一発で捕まりそうですがいいですか?
「別名貴族の見栄の張り合い場とも呼ばれていますわ」
「呼び名からして嫌すぎる」
なんなんですか。見栄の張り合い場って。明らかに真っ黒そうな場じゃないですか。
とりあえずは軽く流し読みをしてみますがわからない言葉が多数、それにやたらと堅苦しい書き方をしているようです。そして一応最後まで読みきるとこのぶとうかいが今日行われ、さらにはあと三時間後に始まるということがわかりました。そして、最後に書かれている名前に眉をしかめます。
「このサンクロレディア・トーレスって誰です?」
「ああ、私の偽名の一つですわ」
「偽名…… 一体いくつの顔と名前を持ってるんです?」
「女は秘密がある方がモテるんですわよ?」
オホホホと朗らかに笑いながら他にも偽名を持っているような事をあっさりと認めるシェリーに呆れてしまいます。ですがよくよく考えるとこいつは騎士の国パラディアンでも姫という身分を詐称? していたような気がしますし、まだ幾つも知らない名前や顔を持っているのかもしれませんね。
「それでサンクロレディアさん宛にきたぶとうかいの招待状が私になんの関係が?」
手紙の宛名はサンクロレディア、つまりはシェリーなわけですから私には関係ないはずなんですが。
「その招待状では他の方も誘うことができますのよ。ですからリリカさん。あなたも一緒に行っていただきますわ。なんならついでに腹黒からの依頼を済ましていただいても構いませんわ」
「なるほど暗殺をする絶好の機会というわけですか」
以前言っていた策というのはこのことだったわけですね。
「ついでに剣聖と夜を共にしてきてもいいんですよ?」
「なんの罰ゲームですか?」
悪戯をほのめかすような言い方で言ってきますが私とビーチが付き合うようになる可能性はないでしょう。
「あの方は今帝都にいる唯一の剣聖。皇帝のいる場には必ず現れますわよ?」
「えー」
話の通じない相手との会話ってつかれるんですけどねぇ。
しかし、改めて聞くと確かにこのぶとうかいはチャンスかもしれません。なにせ名前しか知らない暗殺対象がわざわざ私の眼の前に姿を現してくれるわけなんですから実に好都合でしょう。
「で、行かれます?」
「行きましょう」
再び尋ねてきたシェリーに私は渋々ながらにうなずきます。使えるものは使っといたほうがいいでしょうしね。
「ですが、準備が有りますからまたギリギリに迎えに来てくれませんか?」
やれるときにやるのが私の性分ですし準備は万端とはいかずともそれなりにしていきたいものですし。
「向こうで準備できないものですか?」
「騎士団に見られたら一発で捕まりそうですがいいですか?」
頭のスッキリする薬は街では違法だったらしいですからね。あれが可愛いくらいに見える薬が大量に魔法のカバンの中にははいっていますからね。
問いただされると面倒極まりないと思うんですが。
「……ギリギリに迎えに来ましょう」
私の言葉に若干顔を引きつらせながらシェリーは了承しました。
さて、準備を急がないといけませんねぇ。