意外と小さな理由でしたね
「お前は馬鹿か! 人があれだけいる中で暗殺なんて言葉を口にするとは!」
「ああ、悪いことという事は理解してるんですね」
目を覚ますと見たことのない部屋にいました。どうやらヴィツーの私室らしきところまで引き摺られてきた私ですが焦る様子のヴィツーの姿を見て思わず顔がにやけてしまいます。
「ふん、やはりあの女の仲間だな。面白いやつではあるが思考が最悪だ」
ヴィツーは吐き捨てるように呟きます。
あの女とはシェリーのことでしょうか? 確かに彼女は性格が悪いですからね。
『リリカも大概だよ』
「ははは」
しかし、予定外ではありましたが目的は果たせました。
ため息をつき、椅子に音を立てながら座り込んだヴィツーは鋭い眼光をこちらに向けてきます。
「それで、お前は本当に何の用で来たんだ?」
「遊びにって睨まないでくださいよ。ただでさえ人相が悪いんですから。そんな顔子供に見られたら泣かれますよ?」
「余計なお世話だ」
ふむ、意外と気にしているのかもしれませんね。
「すいません。多分見慣れたら愛らしい顔ですよ?」
「疑問系で言うな。しかも妙なフォローはいらん。用件を言え」
かなりイラついているようですね。あまり弄るのはやめておきましょう。
しかし、別に用件などないんですがね。向こうが勝手に何かあると思い込んでいるだけですし。しいていうなら疑問が一つくらいですが。
「用件というほどのことでもありませんがね。質問があるんですよ」
「なんだ?」
「どうして頭の悪い方の皇子に付いたのでしょう?」
昨日の情報収集でわかったのは王位継承権を手に入れるのに近い派閥は三つ。第一皇子派、第一皇女派、そして第三皇子派。
この中でヴィツーが付いているのは第三皇子派と呼ばれる派閥でしょう。
「ほう?」
興味を持ったのかヴィツー瞳に好奇心の色が浮かび始めます。
「昨日、情報収集していると第一皇子、皇女は賢王の血筋と呼ばれるほどの才能を発揮しているようですね」
あげられる話は全ていかに第一皇子、皇女が素晴らしかという話ばかりでした。
「しかし、第三皇子は全く話題に上がりませんでしたしね」
街で聞く話かぎりでは話題に上がるのは第一皇子、皇女ばかりで第三皇子の話などは一切上がりませんでしたしね。
「むしろ悪評としてしか上がりませんでしたよ」
「ふん、あの小物ではそうだろうよ」
え、自分で支援している人を馬鹿にしました?
『ねぇ、あなたは第三皇子に皇帝になって欲しいんじゃないの?』
「精霊よ。俺が見ているのは皇帝になるまでの道筋ではない。皇帝にした後の道筋だ」
「ん?」
今は皇帝にしないといけない時期のはずじゃないんでしょうか。
「疑問か? だが正直な話、あの愚か者たる第三皇子を皇帝にすることなど容易いんだよ」
「金の力を使えばな」と悪人特有の嫌な笑みを浮かべています。ああ、この人、やっぱり顔同様に悪人ですね。
「金で解決って悪どいですね」
「俺から言わせればかなり平和的なものだ。誰も損をしないものだろう? 金で解決できるのであればな」
深々と椅子にもたれ込みながら告げるヴィツーを見ながら私は感心します。
「なるほど、これが平和的な解決ですか」
暗殺よりも確かに楽ですね。お金の使い方も覚えていかないといけませんね。
『いや、ちがうよ?』
「そうですか? 平和的ですよ?」
「さて、俺が馬鹿を支援している理由だったな」
あ、答えてはくれるんですね。悪役というのはどうも隠し事が多いせいか仲間内にはおしゃべりな輩が多い気がします。
秘密って隠していても話したくなるものですからね。
「馬鹿の方が御しやすいからにきまっている。馬鹿は使い方によっては有能だ。逆に言えば賢いものほど御しにくい」
「名君のほうが御しにくい?」
よくわかりませんね。名君のほうが国は栄えると思うんですけど。
「国が栄えようがどうでもいいんだよ。ようは俺が儲かるか儲からないかだ」
「その言い方だと馬鹿のほうが儲けれそうな言い方ですね」
「ああ、名君の場合は不正が効かない堅物の割合が高い。だが馬鹿ならば……」
「好きなだけ不正ができると?」
「ああ、金、女、人によっては武器や美術品などを贈れば大体はうまくいく」
机から何かを取り出し口にくわえると手慣れた動作でおそらくは火魔法を使い火を灯すと口から美味しそうに煙を吐き出します。
「だからこそ馬鹿を支援する。ついでに言うと第一皇子は俺の仕事を邪魔してきたから必ず嫌がらせをしてやる」
「意外と小さな理由でしたね」
復讐心? のような物をふつふつと溢れ差し出しながら笑うヴィツーに小物臭を感じ取った私は曖昧な笑みを浮かべるのでした。