子供でもできるんですねぇ
「こちらですわ」
シェリーに案内されたのは明らかに今までいた場所とは違うところ。おそらくはカジノの裏側なんでしょう。表の喧騒が聞こえなくなっておりかなり静かなところです。
無機質な廊下をシェリーに続き歩き、彼女が一つの部屋へノックをします。
「入りますわ」
相手の返事を待たずにすぐさまにドアを開け、シェリーは中に入っていきます。アリエルも特に咎めることなく主に続き部屋の中へと入ります。
「ノックの意味あるんでしょうか?」
『ないんじゃかいかな?』
廊下で立ち尽くしているわけにもいかないので私たちも後を追い部屋に入れてもらいます。
中にはすでにソファーに座っているシェリー、そしてその後ろにはアリエルが立っていました。そして執務机のほうには厳しい顔をした男が手を組んで座っていました。
魔力とは違う、なんというか威圧感があります。そして腰のぽちがカタカタと揺れるのがわかりました。警戒? してるんですかね。
「これは黒薔薇の。こんなに早く来るとは。連絡の一報でも入れてくれれば迎えを寄越したものを」
「ええ、青薔薇。ずる賢いあなたからの頼みですもの。一応聞いておこうかと思ってね」
シェリーがにこやかな笑顔を浮かべ、明らかに喧嘩を売っているような口調で告げます。瞬間、部屋の温度がわずかに下がったような気がします。一触即発といった雰囲気です。やはりこの子は生粋のサディストですよね。人をいじるときは顔がイキイキとして輝いています。
「そちらのエルフとダークエルフは?」
ぎろりと音がなるような鋭い眼光をメガネの奥から私とゼィハに対して放ってきます。見ているというよりは睨みつけているといったほうが正しいでしょう。
「私の派閥、黒薔薇の新たなメンバーですわ。青薔薇は以前のパーティにはいらしていませんでしたから知らなくてもおかしくはありませんわね」
「ほう、それが鬼エルフか」
「それ私のことを指してます? 指してますよね⁉︎ あと変な呼び名で呼ぶ前に自分の名前を名乗ってください」
まさかドラクマで広がってる悪名がここでも聞かされる羽目になろうとは。
「ほう、噂の鬼エルフに礼儀を問われるとは。やはり噂とは誇張されて流されるもののようだな」
「何気に失礼ですね! 私はこう見えてエルフ界の淑女と呼ばれて…… おい、そこ! 『え⁉︎』みたいな顔で私を見るんじゃない! 嘘だけど傷つくんですよ!」
なぜか仲間のほうから『え?』といった視線を向けられました。私ほど麗しの淑女はいないでしょうに。…… 淑女の意味知りませんが。
「ふん、君はもう少し自分の破天荒さを理解したほうがいい。他にもいろいろと呼び名はあるんだぞ?」
鼻を鳴らしながら青薔薇と呼ばれた男は柔らかそうな椅子へともたれ掛かります。
「ちなみにどういったのがあるんです?」
好奇心には勝てず恐る恐るといった様子で私は尋ねます。するとシェリー同様に意地の悪そうな、かつ人をいたぶるような笑みを浮かべ向けてきます。
「俺が聞いたことがあるのは『破壊エルフ』『殺戮エルフ』などだな」
「か、可愛いのが一つもない」
「ですが、リリカ。諦めましょう。やってきた内容を考えると事実でしょう?」
「ぐぅ!」
いや、そんなに酷いことをしてないよ? 多分……
「城を半壊さしたり、ドラゴンと戦ったり、エルフ軍とやりあったりとするのはエルフの中では普通なのかね?」
「……あなた嫌な性格ですね」
もう、きらいになりましたよ。この人はきっと人の弱みとか握って強請るタイプですよ。
「はは、嫌われたようだ。ああ、名前がまだだったね。俺の名前はヴィツーだ。黒の軍勢では青薔薇に所属している」
「青薔薇ねぇ」
どうやら黒の軍勢の中の派閥は薔薇の色で分けているようですね。面倒なことです。
「黒の軍勢には幾つの派閥があるのですか?」
ゼィハが私が同様に疑問に思ったことを尋ねてくれています。あんまり数が多いと覚えきれませんからね。
「派閥は多数ありますが大きな派閥は三つですわね」
いつの間にかお茶の準備をしていたのかアリエルから湯気の立つティーカップを受け取っていたシェリーが答えます。
「大きな派閥は赤薔薇、青薔薇、そして白薔薇ですわ。そこにいるヴィツーは称号は『腹黒』。青薔薇の幹部です」
「おい、称号で呼ぶな『お嬢様』。俺は称号が好きではないんだよ」
「あ、私『美少女』なんで」
「……お前、その称号恥ずかしくないのか?」
またですよ。また呆れられるような眼を向けられましたよ! 私ほどの美少女がどこにいるというのですか!
「美少女を甘く見てはいけませんわよヴィツー。この方は道化師をぶち殺した方ですよ」
「ぶち殺した言わないでください」
「ほう、道化師を? あれは一応は白薔薇の上位であろう? それをぶち殺すとは」
「だからぶち殺した言わないでください!」
こいつら、人の話を聞く気がありませんね!
『リリカが言い負かされてるよ』
「多分自分と同じ人の話を聞かないタイプに弱いんですよ」
後ろの二人も好き放題言ってやがりますね。
「ヴィツー、あんまり弄ると美少女が怒りそうだからこれくらいにしておいて」
あなたもなんですがね⁉︎ 自覚していただけませんかね!
「ふむ、それもそうだな」
ヴィツーもやはり私をからかっていたんですね。なんて奴です。私はヴィツーを睨みつけますが彼はどこ吹く風と言わんばかりに無視。神妙な顔になりながら腕を組んでいます。
「簡単な話だよ。貴様ら黒薔薇に依頼したいことがあるからだ」
「なにかしら?」
カップをソーサラーの上に乗せた音だけが部屋に響き渡る。そして訪れたわずかな静寂を破るかのようにして。
「簡単な依頼だ。子供でもできる簡単なものだ。この国の、帝国の国王を暗殺してほしいという簡単なものだよ」
爆弾発言が投下されたのでした。
子供でもできるんですねぇ。暗殺って?