舞踏は終わり、フィー姉さんやヴァンがいるところへと戻ってきました。
楽しくて仕方がないといった様子でフィー姉さんは笑い、ヴァンもボロボロになっているカズヤを見て暗い笑みを浮かべていました。どうみても同じパーティの仲間とは思えないリアクションです。
「フィー、お前の里ではダンスとかどうやって教えてるんだ?」
疲れたようなカズヤが未だに笑っているフィー姉さんを睨みつけるようにしながら尋ねます。
「里ではダンスなんて教わりませんよ?」
「はぁ? でもお前ステップ踏めてただろ?」
私が答えると眉をひそめながら言い返してきます。
「ダンスというかさっきのはエルフ式戦闘術で習う足運びですよ」
きちんとできなかったら足の骨が砕かれるくらいの打撃が容赦なく飛んできましたからね。最低限度は使えるようになりましたし。
「エルフって知識の生き物だと思ってたけどお前やフィーを見てると血の気が多い奴らにしか見えないよな」
「私は弱い方ですけどね」
ぽちがなければ魔法とか連発できませんし。なにより私の使う主体武器は弓ですし。
逆に言えば魔力と闘気を自在に使えるフィー姉さんは凶悪極まりないんですけどね。
「はぁ、知的なエルフって奴に会ってみたいぜ。あと男に免疫がなかったら尚いいな」
「知的なエルフ……」
カズヤの言葉に里の面々を思い出しますがどれもイマイチですね。
薬屋のズンフィーアは内気でしたが自分の薬でバカみたいに強くなることができまし。引っ込み思案のタンタルシャも武器を握ると人が変わるように暴れん坊になってました。
「フィー姉さん、エルフの里には知的なエルフいないかもしれませんね」
「いまさらね〜」
カラカラとフィー姉さんは笑います。うん、確かにエルフの里にいるみんなは人族の妄想から作られた知的なエルフ像とはかけ離れたかけ離れた位に血の気が多くて暴力的です。
「やはり夢は夢なんですねぇ」
「はい」
なんだかんだで死の踊りをしたので喉が渇いたのでヴァンが差し出してきたジュースを受け取り喉を潤します。
あー、程よい冷たさが心地いいですね。
「はは、勇者殿の周りは多彩な華で彩られておりますな」
ある程度喉が潤ったタイミングで煌びやかな服装をした長い髭が特徴的なおじいちゃんが大きな宝石を付けた杖を付きながらゾロゾロと行列を作るように人を引き連れこちらに向かい話しかけてきました。その宝石のついた杖を見た時にゾワリとした感覚が体を走ります。
「これは陛下」
周囲で談笑していた人たちもそのおじいちゃんを見た矢先に深々と一礼しています。
つまりは偉い人なんでしょうね。
「そんな礼をするでない、今日は無礼講じゃ」
ちょっぴりうんざりしたように周囲に言うおじいちゃん。
ぶれいこうってなんでしょうか。
「ねぇ、フィー姉さん」
「ん〜 なぁに?」
「ぶれいこうってなんです?」
近くでニコニコと笑いながら立つフィー姉さんにわからない言葉を聞きます。
「ん〜 無礼なことを言っても許されるのよ〜」
「なるほど」
無礼な事。つまりは失礼な事をしても良いという事ですね?
「おう、陛下。陛下も綺麗所連れてるじゃねえか」
「ははは、勇者殿の華には負けますが儂も一応皇帝なんでな」
「護衛の剣聖は?」
「あいつなら傷が治ると同時に女を口説きにいったわい」
そう楽しげにカズヤに返しながらその周りにいる私、フィー姉さん、ヴァンに目を配ります。未だに食事を続けるククには視線を全く向けていませんでしたね。
「勇者殿、こちらの可憐な華はどなたであるか? 先ほどは見事なダンス を踊られており親しげに話をされていたようだったが、以前紹介されたお仲間の中にはいなかったようだが?」
おじいちゃん、いえ、どうも陛下と呼ばれているところからこの国のトップのようですが。
「こいつは俺の未来の嫁の予定だ!」
「ほう!」
「あぁ?」
「あらあら」
皇帝からは感嘆の、私からはドスの効いた、フィー姉さんからは笑ってるがやばい声が上がります。
いい笑顔でわけのわからない事を抜かすカズヤの前に私が、そして背後には笑顔のフィー姉さんが立ちます。
そして特にアイコンタクトなどをとる事なく、皇帝には見えないような微妙な位置に拳を叩き込んでいきます。前と後ろからほとんど同時と言えるタイミング放たれた拳を防御などできるはずもなくカズヤはくらい小さく「ごはぁ!」といい悶絶。糸の切れた人形のように倒れ込みます。
「あらあら、カズヤったらお酒の飲みすぎかしら?」
「ええ、フィー姉さん、こいつはゴミとして処…… どこかに寝かしつけましょう」
「そうね、処分してくるわ〜」
ずるずると動かなくなったカズヤを引きずっていきながらフィー姉さんがフロアを後にします。
後には唖然とした様子の皇帝とその取り巻きが残されました。
「髭さんががこの国の王ですか?」
「そうだが?」
髭呼ばわりが癇に障ったのかと思いましたがどうも私に話しこられるとは思っていなかったような反応です。
「街であなたの噂をよく聞きました賢王だと」
「ははは、そこまで大層なものではないよ」
朗らかに笑った賢王の顔を見た瞬間、私の体が私の意志とは無関係に腕が動き皇帝の腕を掴みます。
「な、なんじゃ」
突然腕を掴まれた事に驚いていますが私もかなり驚いているんですよね。勝手に手が動いて。
「あ、握手的な?」
「そ、そうか」
とりあえずは当たり障りのないように返答をしますが、その間も私の
両手は皇帝の手を握りしめ拘束します。
(いや、対象がまさか向こう側から接触してくれるとは。あのバカな勇者には感謝をしなくちゃいけなくなったじゃないか)
自身の中から自分の声が聞こえてきたことに私はおどろきます。
(とりあえず、対象を固定ね)
皇帝を掴む手により力が入り逃さないようにしているようです。
(さて、実験開始だよ)
聞いた事がある声、そして聞き慣れた声が悪意のこもった笑い声が聞こえると共に私は体が膨らむような感覚と同時に視界が白い閃光に包まれたのでした。