とりあえずは凄く貴重なものなんですね
「さて、美少女。どうします?」
「だからさっきも言いましたが未定です」
部屋から出てしばらくし、またカジノの喧しい喧騒が響く中、シェリーが尋ねてきます。
個人的には受けても構わないんですけどね。
「仮に受けるというしても色々と用意してもらわないといけませんね」
仮に暗殺するとして必要なものは情報です。皇帝のいる予定、よく行く場所、寝る時間などと必要なものはかなり多いのです。以前魔剣を盗みに入った時のようにはいかないでしょう。あの時は魔石をばら撒きながらの陽動という名の奇襲をしていましたからね。できたら欲しい魔石です。
「その点は心配ないでしょう。ヴィツーはこの国の裏から多少は操れる方ですから」
「悪役ですか?」
「いえ、ただの腹黒ですわ」
よくわかりませんが口を挟まないでおきましょうね。
「では私からの要件をお伝えしますわ」
くるりと振り返りシェリーは指を軽くパチンっと音を鳴らします。すると一気に周りから音が消えます。
「音が消えた?」
「御安心を。ただ盗み聞きなどをされないように魔法によってちょっと空間を切り離しただけです」
魔法ってそんなことまでできるんですね。便利ですねー、私はそんな魔法なんて使えませんが。
「また古代魔法! あなた、なんなんですか?」
ああ、普通の魔法ではないわけですか。
ゼィハが興奮したかのように声をあげシェリーを見やります。それに対して「ただの淑女ですわ」と返すシェリーですが答えになっていませんね?
「私からの要件はシンプルですわ。魔の欠片についてです」
「ほう!」
ようやく黒の軍勢としての仕事の話ですね。と言われても妨害側ですが。
「まずは魔の欠片についてですが実はよくわかっていません。かつて勇者が魔王を滅多斬りにしてバラバラにした肉片とも言われていますし、粉々に砕かれた魂とも言われていたりと曖昧です」
とりあえずは魔王という存在が勇者に恨みを抱いてもおかしくない位にはいじめ抜いて殺されていることはよくわかりました。
「古代の文献によるとバラバラ、もしくは砕かれた欠片は全部で七個。つまり全て集めると魔王が復活すると言われているわけです」
「……確定ではなかったんですね」
不確かな噂話と言えるレベルで運営されている組織ってどうなんでしょうか? もしでまかせであった場合は想像もつきませんが。
「というかそんなことが記されている書物があること自体が驚きです」
「そうなんですか?」
部屋に入った時から今までほぼ発言していなかったゼィハが口を挟みます。
私が聞き返したことに対してゼィハは軽く頷きます。
「はい、魔王などの記述はおおよそのものは禁書指定されてますからね。ごく一部の物を除いてほぼ焚書です」
「ふーん」
ふんしょってなんでしょう? よくわかりませんね。
「とりあえずはすごく貴重なものなんですね」
「貴重ですが持っているのがバレたら即抹殺されるくらいのやばいものです」
それは危ない。ですが非常に興味がそそられますね
「ふふ、ならば私の依頼を受けていただけるならば差し上げましょう」
私の好奇心を読んだかのようにしてシェリーが妖艶に微笑みながらなにもない虚空へと手を伸ばします。すると腕が滲むかのように消え、軽く引くような素振りを見せると彼女の手の中には古ぼけた本が一冊収まっていました。
「これが魔王についていろいろ書かれている禁書指定の本ですわ」
「ほほう!」
『気持ち悪い!』
ゼィハは興奮気味に、しかし、くーちゃんは嫌悪感を隠そうともせずに叫びます。
くーちゃんが叫んだ理由はおそらくは魔力が見えたのでしょう。私の瞳には泥のように粘つくような魔力が本の周りに漂っていますからねぇ。
呪われているのは明らかな品です。しかし、私がその本を視界に入れた瞬間に腰のぽちがぶるりと震えました。
「リリカさん! あれは凄いです! 古代魔導具なんて目じゃないくらいの魔力の塊ですよ!」
「それはわかるんですけどね」
ゼィハは目をキラキラさしながら呪いのアイテムを見ています。
「なら私の依頼をいいましょう。私の依頼はこの帝国にある魔の欠片を二つ回収してもらうことです」
「この国に二つあるんですか?」
「ええ」
にこやかに笑いシェリーは肯定します。
「なんでとらないんです? 黒の軍勢にとられると面倒でしょ?」
「いろいろとありますのよ。なによりある場所が面倒なんですよ」
「場所が面倒?」
「ええ、ですから私の代わりに取ってきて…… いえ、盗ってきてくれれば差し上げますよ」
なんだか物騒な文字に変わった気がしますね。なによりシェリーは無自覚でしょうが顔が笑っています。つまりは碌でもないのでしょうね。私は一つ大きなため息をつくと気だるげにシェリーを見やります。
「で、その場所といいのは?」
「はい、その場所というのがですね……」
シェリーが笑いながら告げる場所にやっぱり私は大きくため息をつくのでした。