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エルフさんが通ります  作者: るーるー
別大陸編
197/332

理想と現実は違うものです

「お、ちびすけじゃないか!」

「ちっ!」


 見たくもない人物、カズヤを視界に入れてしまったことに私は軽く舌打ちをします。きっちりとした服、おそらくは人の里では正装と呼ばれるような服装をし、両の手で美女をはべらしながら登場する様は全くもって勇者のようには見えません。


「あなたみたいな勇者はさっさと死ねばいいんですがね」

「あって速攻で罵倒って酷くない⁉︎」

「ねー勇者様〜、この子は?」


 やたらと不快な香水の匂いをまき散らし、カズヤがはべらしている女の一人が私を指差し尋ねてきます。

 なんというか人を指差すとか無礼の極みじゃないですかね。


「あいつはフィーの妹さ。ああ見えてかなり強いぞ」

「戦ったことないのによくわかりますね」


 はべらしていた女性二人を離し、手を振りながら別れを告げているカズヤを睨みつけるようにして眺めます。


「しかし……」


 顎に手を当て私の体を上から下までじっくりと眺めてきます。

 あまりの居心地の悪さに私は自然と腕で体を隠すようにしてしまいます。


「お前、本当にちびすけか?」

「私がリリカじゃないとしたらなんなんですか」

「いや、ちびすけにしては胸が……」


 最後まで言わすことなく拳を振るいます。しかし、それは軽いバックステップで躱されてしまいます。忌々しい女の敵め。


「ははは! 冗談だ冗談」

「黙れ、女の敵め」


 憎々しげに睨みつけますがそれもニヤニヤとした気持ち悪い笑みを浮かべたカズヤには全く効いてる様子はありません。


「一曲踊っていただけますか」


 それどころか一礼し差し出された手をじっと見つめます。正直、手なんて取りたくないんですが。


「ここでこれ断るとカズヤに興味津々の女性に絡まれるわよ〜?」

「はぁ〜」


 フィー姉さんの言う通り私へ集まる視線は素晴らしいほどに友好的なものではなく敵意に溢れているものでした。

 仕方なしという感じにため息を一つ零します。


「隙あらば殴りますよ?」

「え、踊るだけなのに⁉︎」


 急いで作ったにこやかな笑みを浮かべ差し出された手を取ります。カズヤに手を引かれ音楽の鳴り響くフロアの真ん中へと歩みます。

 周囲が和やかなムードで踊りあい、微笑み合っている中、私とカズヤはまるで今から決闘をするかのようにして手を組見合い、そして立ち会います。


「ダンスの経験は?」

「踊る最中で組敷けばいいのでしょう?」


 笑い返すと引き攣ったような笑みを返されます。そして曲が終わり、少しすると再びゆったりとした曲、ですが先ほどよりは早い感じの曲が流れ始めます。


「ふ、」

「しっ!」


 動いたのは同時であり手を取り合いながら動きます。外からはそう見えるでしょう。しかし、実際のところは手を取り合うまでで五度の手のはたき合い、そして動き出した瞬間には足払いの応酬があったことに誰が気づいたでしょう?


「なんて華麗なるステップ!」

「あれほどの足運びでも全く上体がブレてないわ!」


 的外れな感想が耳に入りますが今はそちらに目を向ける余裕はありません。

 周囲がゆっくりと揺れるように動く中、私とカズヤだけは高速で動きます。大ぶりの蹴りなどは使わずに相手の動きを止めるべく足を踏み抜くが如くやたらと踵のヒールが尖った靴を繰り出していきます。

 カズヤがステップを踏みながら私の足技を交わすたびにヒールが床を撃ち、カッカッカッカッカと軽い音がリズムよく響き渡ります。


「ち!」

「あまいあまい」


 軽口を叩いてきますが心なしか顔が青い気がしますね。容赦はしませんが。

 カズヤがお返しとばかりに周りのダンスと同様に動きながら魔力を放ちながら蹴りを繰り出してきます。カズヤの手を無理やり跳ね上げ、私は回転。横に動くようにして蹴りを躱します。

 二人で手を離し、離れるようにして回転、フロアから離れたところで給仕をしているテーブルに近づいた時に机に備え付けられているスプーン、フォークなどを失敬します。

 さらに回転を増しながら再びダンスフロアでカズヤと合流。増した回転力を加え失敬したばかりの手にしていたナイフを振るいます。もちろん、首筋狙いの鋭い攻撃です。ですがその攻撃も予想していたかのように私と同じく回りながらダンスフロアに戻ってきたカズヤは容易く阻みます。見ると彼の手にも私が失敬した物と同様のナイフが握られておりそれで防いだようです。


「やりますね」

「……ねえ、普通に踊らない?」

「踊ってますよ?」


 あなたを殺すための踊りですが戦闘舞踊と考えればこれも確実に踊りのはずです。


「違う…… 俺の考えてた女の子とのダンスと違う……」

「理想と現実は違うものです。で、さっさと殺られてください」


 諦めたような失望したようなよくわからない顔をしながら未だに踊っているカズヤに私は自然未だ隠し持つナイフやフォークを振るうのでした。

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