すさまじく信用の欠片も置けないような名前は⁉︎
「目が痛い」
『耳が痛ーい』
「鼻が痛いです」
カジノと呼ばれる建物に入った瞬間。私、くーちゃん、ゼィハの三人は場所は違いますが痛みを訴えます。
カジノの中はとりあえず端的にいうと非常にうるさく、目にこれでもかというほどの光源を浴びせ、おそらくはいい匂いだったはずのものがたくさん集まりすぎて凄まじいまでの不快感の匂いが生じています。
「それにしてもよく皆さんこんな空間にいらっしゃいますね。薬でもやってるんですか」
『え、なにそれ怖い……』
ゼィハの呟きに反応したくーちゃんが慌てたように口元を押さえます。確かにここにいる人立達は皆、目の色が違いますね。なんというか欲望の塊のような感じです。
「ふふ、確かに薬と言えば薬です。…… ゲホゲホ」
「お嬢様、こちらを」
話している最中に咳き込んだシェリーにアリエルがすぐさま何かを手渡します。
「ありがとう、アリエル」
「いえ」
一礼して再び影のように控えるアリエル。そしてゴソゴソとアリエルから受け取ったものをつけているのでしょうか。こちらからは背中をむけられているのでわかりません。
「おまたせしました、行きましょうか」
「……なんなんですかそれ?」
振り返り何事もなかったかのように話してきたシェリーですが今の姿は違和感の塊で到底無視できるものではありませんでした。
「なんのことです? シュコー」
首をかしげるシェリーですがその表情は全く見えません。なぜなら彼女の顔を覆い隠すようによくわからないマスクのようなものが装着されていたからです。口元にはまたよくわからない器具が付いていてシュコーシュコーという音が聞こえます。これは呼吸音?
「そ、それは古代魔導具の一つ! 呼吸快適くんでは!」
「え、なんですかそのすさまじく信用の欠片も置けないような名前は⁉︎」
ゼィハが羨ましがるような眼でシュコーシュコーと音を立てているシェリーを見ています。
なんなんでしょう。実はゼィハは美的センスが壊滅的にないんじゃないでしょうか? いや、センスがないのは古代魔導具を作った古代の人かもしれません。
「その形、色合いといい素晴らしいセンスの一品ですね」
「ふふ、さすがはダークエルフ。この古代魔導具の形の美的センスがわかるとは。そうこの古代魔導具、呼吸快適くんはいかなる環境でも快適に新鮮な空気を吸えるという素晴らしい健康古代魔導具なのです」
「なんと!」
なぜか意気投合している二人。このことから古代人のセンスが悪いのと二人のセンスが悪いという可能性が出てしまいましたよ。こちらのことを気にせずに談笑をし始めてしまった二人から視線を外し、シェリーの後ろに控えているアリエルをそっと見ると、
「時代がお嬢様のセンスについてきてないだけなのかしら? でもあのゼィハとかいうダークエルフの娘も素晴らしいと言ってましたし……」
なにやら悩ましげな様子です。どうやらまともな感性の持ち主は私以外にもきちんといたようです。
「シェリー、気分よく話しているところすいませんが早く話しのできる場所に連れて行ってください」
怪しげな機械から響く大きな音とその前にいる人たちの歓声や悲鳴に不快感を感じた私はこの場を離れるべくシェリーに声をかけます。
「おおおお! 7がこないぃぃぃぃぃ!」
「あと一回目、あと一回だけ回したらくるはず……」
「財布の中が空だわ! 誰が盗ったの!」
悲鳴の割合のほうが多くなってきましたね。皆さん目が危ない色を変えたたえてますし怖いです。
「そうでした。ゼィハさん、古代魔導具についてはまた後日に」
「ええ、楽しみにしています」
ガシッと音がするような握手をかわす二人。
なぜか生まれた奇妙な友情を私は複雑な心境で見つめるのでした。
『センスが微妙な二人だね!』
「……だまってたのに言うんですね」
空気を読まないくーちゃんの言動に私はただ諦めたようにため息を一つつくのでした。